化学・素材メーカーがDXを推進するには何が必要か、主要企業11社の“リアル”製造業のDX

DXが注目される中、中期経営計画に具体的に取り組みを盛り込むなど企業全体での活用を加速させているのが化学・素材メーカーである。では実際に化学・素材メーカーはどのようなことを考え、どのようなことに悩み、DXを進めているのだろうか。セールスフォース・ドットコムが主催し、主要な化学・素材メーカー11社が集まったディスカッションイベント「Salesforce Virtual Chemical Industry Round Table」から、議論の内容を紹介する。

» 2020年11月25日 10時00分 公開
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 人材不足やグローバル化や製品の高度化などに加え、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)などで“不確実性”が高まる中、製造業においてもDX(デジタルトランスフォーメーション)の必要性が叫ばれている。その中でもDXへの取り組みで、企業による進捗度に大きな差があるといわれているのが化学・素材メーカーである。

 積極的な取り組みを進め、企業全体の戦略の下、サプライチェーンや製品開発などでデジタル基盤を構築し使いこなしている企業もあれば、各部門がそれぞれ個別でDXを進めており部門内での成果は出ていても、部門間で結び付けるところで苦しんでいる企業もある。また、こうした取り組みを始めたばかりで「まさにこれから」という企業も存在するのが現状である。特に化学・素材メーカーでは、工場などの生産設備や装置の老朽化なども進んでおり、こうした古い環境とデジタル技術をどう組み合わせるべきかを悩む企業も多い。

 このようなさまざまな進捗度の中で、化学・素材メーカーは実際にはどういうことを考え、どういうことに悩みながら、DXに取り組んでいるのだろうか。こうした課題や気付きを共有する場として、セールスフォース・ドットコムは2020年10月22日、Salesforceを活用している主要な化学・素材メーカー11社を集めディスカッションイベント「Salesforce Virtual Chemical Industry Round Table」をオンラインで開催した。

 ディスカッションには、AGC、旭化成、大日本印刷、クラレ、三菱ケミカル、日華化学、日産化学、昭和電工、昭和電工マテリアルズ、東レなど11社が参加。また、基調講演として経済産業省 製造産業局 総務課 ものづくり政策審議室長 矢野剛史氏が「製造業は不確実性の時代をどう生きるか? ――2020年版ものづくり白書等からのメッセージ」について講演を行い、ディスカッションにも参加した。本稿では、この矢野氏の講演と化学・素材メーカーによるディスカッションの内容を紹介する。

化学・素材メーカーに求められる「ダイナミック・ケイパビリティ」

photo 基調講演を行う経済産業省 製造産業局 総務課 ものづくり政策審議室長 矢野剛史氏

 基調講演を行った矢野氏は「2020年版ものづくり白書」の結果を引用し「ダイナミック・ケイパビリティ(企業変容力)」の重要性について語った。ダイナミック・ケイパビリティとは「環境や状況が激しく変化する中で、企業が、その変化に対応して自己を変革する能力」だとされており、企業が通常の活動で発揮する「オーディナリー・ケイパビリティ(通常能力)」と異なる考えである。

 将来を見通せない世界では、最終的な意思決定をできるだけ先に延ばし、市場動向をギリギリまで見極めたほうがビジネスで成功する確率は高くなる。ただし、それができるのは、意思決定をすれば既存の事業・組織を速やかに変更できる高度なダイナミック・ケイパビリティを有する企業となる。

 矢野氏は「将来がある程度予測できる予定調和の時代ではオーディナリー・ケイパビリティが強みを発揮したが、COVID-19も含めこうした予測できる時代が続くというのは幻想になりつつあります。変化を前提として多方面にアンテナを張り巡らせる必要があり、変化が起こったときにいち早くその変化を感じ取り、組織形態などを柔軟に変容していくという危機対応力こそが重要になります。こうしたダイナミック・ケイパビリティを獲得するためにはデジタル技術の活用が重要になります」と語った。

