コンピュータ診断支援とAIが融合するAI-CAD時代が到来、医療AIの最前線に迫る医療AIウェビナーレポート

医療分野におけるAI活用に向けた開発が加速している。中でもコンピュータ診断支援(CAD)とAIを融合した「AI-CAD」への期待は大きい。NVIDIAのウェビナー「医療AIの社会実装への加速―多様化する医療機器ソリューションへの提案―」では、AI-CADの最新動向をはじめ、医療AIの現状や将来、またAI実装に役立つ最新情報などが紹介された。

» 2021年04月14日 10時00分 公開
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 近年、AI(人工知能)やディープラーニングを活用した医療機器、検査機器などの研究開発が加速し、その応用範囲は広がりを見せている。中でも1998年に初めて商用化されたコンピュータ診断支援(CAD:Computer-Aided Diagnosis)は、AIと融合した「AI-CAD」へと進化し、さらなる飛躍への期待も大きい。

 これらAIを活用した医療機器の進化を支援するNVIDIAは2021年3月11日、ウェビナー「医療AIの社会実装への加速―多様化する医療機器ソリューションへの提案―」を開催。医療AIの現状や将来、またAI実装に役立つ最新情報などが紹介された。本稿では、AI-CAD研究の第一人者である岐阜大学工学部 特任教授/名誉教授の藤田広志氏による基調講演を中心に同ウェビナーの講演レポートをお送りする。

AIと人間が相互補完する「AI-CADの時代」が到来

岐阜大学工学部の藤田広志氏 岐阜大学工学部 特任教授/名誉教授の藤田広志氏

 藤田氏の講演テーマは、ずばり「AI-CADの現状と将来について」である。

 CADに関する研究には長い歴史があり、まだ写真がフィルムだった1960年代から、すでに医用画像解析/自動診断の研究が行われている。1960〜70年代はCADにおける黎明期ながら、胸部X線写真やマンモグラフィの正常/異常分類などの論文も発表されていた。

 1980〜90年代は成長期。1984年ごろ、シカゴ大学で、コンピュータによる支援診断のための研究が本格的にスタートした。研究開始から10年後には、臨床でテストできるシステムも誕生。実験室レベルではあるものの、CADを用いた放射線科医の診断が、放射線科医単独での診断と比べてより良い結果を得られることを世界で初めて検証した。

 1998年、米国で初めて商用CADが登場し、実用期がスタートする。最終的な診断は医師が行うが、CADを病変の検出をサポートするための第2の意見として用いる「セカンドリーダー型」といわれる使われ方だ。この時代は約20年間続き、その間、FDA(米国食品医薬品局)の承認を受けた商品も相次いで登場。特にマンモグラフィCADは、2000年に医療報酬請求が可能になったこともあって普及し、2016年時点で、米国検診のマンモグラフィの約92%で使われているという。しかし普及に伴って、開発コストや性能、使い勝手、また大規模臨床で有効性が実証できなかったとの論文が発表されるなど、問題点も指摘されていた。

 2010年代後半には、いよいよAI-CADの時代が到来。ディープラーニングはその原動力となっている。

コンピュータ診断支援であるCADの進化はAIブームと同期して進んできた コンピュータ診断支援であるCADの進化はAIブームと同期して進んできた。2010年代後半からは本格的なAI-CAD時代が到来しつつある(クリックで拡大)

 まず従来型のCADは、「医師は画像のどういう部分を見て、どのように判断しているか」という、特徴抽出や識別処理を全て人手で行っているため開発に膨大な時間がかかっていた。ディープラーニングはこの人手で行ってきた処理をコンピュータが担ってくれるため、大幅に開発期間を短縮できる。

 また従来型CADは、胸部検出用、マンモグラフィ検出用というように、対象ごとに別のシステムを作る必要があったが、ディープラーニングならばタスクに依存せず、1つのシステムでいろいろな対象に使用できる。

