美和ロックの挑戦から学ぶ「Abaqus」を用いた設計者CAEの実践とそのメリット設計部内に解析チームを!

鍵・錠前の総合メーカーである美和ロックは、設計部内に解析チームを設け、設計と解析が一体となったスピーディーかつ高品質なモノづくりを実践している。立ち上げが難しいともいわれる「設計者CAE」をどのようにして成功に導き、ハイエンドツールとして知られる「SIMULIA Abaqus」の活用を進めているのか。担当者に話を聞いた。

» 2020年02月28日 10時00分 公開
[PR/MONOist]
PR

 設計の初期段階でシミュレーションを回し、品質の早期作り込みや開発スピードの向上を目指す、フロントローディングの考え方が叫ばれて久しい。年々、市場競争が激化するモノづくりの現場では、CAEを製品開発の初期に活用し、品質向上、開発期間短縮、コスト削減を図ろうとする動きが目立ち、解析専任者だけでなく、設計者自身がCAEを使いこなす「設計者CAE」に取り組む現場も少なくない。

 だが、その一方で、設計者自身の知識/スキル不足や、解析結果を読み解けずに設計の見直しに生かし切れないといった声も耳にする。

 そうした中、現場での定着が難しいとされる設計者CAEの立ち上げを見事にやってのけ、さらに、高度な有限要素法解析ツールとして知られる「SIMULIA Abaqus」を設計者自身が活用するという、非常に挑戦的な体制を構築した企業がある。鍵・錠前の総合メーカーである美和ロックだ。

 Abaqusといえば、自動車や船舶、航空機といった大規模かつ複雑なアセンブリのシミュレーションにも活用され、“専門性の高いツール”というイメージだが、どのようにして設計者によるAbaqus活用を成功に導いたのだろうか。また、鍵・錠前の世界でAbaqusがどのように用いられているのだろうか。

より良い製品をスピーディーに開発、美和ロックが目指すモノづくり

 美和ロックは1945年創業の鍵・錠前の総合メーカーで、主力のセキュリティ事業、SD(サービス代行店)事業、サイン事業を柱にビジネスを展開。建築用錠前では国内約60%のシェアを誇り、同社の成長をけん引している。その原動力となっているのが、最先端技術を活用したオンリーワン製品の開発だ。

 開発技術センターを併設する三重県の玉城工場では、各部門が一体となった製品開発、絶え間ない研究開発が行われ、防犯性と利便性を兼ね備えたスピーディーなモノづくりを実践するとともに、鍵・錠前の生命線ともいえる品質の維持向上にも積極的に取り組んでいる。このスピードとクオリティーの両立こそが、美和ロックブランドの高い技術力、そして高い信頼の証しといえる。

 Abaqusの導入も、単に設計現場におけるCAE活用を実現することが目的ではなく、開発スピードのさらなる向上が真のゴールであるという。もちろん、それは品質ありきであることは言うまでもないが、美和ロックではより良い製品をスピーディーに開発することを使命に、設計部内に解析チームを設け、設計者との風通しを良くしつつ、設計者が求める解析結果が得られる環境を整えている。

美和ロック 製品設計部 村上龍司氏 美和ロック 製品設計部 村上龍司氏

 解析の適用領域について、美和ロック 製品設計部 村上龍司氏は「現在、主に複雑な内部機構を有する錠前の新規機構開発、派生機構開発時の強度解析でAbaqusを活用している。錠前の強度解析には非線形と任意の接触判定が必須であることからAbaqusを選定した」と説明する。

 実は、美和ロック社内でのCAE活用に向けた検討は2005年当時から進められており、3D CADソフトに付属する簡易解析から始まり、専用ソフトによる線形解析、非線形解析と、段階的に活用を模索してきた。しかし、2013年に導入した非線形解析ソフトではどうしても収束せず、結果が出ないという課題に直面。困っていたところ、SIMULIAの認定パートナーで、ダッソー・システムズの販売代理店でもあるインターメッシュジャパンと出会い、手厚いコンサルティングと運用サポートを受けながらAbaqusの実運用に至ったのだという。