 矢野氏はこうしたデジタル技術により企業活動を変革するDXについて、エンジニアリングチェーンを対象とした「製造業DXレポート」から、必要となる5つの観点を示した。

  • 観点1:全社的なビジョン(経営方針・目標)の共有と、これに基づくDXの推進およびエンジニアリングチェーン強化の方針検討
  • 観点2:自社のエンジニアリングチェーン工程や体制の可視化
  • 観点3:従業員の持つ技術や能力の形式化・デジタル化
  • 観点4:BOMの共有や3D CADの活用など、役割や組織をまたいだデータ共有のための仕組み整備
  • 観点5:継続的にデジタル改革に取り組んでいくための人材や仕組みの確保・構築
photo エンジニアリングチェーンに向けた5つの観点(クリックで拡大)出典:経済産業省

 この中で特に矢野氏が重視するのは観点1だという。「DXに取り組んでもなかなか成果が出ないと嘆いている企業があります。しかし、そもそも成果を阻害している問題は何なのか、それは自社のどこに存在しているのかを認識できていなければ改善のしようがありません。経営陣から現場まで全社でしっかりビジョンを共有してこそあるべきDXを推進することができ、大きな成果を得ることができます」と矢野氏は語る。そして「DXはあくまでも手段であって、それ自体が目的ではないのです。決して目的と手段を取り違えてはいけません」(矢野氏)と強調した。

「ビジョン」と「現場の活動」をどう一致させるのか

 ディスカッションでは矢野氏が提示したこの「全社的なビジョンの共有と、これに基づくDXの推進」をテーマにまず議論が行われた。

 ディスカッションの中で「ビジョンを共有しなければならない」という点に対しては、ほとんどの参加者が賛同した。ただ、その「ビジョンの前提となるもの」については議論が盛り上がりを見せた。

 ある参加者は以下のような課題感を示した。「ビジョンを描くに際し『ニワトリが先か、タマゴが先か』のジレンマがあります。経営者が変革に向けたビジョンを描くためには客観的な情報が不可欠ですが、十分な量のデータがそろっている場合はまれです。そこで、業務の実態を把握するために『DXを進めよ』と各部門に指示します。ところが、現場からは『ビジョンもないのにDXは進められない』と反発を受けることが往々にしてあります。堂々巡りになってしまうのです」。

 これを受けて「ビジョンの大前提となるカルチャー」についての意見が多く述べられた。日本企業の場合、「業務データは自部門のものだ」という考えが非常に強い。こうした現場中心の独立した考えが改善を進め、強い製造力を育ててきた面はあるが、DXを進める上ではデータをできる限り幅広い領域で活用することがメリットにつながるため、これらをすり合わせる必要が出てくる。「データを公開することで他部門から余計な干渉をされたくない」という現場の考えをどのように和らげて、全社的に共有を進められるかというのは、企業ごとに対応が分かれるところでもある。

 「ビジョンの共有」に関しては、主催するセールスフォース・ドットコムが自社内での取り組みを紹介した場面もあった。セールスフォース・ドットコムでは、グローバル全体で毎年1回、世界各国・地域の経営幹部約300人が米国本社に集まり、今後のビジョンを1週間くらいの期間をかけて議論するというが、この様子をグローバルで生中継するという。「幹部がどんなことを考えているのかをライブで知ることができ、その場で意見を送ることも可能です。受け取った幹部はその内容を随時加えながらさらに議論を深めていきます。こうした議論に立ち会うことで、新たに策定されたビジョンが自分たちのところに下りてきたときには、納得感が生まれます」とセールスフォース・ドットコム 常務執行役員の今井早苗氏は説明した。

 「大きなビジョン」を通すために「小さい成功事例を積み重ねることが重要だ」という意見も出た。「大きなビジョンを経営から下そうとしてもいくつかのレイヤーを通しているうちに、コンセプトがぶれたり弱くなったりしてしまいます。明確なビジョンを行き渡らせる意味でも、小さくてもよいので成功事例が必要で、こうした現場での個々の活動と全体ビジョンが一致することで大きな力になると考えます」と具体的な活動にひもづける重要性が訴えられた。

化学業界における標準的な活用方法の共有を

 さらに、化学・素材メーカーで全社的なDXを推進する際の共通課題として「(化学・素材メーカー内には1つの企業体の中に)全く異なる顧客、ビジネスプロセスを持つ事業体が存在します。その中で事業横串で進めるCRM(Customer Relationship Management)のようなプロジェクトをどのように推進すればよいと考えますか。またその場合、どのようなKPI(重要業績評価指標)を持てばよいのでしょうか」といった投げかけがあった。それに対しては「このようなラウンドテーブルを契機に、各企業が共通で活用できるようなプラットフォームを検討するのもよいのではないか」と業界連携を後押しするような意見も出された。

