産業機器向けのストレージデバイスが、これまでの主流だったHDDから、SDカードやSSDといったフラッシュメモリ製品に移行しつつある。SDカードやSSDの選定時に重視したいのが耐久性や品質、さまざまな要件を持つ各産業機器に適応可能な柔軟性である。ソニーグループのNextorageは、これら産業機器向けのニーズに応えるフラッシュメモリ製品をラインアップしている。
工場などのファクトリーオートメーション(FA)を実現する各種デバイス、OA機器、銀行のATMをはじめとする産業機器において、SDカードやSSDといったフラッシュメモリ製品の需要が高まっている。これまで産業機器のストレージデバイスはHDDを使用するのが一般的だったが、大容量化とコスト削減が進むとともに、その性能とメンテナンスの容易さに注目してフラッシュメモリ製品への置き換えを検討する企業も少なくない。
しかし、産業機器向けのストレージデバイスは、コンシューマー向けの製品よりも厳しい品質水準が要求される。停電など突然の電力遮断や落下、水没などの予期せぬトラブルが起こったとしても、ストレージ内の記録内容を損なうことなく、安全に取り出せることが求められるからだ。
これらのニーズに応える製品を幅広くそろえるのが、ソニーグループで産業機器向けフラッシュメモリ製品を展開するNextorageである。同社は、2020年10月28〜30日に幕張メッセで開催された「第6回 IoT&5Gソリューション展 秋」において、防水性や防塵(じん)性に優れた産業用SDカード「Toughモデル」をはじめさまざまなフラッシュメモリ製品を披露した。
Nextorageは2019年10月1日に、ストレージメディア製品を開発するソニー子会社のソニーストレージメディアソリューションズからフラッシュメモリ製品事業のみを切り出して独立した企業である。SDカードやSSDなどフラッシュメモリ製品の開発、販売を主軸に事業展開を行っている。
独立を果たした最大の理由は、フラッシュメモリ製品における商品開発の高速化を狙ったからだ。Nextorage 商品開発2部 部長の麻生伸吾氏は、「ソニーストレージメディアソリューションズでは、テープメディアやオプティカルメディアも取り扱っています。これらの製品に比べると、フラッシュメモリ製品の商品ライフサイクルは短期間で、顧客ニーズの移り変わりも早い。より迅速に顧客ニーズをくみ取って商品開発を高速化することが求められます。そのためにフラッシュメモリ製品事業に特化して独立したのがNextorageなのです」と説明する。
Nextorageは、コンシューマー向けの他、プロカメラマンなどのプロフェッショナル向け、そして産業機器向けという3つの市場で事業を展開している。Nextorageが分社独立して初となる展示会への出展で「第6回 IoT&5Gソリューション展 秋」を選んだのは、今後は産業機器向けの事業展開にも注力していくという決意の表れでもある。「産業機器向けメモリストレージ製品において、『Nextorage』という企業ブランドの確立を図りたいと考えています。そのため製品には『ソニー』のロゴも入れていません」(麻生氏)。
Nextorageの産業機器向けフラッシュメモリ製品には、独自技術に基づくさまざまな特徴がある。
最大の特徴は、放送機器向けのリムーバブルメディアを長年手掛けてきたソニーで積み上げてきた高水準な製造品質を確保するためのノウハウになるだろう。麻生氏は「放送業界では放送用データの損失や故障は万が一にも許されない事態です。メモリの製品品質は高水準に保たれなければならず、このため、開発メンバーは高品質化を実現するための製造ノウハウを必然的に多く蓄積してきました。このノウハウは産業機器向けでも強みになります」と語る。このノウハウを基にした独自のテスト技術により、不良品になる可能性が高い製品を正確にスクリーニングすることが可能だ。
競合他社のフラッシュメモリ製品は、フラッシュメモリのベンダーが1社に固定されていることが多い。Nextorageにはそういった縛りはなく「製品コストや調達環境を鑑みながら、顧客の要件に最適なフラッシュメモリを使いこなせます」(麻生氏)という。
製品のサポート体制も充実している。国内であればNextorageの本社がある神奈川県川崎市からサポートエンジニアが派遣され、顧客を直接訪問してトラブルシューティングを行う。また、サポートエンジニアメンバーは英語での対応も可能なため、海外の顧客に対しても代理店を介すことなく、オンラインで直接コミュニケーションを取って問題解決が図れる。
産業機器向けのSDカードは「通常モデル」と「Toughモデル」の2種類が用意されている。通常モデルは搭載するメモリの種別としてSLC/pSLC/MLC/3D TLCの4タイプがあり、それぞれについてSDカード形状かmicroSDカード形状、−25℃からと−40℃からの2つの動作保証温度範囲(上限はいずれも+85℃)をそれぞれ選べる。一方、Toughモデルのメモリ種別はSLC/pSLC/MLCの3タイプが用意されており、動作保証温度範囲のオプションは通常モデルと同様である。
特にToughモデルは、高い耐衝撃性を備えるだけでなく、国際規格であるIP68相当の防水性と防塵性を備えたSDカードだ。SDカードの標準規格と比較すると曲げ強度は18倍に達し、通常のSDカードであれば破損のおそれがある5mの高さからの落下にも耐える強度を持つ。
