どうなる!? with CORONA社会のモビリティ技術自動車技術会秋季大会 特別座談会

オンラインでの開催となった自動車技術会の2020年秋季大会では、トヨタ自動車や日産自動車、本田技術研究所の技術系トップが語り合う特別座談会の動画を公開する。現在は経営に携わる三氏が、技術者としてどのような思いや考え方を持っているのかを知ることができる貴重な機会となりそうだ。

» 2020年10月14日 10時00分 公開
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 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響を受けてオンラインでの開催となった、自動車技術会の2020年秋季大会。恒例の学術講演会やテクニカルレビュー、学生ポスターセッションに加えて、今回は「どうなる!? with CORONA社会のモビリティ技術」をテーマにした特別座談会が用意されている。

 登壇者は自動車技術会 会長でトヨタ自動車の寺師茂樹氏、前会長で日産自動車の坂本秀行氏、本田技術研究所の三部敏宏氏という豪華な顔ぶれだ。モデレーターは自動車ジャーナリストの清水和夫氏が務めた。

豪華な顔ぶれの特別座談会を動画で公開する

 自動車技術会では、技術者でもある三氏がCASE(コネクテッド、自動運転、シェアリングやサービス、電動化)やMaaS(Mobility-as-a-Service、交通システム全体に関する新しいサービス)、自動車技術の将来、技術者のあるべき姿について、ざっくばらんに語る様子を動画で公開する。

 事前に収録された特別座談会の動画は2020年10月21〜23日の3日間、自動車技術会 2020年秋季大会のWebサイトにおいて無料で公開される。本稿では、この特別座談会の一部をご紹介する。

困っている人の声から、技術で何ができるか考える

 2020年春、世界的にCOVID-19の感染が広がり、都市封鎖や移動の制限が各国で行われた。その結果、今までのように働くことが難しくなり、自動車メーカーとサプライヤーの操業や業務にも支障を来す状況となった。COVID-19の影響は今も続き、働き方や暮らしは以前に戻らずに新しい在り方に向けて変わり始めている。

 コロナ禍を受けて、トヨタグループは医療現場や医療用品メーカーを積極的に支援してきた。その経験を受けて、寺師氏は「自動車業界は100年に一度の大変革を迎えていて、技術開発のスピードを一層早めていく必要があります。それだけでなく、困っている人にどう寄り添うか、どんな社会を実現するかを、技術者や研究者が常に考えていくべきです。困っている人の声から出発して検討していくことも必要です。そのためには、さまざまな分野の技術者が集まって活発に議論することが重要なので、自動車技術会としてはいろいろな人が集まりやすい場をオンラインで作っていきたいと考えています」と語った。

トヨタ自動車の寺師茂樹氏

 トヨタグループではモノづくりの経験を生かして、感染者を移送する車両の開発、フェイスシールドの生産、トヨタ生産方式による医療用ガウン生産の支援などに取り組んだ。また、医療従事者の送迎のオンデマンドサービスや、感染症対策が必要な人に向けた中古車のリースなども展開した。「こうした活動で多くの人と議論し、さまざまな知恵を取り入れた新しいモビリティのアイデアが得られました」(寺師氏)。

 「三密」の回避や非対面でのやりとり、リアルからオンラインへの移行においても、モビリティの貢献の余地が大きいという。混雑を避けて移動するためにマイクロモビリティの需要が拡大する他、人と会わずに物を受け取ることができる物流用マイクロモビリティのニーズも高まるとしている。「人と接する機会が減るからこそ、あたたかみのあるモビリティが必要だと考えています」と寺師氏は語る。遠隔診療でもモビリティが活躍しそうだ。また、トヨタグループでは同乗者と安心して会話するためのモビリティ内の気流制御などにも取り組んでいく。

 こうした1つ1つの取り組みはコロナ禍の前から進んでいたプロジェクトだったが、暮らしや働き方など社会の変化に応えるため開発を加速させていく。

先が見えない中でも、自信を持って技術を極めて

 CASEやMaaSに加えてコロナ禍で大きな変化が起きており、将来を見通すのは簡単ではない。働き方の変化に対する戸惑いの声も多い。コロナ禍のマイナスの側面が広く現れている一方で、坂本氏は「ひとりひとりのセキュリティや安全をどう確保するかというプライオリティが上がったと感じています。加えて、いつまで運転できるか不安を感じている高齢者や、高速道路の運転や駐車が苦手でクルマに乗りたくない人など、クルマから離れている人のことも、ひとりひとり考えたいと思います。これらの問いに技術で答えを出すチャンスなのではないでしょうか」と語る。