 藤田氏は「われわれの研究室でも、民間企業と共同でマンモグラフィCADを開発したが、商用化まで10年以上かかりました。今では、NVIDIAをはじめとしてディープラーニングに有用な多数の優秀なモデルが公開されるようになっている上に、限られたデータから高精度なモデルを構築できる転移学習によって効率よくシステムを作ることもできます。素晴らしい時代になったとつくづく思います」と話す。

 ここ数年、ディープラーニングの活用による成果はめざましく、AIが医師を上回る診断例も報告されている。例えば、2018年に行われた、皮膚がんの1種であるメラノーマの鑑別比較では、皮膚科医の正解率が87%だったのに対し、10万枚以上の画像データを使って開発されたAIの正解率は95%だったという結果が得られた。2019年には、胸部X線写真の正常/異常分類で、あらゆるレベルの医師と比べてAIの真陽性率(検査が正しく陽性と判断したものの割合)が上回ったという報告があった。

 その後も、AIが医師と同等、あるいはそれ以上の精度で識別できるという数々の成果が発表されている。マンモグラフィにおいて5年後に乳がんを発症するかどうかを予測したり、眼底写真から実年齢、性別、喫煙歴、糖尿病性網膜症の血液検査結果、血圧を推定したりするなど、従来医師にもできなかったこともAIによって可能になっている。

 藤田氏は「従来型のCADは診断を支援するまでセカンドリーダー型だったが、画像からCADが正常なものを除外し、異常なものだけを医師が診断する『ファーストリーダー型』という使い方も始まっています。CADはAI-CADに進化し、世の中に役立つものとしての期待が大きくなっているのです」と強調する。

CADは、支援診断から自動診断に向けて進化するとともに利用形態や目的も多様化している CADは、支援診断から自動診断に向けて進化するとともに利用形態や目的も多様化している(クリックで拡大)

 米国では、CTに接続したCADが脳卒中を確認すると脳卒中専門医に警告すると同時に、画像をその医師のスマートフォンに直接送信するという、トリアージ目的の商品も登場。2020年9月には、米国初となるAI医療機器保険償還も承認され、急速な普及が期待される。また眼底写真による糖尿病性網膜症の診断については、世界初の自立型AI診断システムも商品化され、AIによる自動診断も始まりつつある。

 現在期待されているのは、現場のデータをシステムにフィードバックすることでAIの学習をさらに進めるというものだ。その一方で、安全性の観点から、欧米の学会がこういったシステムへの認可にブレーキをかけるべきという要望を提出するなどの動きもある。また日本では、厚生労働省がAI-CADについてのガイドラインを公表しており、従来型も含め幾つかのCADが薬事承認を受けているものの、現時点では診療報酬の対象にはなっていないという状況だ。

 藤田氏は「AI-CADは、実験室レベルではあるものの、人間の能力を超える画像診断が可能になりつつあります。今後は、スマートフォンのアプリのように、医用画像機器版のアプリストアによりクラウドからソフトが提供されるという使い方が始まるなどして、さらに普及が進んでいくでしょう。まだ、実証実験の不足、AIの思考のブラックボックス化など、解決すべき課題はありますが、当面はAIと人間が相互補完することで、より良い性能を発揮するという使い方が重要なのではないでしょうか」と締めくくった。

医療AIにおけるディープラーニングの活用を推進するNVIDIA

エヌビディアの山田泰永氏 エヌビディア エンタープライズ事業部 ヘルスケア・ライフサイエンス開発者支援の山田泰永氏

 AI-CADの進化をけん引するディープラーニングに必須の製品となっているのがNVIDIAのGPUと関連ソフトウェアだろう。同社日本法人であるエヌビディア エンタープライズ事業部 ヘルスケア・ライフサイエンス開発者支援の山田泰永氏は「医療AIの最適解−AIを実装するためのコツ−」と題し、GPUを活用したさまざまな医療AIの事例についての講演を行った。

