国内製造業のIoTへの取り組みが加速する一方で、多大な時間やコストをかけてPoCを繰り返しているにもかかわらず、いつまでたっても実用に至らず力尽きてしまう現場も少なくない。そうした現場に対して、HPCシステムズとPTCジャパンは、すぐに生産現場に導入して運用を開始でき、“見える化”の実現だけで停滞しがちなIoT活用を着実にステップアップできるトータルソリューションを提案する。
日本の製造業でもIoT(Internet of Things)活用に向けた取り組みが加速している。例えば、工場内においてはPLCなどの既設の制御装置や産業用ロボット、工作機械、生産ラインの各所に設置されたセンサーなどからデータを収集して、それらを可視化、分析することで生産性向上や予知保全などの実現を目指す。そして、最終的にはこうした活動を全社的なデジタルトランスフォーメーション(DX)へと発展させようという狙いがある。
だが、IoT活用に向けた取り組みが進む一方で、さまざまな課題が顕在化しているのも事実である。その最たるものが「PoC地獄」だ。多大な工数と時間、コストをかけてPoC(概念実証)を繰り返しているにもかかわらず、いつまでたっても実用に至らず、最後には力尽きてしまうことを意味する。
製造業をそんなPoC地獄から解放し、IoT活用のステップを進めるべく新たなソリューション展開を開始したのが、長年にわたり多種多様な産業用コンピュータやエッジコンピュータを提供してきた実績を誇るHPCシステムズである。
HPCシステムズ 取締役 CTO事業部 営業統括部長の新井一善氏は「このたびHPCシステムズは、米PTCの日本法人であるPTCジャパンとパートナー契約を締結し、『ThingWorx』および関連製品の開発、販売を開始しました。CTO(Configure To Order)事業部が掲げる“ターンキー”のコンセプトの下、すぐに生産ラインに実装して運用を始められるIoTソリューションを提供していきます」と語る。
ThingWorxとは、生産設備などからのデータ取得や整形、さらにはAR(拡張現実)の利用までを1つのプラットフォームで支援し、かつノンプログラミングでスピーディーなIoTアプリケーション開発を可能とする産業IoTプラットフォームである。
もっとも昨今では、“産業IoTプラットフォーム”を標ぼうするソリューションは他社からも多数提供されている。では、ThingWorxはそれらとどのような違いがあるのだろうか。
「IoTは、単にセンサーデータを集めて可視化するためだけの仕組みではありません」と語るPTCジャパン 製品技術事業部 プラットフォーム技術本部 本部長 執行役員の山田篤伸氏が示すのが、経営学者のマイケル・ポーター氏とPTC 社長兼CEOのジェームズ・ヘプルマン氏の両名が論文「IoT時代の競争戦略」の中で提唱した「IoT成熟度モデル」である。
IoT成熟度モデルとは、センサーと外部のデータソースを活用して、装置の状態や稼働状況などを総合的に可視化(見える化)する「モニタリング」に始まり、装置のリモート制御やUI/UXのパーソナライズなどを実現する「制御」、そして、装置の性能をアルゴリズムに基づいて向上したり、予防的な診断を行ったりする「最適化」といったステップを経て、最終的に製品の自動運用や他システムとの自動的な連携などを実現する「自律性」へ到達するという考え方だ。
冒頭、多くの製造業がPoC地獄に陥っていると述べたが、実態はこのIoT成熟度モデルでいうところのステップ1の「モニタリング」段階で立ち止まってしまい、その先に進めていない状況にあるといえる。
「先に進みたくても、データの可視化のために利用されている一般的なBIツールでは、その先のステップを実現するための仕組みが用意されていません。この課題を解決するのがThingWorxです。ThingWorxは、ステップ1の『モニタリング』を超短期間で実現でき、そこをスタートラインとして早い段階からステップ2の『制御』に取り組み、その先のステップ3の『最適化』、ステップ4の『自律性』へと着実につなげていくための仕組みを提供します」と山田氏は強調する。
今後、HPCシステムズとPTCジャパンはパートナーとして協力し合い、IoTの本格活用に取り組む製造業を支援していくことになるが、両社のシナジーはどのように発揮されるのだろうか。ここからは、HPCシステムズ CTO事業部 営業グループ セールス&マーケティングチーム マネージャーの浅倉智弘氏も交えて、製造業IoTの取り組みを着実に進めていくためのアプローチなどについて、両社の考えを紹介していく(聞き手:MONOist編集部)。
――あらためて、現在の国内製造業におけるIoTへの取り組み状況をどのように捉えていますか。
HPCシステムズ 浅倉氏 現在、HPCシステムズのCTO事業部では、大きく「マシンビジョン」「ディープラーニング」「スマートファクトリー」「エッジコンピュータ」の4つをターゲット領域としています。この全ての領域にIoTは関わることになりますが、私たちが特に注力しているのがエッジコンピュータの領域です。そこにはリアルタイム処理やネットワークの負荷軽減といった目的があり、工場内では例えば製造装置とAGV(無人搬送車)を連携・連動させる仕組みとしてもエッジコンピュータやIoTが使われるようになりました。山田さんからお話のあったIoT成熟度モデルでいえば、「制御」や「最適化」のステップに相当するシステムへのニーズが高まっています。とはいえ、単なる「モニタリング」とは異なり、「制御」以降のステップでは「どういったデータを取得し、どのようにつないで活用すればよいのか分からない」という企業が少なくありません。
PTC 山田氏 実は工場内には役割の異なる2つのIoTが存在します。1つは「Actionable IIOT」と呼ばれるもので、生産機器の状況をリアルタイムでモニタリングし、必要な措置を現場で即応することで、工場の生産効率を維持・向上させます。もう1つは「Analytical IIOT」と呼ばれるもので、蓄積されたデータを高度に分析し、業務に新たな気付きや知見を与え、中期・長期的な業務改善を促します。