 また、坂本氏は「この状況下でも、自信を持って仕事をしてほしいと思っています。プロとして自分が取り組む技術を極め、楽しむことができれば、最後は何かすごいものに役立ちます」と技術者を激励する。このメッセージの背景には、自身の経験や、日産自動車が取り組む電動化や自動運転技術の歴史がある。

日産自動車の坂本秀行氏

 「若いころはある1つの部品や技術をやっていましたが、徐々にシステムやクルマとしてまとめる仕事が増えていきました。その中で振り返って感じるのは、ADAS(高度運転支援システム)や電動車はこれまでに存在していた技術を再構築し、足りないものを付け加えてシステムとして作り上げており、いろいろな技術に支えられているということです。例えば『プロパイロット 2.0』でも、構成するそれぞれの技術の中には20年も前から存在していたものがあります。ただ、それらは初めからADASや自動運転に向けた技術ではなく、別の目的のために進化していた技術が巡り巡って貢献しています。電動車に不可欠なバッテリーも、当初は触媒の技術が活躍しました。材料の技術者も、触媒からバッテリーを担当するとは夢にも思っていなかったでしょう。違う分野の技術が花開くケースはたくさんあります。技術に取り組んでいる最中は、どう役に立つのか不安になることもあるかもしれません。しかし、プロである技術者がやっていて楽しいものは今までできなかったことを実現する可能性につながっています」(坂本氏)

 1台の新型車を開発する中で、何十、時には何百もの技術や製品、アイデアが“お蔵入り”することがある。それらは一見、埋もれた技術のように思われるが、坂本氏は「むしろそれらの技術こそ財産だ。全てが埋もれてしまうわけではなく、例えば計測技術や実験技術などが、数年して生きてくることもある」と既存技術の可能性を語る。

アフターコロナは環境重視が加速

 現在は北米や中国などで新車市場が回復し、自動車メーカー各社が生産台数も取り戻しているものの、COVID-19が自動車の生産や販売に与える影響は甚大だ。“アフターコロナ”の立て直しについて、三部氏は「環境面がより重視される」とみている。欧州委員会が2030年の温室効果ガス排出削減について1990年比で55%削減という目標を示したことが背景にある。自動車には、今までよりも一段と厳しい目標が課されることとなる。

本田技術研究所の三部敏宏氏

 三部氏は、CASEやデジタルトランスフォーメーション(DX)など環境変化が大きい中で、自動車を開発、製造、販売するという既存のビジネスモデルには限界があることにも言及した。「移動の喜びを最大限に実現するには、既存の発想を超えたモビリティやサービスの提案が必要です。クルマの可能性はまだまだ広がっていて、自動車産業が魅力のある産業であることは変わりません」(三部氏)。

 こうした事業環境を受けて、ホンダではモビリティだけでなくエネルギーやロボティクスの領域でも技術革新を進める。これらの分野の技術を連携させることで、ホンダならではの価値を生み出していこうとしている。その一例が「Honda eMaaS」で、電動モビリティとエネルギーサービス、モビリティサービスを融合したものだ。関連する製品としては可搬型バッテリー「モバイルパワーパック」と、モバイルパワーパックで駆動する電動バイクが市場に出ている。電動製品を統合管理することによって、移動と暮らしをシームレスにつなぎ、カーボンフリーの豊かな生活を提供することを目指している。

 ここで重要なのが、バッテリー群の情報を統合管理するというホンダのコンセプトだ。電動モビリティや家庭用電源などとして市場に出て分散したバッテリーを仮想的に1つの大きなエネルギーストレージとして活用することにより、再生可能エネルギーの導入拡大にも貢献する。これに関連して、トヨタ自動車とは可搬型の外部給電機やバッテリーと、燃料電池(FC)バスの給電機能を組み合わせた移動式発電・給電システム「Moving e」を構築。欧州では、電気自動車(EV)「Honda e」の発売に合わせて商用エネルギーサービスを2020年に開始するべく、パートナー企業と連携しながら取り組みを加速させている。


 大手自動車メーカーの技術系トップがそろい、長時間にわたって語り合った特別座談会。現在は経営に携わる三氏が、技術者としてどのような思いや考え方を持っているのかを知ることができる、またとないチャンスだ。自動車技術に造詣の深い清水氏による切り返しにも注目だ。ぜひご覧いただきたい。

大手自動車メーカーの技術系トップがそろい、長時間にわたって語り合った

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提供:公益社団法人 自動車技術会
アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2020年11月13日

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