 GPUはCT、MRI、超音波診断装置をはじめ、さまざまな医療機器で利用されている。AIの活用は、現時点では画像診断系が先行しているが、今後は治療や処置、創薬、モニタリング、再生医療などと広がっていくと考えられる。ディープラーニングについては、診断支援、CADという用途での承認が始まってはいるが、まだまだ数は少なく発展途上といえる。一方で診断支援だけではなく、より判断しやすい画像、良い画像を作るための、画像処理や信号処理でも活用されている。

ヘルスケアの将来像とGPUによる貢献 ヘルスケアの将来像とGPUによる貢献(クリックで拡大)

 画像系のディープラーニングには、主要な3つの手法があり、いずれも医療分野で活用され始めている。

 1つ目は写っている物体が何かを分類する「画像分類」だ。製造ラインの検査などで一般的に使われる手法だが、医療分野では、医療画像による腫瘍の有無、また血液検査、細胞培養、スクリーニング、リキッドバイオプシーなど、細胞の形態による分類に活用できる。

 2つ目は「物体検出・認識」。これは物体らしきものを検出し、それが何かを分類するという2段階で行われ、自動運転や監視カメラなどで利用されている。医療分野では、結節や腫瘍の検出・認識、内視鏡画像によるポリープの検出などに活用できる。

 3つ目は、画像中の境界線を認識し、物体の領域を切り分ける「セグメンテーション」である。前処理として注目領域の切り出し、不要領域の破棄に使われる他、医療分野では、注目臓器や注目領域の切り分け、細胞の個体や顕微鏡画像の領域別切り分けなどに活用できる。

 NVIDIAでは、CT、MRI、X線といった医療画像の研究開発促進に向け、「NVIDIA Clara Imaging(クラライメージング)」というツール群を提供している。このClara Imagingは、「Clara Train SDK」「Federated Learning SDK」「Clara Deploy SDK」などから構成される。

 放射線画像研究開発向けツールキットであるClara Train SDKには、各種の学習済みモデル、AI支援3Dアノテーションツール、追加・転移学習ツールが実装されており「ディープラーニングやコマンドラインにあまり詳しくなくても、自分のデータを使って比較的容易にセミカスタムで学習させることができます」(山田氏)という。

 近年注目されているFederated Learningは、多施設のデータで学習させる際に、個人情報保護を考慮してデータは各施設に置いたまま、大規模データによる学習を実現する技術。Federated Learning SDKは、まさにそのためのSDKになる。

 山田氏は「今後臨床で当たり前にAI-CADが活用されるようになると、病院内には毎日何千、何万という推論リクエストがあがってくるという未来が予想されます」と語る。そのような状況に向け、さまざまな診療科目、用途のAIモデルを集中配備し、大量の推論を効率よくさばく基本ツールがClara Deploy SDKだ。

 画像診断と同じく病院内で利用するという観点で、モニタリング系の「Clara Guardian SDK」も提供。監視カメラ、院内モニタリング系のアプリ開発に向けた学習済みモデル群とサンプル実装のパッケージで、画像+音声(現時点では英語のみ)のマルチモーダルアプリに向けた音声認識、音声合成モデルなどを搭載している。

 山田氏は「今回ご紹介したような技術を組み合わせて、効率よく医療サービスを実装していただくことができます。当社では、とがった技術を持つスタートアップと大企業の技術マッチング、ビジネスマッチングも支援しているので、ぜひ相談していただければ」と述べている。

Quadro Embedded GPUなどを医療機器向けに提案するADLINK

 NVIDIAのパートナー企業2社からは、それぞれが医療機器向けに展開する強力なソリューションについての講演が行われた。

ADLINKジャパンの小口和彦氏 ADLINKジャパン 西日本支社長の小口和彦氏

 ADLINKジャパン 西日本支社長の小口和彦氏は「医療機器の課題に対応するAIoTエッジソリューションのご提案」と題する講演を行った。

 産業機器向けの組み込み機器ベンダーとして25年以上の歴史を持つADLINKは、2014年に医療向けの組み込みシステムを得意とするドイツのPentaを買収するなど、医療機器市場にも注力している。NVIDIAとの間でも、エンタープライズ向けGPU「Quadro」を組み込み用途で展開できるQuadro Embeddedパートナーであるとともに、エッジAI向けソリューション「Jetson」のJetson Eliteパートナーでもあるなど深い関係にある。台湾本社と上海の生産工場はいずれも、医療機器の品質マネジメントシステム規格であるISO13485を取得している。