錠前の強度解析に「Abaqus」を活用し、厳しい性能試験をクリア

 防犯性の高い錠前として、「防犯建物部品」(共通標章CPマーク)の防犯性能試験に合格した製品がある。このCPマークを取得するためには、防犯性能試験で課せられる非破壊的な開錠を試みる第1系列試験、破壊行為に関する第2系列試験、そして、試験員がバールでドア錠をこじ開ける第3系列試験を順番にクリアする必要がある。いずれの試験も5分以上耐えることが合格条件となるが、第3系列試験については、JIS A1541-2の「外力に対する性能」のグレード3以上の強度性能があれば、試験をパスできるという規定がある。この強度性能のエビデンスとして、美和ロックでは陽解法による有限要素解析ツール「Abaqus/Explicit」を用いている。

図1 実際の試験結果と解析結果の比較(カンヌキの押し込み強度試験) 図1 実際の試験結果と解析結果の比較(カンヌキの押し込み強度試験)

 「具体的には、カンヌキの押し込みや側圧の強度試験において、Abaqusによる解析を実施している。実際の試験値と解析値との差については、非常に満足した結果が得られている。その他、設計案の絞り込みや機構部の強度確認などで活用している。また、課題が見つかった製品の原因究明、試作評価における問題箇所の追究などにも利用しており、導入前に比べて飛躍的に作業効率が向上した」(村上氏)

図2 実際の試験結果と解析結果の比較(カンヌキの側圧強度試験) 図2 実際の試験結果と解析結果の比較(カンヌキの側圧強度試験)

あえて解析専任にはしない、美和ロック流「設計者CAE」のメリット

 設計部内に構築した解析チームは、現在、マネジャーを除き、5人のエンジニアで構成されている。設計部内の各開発チームのリーダーあるいはメンバーから人員を選出し、全員が設計と解析を兼任している。「解析の活用を設計部内に浸透させるために、異なる開発チームから人員を選んでいる。解析だけを行う専任組織にはあえてせずに、設計業務との兼任という形で発展させていく考えだ」と、美和ロック 製品設計部 次長の中野昌浩氏は語る。

美和ロック 製品設計部 次長の中野昌浩氏 美和ロック 製品設計部 次長の中野昌浩氏

 あえて解析専任の組織を作らず、設計業務との兼任を大前提とし、設計部内に解析チームを置くことの狙いはどこにあるのか。一見すると設計者の負荷ばかりが増えてしまうようにも思えるが、それを補って余りあるメリットが得られるという。

 まず、解析者自身が設計者として製品に関する知識を持っていることが大きく作用し、「解析依頼内容の理解が早く、より現実に近い条件設定が行える。また、見当違いの解析結果を出すこともない。さらに、解析結果を基に、対策形状などを逆提案するといった設計者としての強みも発揮できる。解析チームで経験を積むことで、こういう形状の場合、どのくらい強度が出せそうかなど、設計力の向上も図れる」と村上氏は述べる。

 加えて、解析チームが設計部内にあることで、設計者と解析者との温度差がなくなり、緊急案件などに対して協力し合って取り組んだり、解析内容に関する密なコミュニケーションが図れたりと、必要に応じて優先順位を付けながらも、効率的に解析業務を回せているという。

 「Abaqusを導入して以降、試験結果をシミュレーション上で事前に予測できるようになり、複数の設計案からの絞り込みも効率的に行えるようになった。開発スピードや品質の向上だけでなく、試作回数、試作コストの削減にもつながった。今後、さらに解析業務の効率化を図り、より良い製品をスピーディーに開発できる体制を強化していきたい」(村上氏)

美和ロックで設計者CAEを推進する中野氏(右)と村上氏(左) 美和ロックで設計者CAEを推進する中野氏(右)と村上氏(左)。村上氏が手にしているのは自ら設計したホテルカードロック「ALV2JM」

 現在、こうした取り組みが高く評価され、社内における認知も広がり、他部門からも解析依頼が舞い込んでいるそうだ。「まだ立ち上がったばかり、これからだ」(中野氏)というが、その芽は着実に伸び、設計現場、そして社内全体にしっかりと根付こうとしている。美和ロックの挑戦は、設計者CAEに取り組もうとする多くの設計現場の参考となるに違いない。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.


提供:ダッソー・システムズ株式会社
アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2020年3月27日