このように高い強度を実現できたのは、外装部の成形方法に、金型に樹脂を流し込んで途切れ目なく仕上げる一体成形型を採用したからだ。特にSDカードの場合、IP68の完全防水性は一体成形型の製品でなければ実現が困難である。ライトプロテクションスイッチや端子上のリブなどの破損しやすい部品を外装から排除する工夫も施されている。
NextorageのSDカードは、通常モデルもToughモデルも、独自のファームウェアを導入することで高いカスタマイズ性を実現している。顧客の業務要件に応じて、SDカードの使用方法は大きく異なる。機器データを取得するため、あるいは起動プログラムを入れてブートさせるために導入する顧客もいるだろう。書き込まずに読み取りしか行わない顧客もいれば、小さなデータを頻繁に読み出したいという顧客もいる。どのような使用環境でも、SDカードに高いレスポンス性を持たせられるように、ファームウェアでチューニングを施して業務への最適化を図るのだ。
このファームウェアの導入を通じて、高い信頼性実現につながる3つの機能をSDカードに持たせている。1つ目は電源遮断に対する高い耐性だ。停電などの突発的な電源遮断があってもデータを破損せず、正常に起動する強固な仕組みを作り上げた。データの書き込み中に電源を落とす電断試験を10万回実施しクリアした製品がラインアップされている。
2つ目はWAF(Write Amplification Factor:書き込み増幅率)の抑制を通じたSDカードの長寿命化だ。産業機器(ホスト)側からフラッシュメモリ製品へのアクセスパターンは、顧客ごと、業務ごとにそれぞれ異なる。このアクセスパターンに合わせる形で書き込みが行われなければ、メモリへの過剰な書き込みが行われることになり、その分、SDカードの寿命は短くなってしまう。これを防止するために、独自アルゴリズムを導入することで、産業機器向けのアクセスパターンで書き込み回数を低減させる仕組みを実現した。
3つ目は、SDカードの書き換え寿命を通知する機能である。SDカードの書き換え回数が上限回数に達しつつあることを顧客に知らせてトラブルを防止する。この機能は産業機器向け製品だけでなく、Nextorageが展開するSDカード全てに標準搭載されている。
産業機器向けのSSD製品としては現在、SATA接続のSSDシリーズ「A2 model」を展開している。規格別にmSATA/M.2(2280)/2.5インチの3種類の製品を用意しており、各製品を組み合わせることで顧客ニーズに柔軟に応える。
SSD製品もSDカードと同様に電源遮断耐性、長寿命化、書き換え寿命の通知機能などを備える。これらに加えて、SSD製品ではSDカードに比べると、よりビットレートが大きい映像データを記録するニーズが高いことから、録画時間に関わらず高速で安定した書き込みを実現するアルゴリズムも実装した。
近年発売されるSSD製品は、接続インタフェースとしてSATAではなく、さらに高速なデータ転送が行えるPCI Expressを採用したものが増えている。この点についてNextorage 商品開発2部 B2B営業課 セールス&エンジニアの細萱祐人氏は「コンシューマー向けやプロフェッショナル向けと違い、産業機器向けではSATAがまだまだ現役で使われています。ただし今後は、SSDのさらなる高速化が求められる中で、SATAからPCI Expressへの置き換えが進んでいくでしょう。当社はこれまでに、放送機器向けのSxS(エスバイエス)メモリーカードやXQDメモリーカード、CFexpressメモリーカードなどPCI Expressインタフェースを採用したフラッシュメモリ製品を開発してきました。それらの設計ノウハウを、今後はSSDなど産業機器向けにも展開していきます」と述べる。
展示ブースでは、将来的なSSDのさらなる高速化を見据えた展示物も披露された。STT-MRAM(スピン注入磁化反転型磁気抵抗メモリ)でSSDを高速化するデモンストレーションである。
MRAM(磁気抵抗メモリ)を大容量化したSTT-MRAMは、次世代の不揮発メモリとしての実用化が期待されている。「そもそも、現時点ではSTT-MRAMはしっかりと動作するものを開発できる企業自体が少ない状況です。当社では同じくソニーグループであるソニーセミコンダクタソリューションズと協力してSTT-MRAMを用いた製品の開発を進めており、将来的な実用化に向けた研究開発力と技術力を備えています」(麻生氏)。
Nextorageでは今後、産業機器向けのメモリストレージ事業をコンシューマー向け、プロフェッショナル向け事業に次ぐ“第3の柱”として育成していく方針を掲げている。国内のみならず、海外展開にも既に取り組んでおり、米国や欧州で代理店を経由した製品販売を行っている。
また将来的な事業展開として、麻生氏は「車載機器向け市場の開拓も視野に入れています。当社は、メモリコントローラーに搭載するファームウェアの開発に技術的な強みとノウハウがあります。この強みが、拡大成長が予想される自動運転車市場の中でどのように生かせるかを見極めて、対応していくつもりです」と意気込みを語った。
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提供:Nextorage株式会社
アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2020年12月31日