カルチャーを醸成するための「やりたい人」に報いる仕組み

 DXについて、さまざまな意見が出る中で一致したのが「まずはどこからかやる気のある部門や人で動かしてみる」ということだ。「誰かが始めてくれるのを待っている受け身の姿勢のままではいつまでたってもDXは始まりません。自分の周囲だけでなく全体に貢献したいという強いボランティア精神を持った人で、まずは成功の当たりを付けて進めてみることです。こうした意識を持っているのは、若い社員が多いと思いますが、役職に関係なく登用していくことがポイントだと考えます。トップ層やミドル層も彼らを後押ししていくべきです」という意見に多くの参加者が賛同していた。

 さらに議論は進み「やりたい熱意のある人にどう報いるのか」についても各社が頭を悩ませる共通のポイントだということが見えてきた。

 「やりがいを感じてくれる人を増やすためには、一人一人の貢献を評価する仕組みが欠かせません。そこで人事部門も巻き込みながら『人事DX』として、全社的な活動を広げていこうとしています。身の回りの先行事例であったり、サポートであったり、何らかの成果を出した人に対して、例えば社内ソーシャルを通じて皆が『いいね』ボタンを押すだけでもよいと考えています。そうした小さい積み重ねによって、貢献に対する認知が全社に広がりますし、本人のモチベーションも高まります。正式な評価制度を立ち上げるとなれば長い時間を要しますが、こうした簡単な取り組みならすぐに始めることができます」と語った。これを受けて複数の参加者が「同様の仕組みを考えていた」や「ぜひ自分たちもやってみたい」と意欲を示していた。

DXを進める上で考えるべき“リアルな”ポイント

 DXへの道のりは決して簡単ではないのは事実だ。しかし、コロナ禍によって化学・素材業界のビジネスを取り巻く環境はますます不確実性を増している。「ダイナミック・ケイパビリティ」を考えた場合でも、まさに“待ったなし”の状況だといえる。ただ、DXの議論が進む中でも、化学・素材メーカーに合う形での“リアルな”課題を共有する場はそれほど多くはない。

 そうした中で今回のラウンドテーブルでは「ビジョンの共有」「全社視点のカルチャーの醸成」「小さな成功事例の重要性」「やる気のある人(部門)を基軸に動かす」「挑戦に報いる体制」など、実際に取り組む上での“リアルな”考慮点が明確になった。DXを進める上でぜひ考えるべきポイントに加えていただければ幸いである。

化学・素材メーカーのDXを後押ししてきたセールスフォース・ドットコム

 今回のイベントを主催したセールスフォース・ドットコムは、化学・素材メーカーのビジネス変革をデジタル技術で支援し続けてきた企業である。同社が長らく強みとしているCRMシステムを「Salesforce Customer 360」として提供するだけでなく、同プラットフォームの活用が現場で定着し、ビジネス効果を出すまで顧客と伴走している。

photo セールスフォース・ドットコムの支援のフレームワーク(クリックで拡大)出典:セールスフォース・ドットコム

 同社の特徴は、米国DuPontや3Mをはじめ、幅広い欧米の大手化学メーカーを顧客として持ち、そのビジネスを深く理解していることである。また大手化学メーカーやコンサルティング会社から、同社へ転職する人材が一定数いることも興味深い。また同社が取り扱うテーマは、顧客理解を深めるためにCRM活用を前提としつつ、顧客ロイヤリティーや従業員エンゲージメントの向上、販売・マーケティングの生産性向上、研究開発プロセスの効率化、PMI(ポストM&A)における業務プロセス・情報資産の統合、新規ビジネスモデル開発など非常に幅広い。なお同社の従業員は、世界中で検討された化学・素材業界の検討事項を参照することができ、そこで得た知見を、日本の化学・素材メーカー発展のために還元しているという。

photo 化学業界におけるポイント(クリックで拡大)出典:セールスフォース・ドットコム

 DXへの取り組みは1社で完結することは難しく、知見を持つ企業の支援が欠かせない。グローバル企業の多くの成功事例を抱えるセールスフォース・ドットコムは化学・素材メーカーにとっては最適なパートナーとなってくれるだろう。

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提供:株式会社セールスフォース・ドットコム
アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2020年12月22日