 製品ラインアップの中でも特筆すべきなのは、Quadro Embedded GPUモジュールである「EGX-MXMシリーズ」だろう。小口氏は「現在は、最新のTuringアーキテクチャに対応する製品を提案しています。2021年以降に向けて、さらに次世代のQuadro Embedded GPU製品の開発も進めています」と語る。

 また、医療機器メーカーにとって重要な供給については1セットから対応するとともに、Quadro Embedded GPUは5年以上、インテルCPUとNVIDIAのGPUモジュールを組み合わせたプラットフォーム製品は10年という長期供給も保証している。

 これら医療分野で重視される点が評価を受けて、内視鏡検査装置、モバイルX線検査装置、次世代の超音波診断装置、デンタル3Dスキャンなど、さまざまな医療機器メーカーでの採用が進んでいる。「海外が中心ですが、日本国内でも超音波診断や眼底検査などで採用が始まるなど実績を積み上げているところです」(小口氏)という。

内視鏡検査装置へのADLINKソリューションの採用事例 内視鏡検査装置へのADLINKソリューションの採用事例(クリックで拡大)

菱洋エレクトロはHealthcare AI Workstationで医療現場のAI導入を支援

菱洋エレクトロの井阪大氏 菱洋エレクトロ ソリューション事業本部 ソリューション第5BUの井阪大氏

 菱洋エレクトロ ソリューション事業本部 ソリューション第5BUの井阪大氏は「医療ヘルスケア機器のAIoT開発を加速させるGPUソリューションについて」と題した講演を行った。

 菱洋エレクトロは、半導体とICTという2つの事業基盤を柱に、それぞれの強みを生かした、サービス、ソリューションを提供している。井阪氏が所属するソリューション事業本部では、単なる物販だけではなく、要件定義、キッティング、エンドユーザーへの搬入や設置、マルチベンダー保守をワンストップでサポートするなどしている。

 医療ヘルスケア業界は、長年のノウハウ、実績がある同社の得意領域だ。NVIDIAとの関係も深く、国内取り扱い金額No.1の代理店である。医療ヘルスケアに関するスタートアップとの接点も多く、近年は既存の消化器内視鏡に外付けするAIシステムの開発に取り組んでいるAIメディカルサービスにも出資するなど、代理店の枠にとどまらない形で活動範囲を広げている。また、アイリスオーヤマのLEDに採用されている菱洋エレクトロが開発したAI音声認識技術は、非接触での操作という観点で医療分野からも注目されているという。

 NVIDIAと併せて医療ヘルスケア業界向けに展開してきたのが日本HPの製品群である。各種医療検査装置、PACS(医療用画像管理システム)、読影端末などに向けて、機器組み込みやシステム案件を経験してきた。

 そして、NVIDIA、日本HPの両社と連携する形で「医療現場にAIを『導入』するための研究・開発用のツール」(井阪氏)として提供を始めたのが「Healthcare AI Workstation」である。NVIDIAのGPUを組み込んだ「HP Z Workstation」に、放射線画像研究開発向けツールキットであるClara Train SDKをあらかじめ構築した上で提供するものだ。操作の基礎トレーニングなども提供する予定である。

「Healthcare AI Workstation」のコンセプト 「Healthcare AI Workstation」のコンセプト(クリックで拡大)

 これらの他、Jetsonを用いたAI画像解析プラットフォームも提供している。顔認証AIと体温計測を連携させた新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対応入退室システムや、来場者滞留解析システムなどに活用されており、これらの技術は医療現場での活用も期待されている。

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提供:エヌビディア合同会社
アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2021年5月20日