国内製造業は、Analytical IIOTに関しては比較的得意としており、それなりに取り組みも進んでいます。これに対して、Actionable IIOTでは装置からデータを吸い上げるだけの一方通行ではなく、エッジコンピュータで分析・判断した結果をリアルタイムに装置にフィードバックするといった双方向のやりとりが求められます。日本の製造業の多くは、この仕組みに対する経験や知識も少ないことから、浅倉さんのおっしゃるような課題が発生していると思われます。
――この課題解決に産業IoTプラットフォーム「ThingWorx」が重要な役割を担うというわけですね。
HPCシステムズ 浅倉氏 その通りです。ThingWorxはクラウドでもオンプレミスでも動かせるのがメリットで、先に述べたリアルタイム処理やネットワークの負荷軽減の他、セキュリティポリシーの観点からデータを工場外に出すことができないお客さまのニーズにもお応えできます。サーバ型のエッジコンピュータにThingWorxを実装し、Actionable IIOTを運用することも可能です。
PTC 山田氏 もっともThingWorxはソフトウェアですので、工場内のPLCやSCADAなどの装置からデータを収集する役割を担うHubソフトウェアの「ThingWorx Kepware」と、それらを動かすためのサーバを“三位一体”で提供する必要があります。そのため、PTCとしては信頼性の高いハードウェアを有するパートナーとの協業が不可欠であり、長年、多種多様な産業用コンピュータやエッジコンピュータを取り扱ってきたHPCシステムズには大きな期待を寄せています。
――製造業IoTの運用でキーとなるエッジコンピュータにおいて、ハードウェア面の信頼性はどれくらい重要な要素となるのでしょうか。
PTC 山田氏 IoTの成熟度が「制御」から「最適化」「自律性」に進んでいくに従い、人間の判断を介さずに装置自身が判断して連携しながら生産に当たることになります。裏を返せば、そうした中でエッジコンピュータがトラブルや不調を起こすと、制御がきかなくなって不良品を作り続けてしまうといった問題を引き起こしかねません。そうした意味からも、IoTの進化においてハードウェアの信頼性は非常に重要な鍵を握っています。
HPCシステムズ 浅倉氏 実際、工場内で使われるエッジコンピュータの信頼性は、一般的なオフィスで使われるサーバよりも数段上のハードルをクリアしなければなりません。空調の効かない高温多湿の劣悪な環境、さらにはオイルミストや粉じんが飛び散る製造現場に設置して運用できるエッジコンピュータは、世の中を見渡してもそれほど多くありません。HPCシステムズでは、そうした過酷な耐環境性能をクリアしたハードウェアを有しており、ThingWorxをはじめとするPTCの優れたソフトウェアを組み合わせた、業界最強クラスのIoTソリューションを提供できると自負しています。
PTC 山田氏 PTCとしては、HPCシステムズが提供するハードウェアの豊富なラインアップも高く評価しています。
HPCシステムズ 浅倉氏 ありがとうございます。おっしゃる通り、一口に製造現場といってもエッジコンピュータに対するニーズは多種多様で、例えば、制御盤の中に組み込んで利用できるものを求められる場合もあります。また、IoTの成熟度や業務用途、そこで扱うデータの種類や量によっても当然のことながら必要なスペックは変わってくるため、あらゆる要求に応えられるよう私たちは製品ラインアップを拡充してきました。一方で、お客さまだけで最適なエッジコンピュータを選定するのは困難な面もあるため、単なるハードウェア販売ではなく、コンサルティングも含めたトータルソリューションを提供することを基本スタンスとしています。
――HPCシステムズとPTCジャパンのパートナーシップの意義を理解できました。最後に、今後に向けた展望もお聞かせください。
PTC 山田氏 工場系のみならず、あらゆる領域のIoTに関していえることですが、求められるテクノロジーがますます広範で、なおかつ高度になっています。例えば、「制御」から「最適化」「自律性」のステップを進めていくためには、人間に代わって判断を行うAI技術が必須となります。また、少子高齢化の進展による生産現場の慢性的な人手不足、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染リスクを抑えるための工場内における密の回避、工場労働者の働き方改革などの課題を捉えたならば、ARとIoTのテクノロジーを融合させて、リモートから作業支援を行うといった取り組みも急務となります。そして、それらを支えるインフラの観点では、モバイル通信の帯域幅を拡大して遅延を抑えることができる5Gネットワークへの期待が高まっています。こうした新たなニーズにも、HPCシステムズとのパートナーシップで応えていきたいと考えています。
HPCシステムズ 新井氏 5Gネットワークについては、HPCシステムズでも対応モデルの準備を進めているところです。どんなにエッジコンピュータのパフォーマンスを高めたとしてもネットワークがボトルネックとなっては意味がありませんので、できるだけ早期に5G対応モデルをリリースしたいと考えています。
PTC 山田氏 それはとても心強いですね。このように私たちは、今後もお客さまの課題やニーズを先取りする形でソリューションを取りそろえていきます。また、国内外を問わず多彩なIoTの実績を重ねていますので、どんなことでもご相談をいただければと思います。
HPCシステムズ 新井氏 これまで私たちが工場やプラントなどの産業系分野で培ってきたナレッジやノウハウを、IoTの世界の中でフルに発揮できる時代が到来したと考えています。山田さんのおっしゃる通り、「とにかく分からないから教えてほしい」「どうやったらうまくいくのか」といったレベルでも構いません。私たちにお声掛けいただければ、直面する課題や疑問に一緒に向き合いながら、最適な解決策をご提案いたします。
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アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2021年4月19日