日立製作所のプライベートイベント「Hitachi Social Innovation Forum 2019 TOKYO」のリテールコーナーでは「小売現場の高度化」をテーマにさまざまな展示を行った。西友との協創事例の他、3D LiDARによる来店客の行動検知、指静脈認証による決済など独自技術のデモンストレーションを披露し、来場者の注目を集めた。
日立製作所は2019年10月17〜18日、東京国際フォーラムにおいてプライベートイベント「Hitachi Social Innovation Forum 2019 TOKYO」を開催した。同イベントでは多数の講演が行われた他、展示会場では進化を続ける社会イノベーション事業の最新成果や今後の展望などが7つのゾーンに分けて披露された。
製造業や流通業との関わりが深いインダストリーゾーンは、「ロジスティクス&リテール」「マニュファクチャリング」「ロボティクス」「メンテナンス」の4つのコーナーを展開。今回は、「ロジスティクス&リテール」コーナーのうち、小売店舗やその運営に関わるソリューションについて展示を行った、リテールの分野に特化して紹介する。
現在、小売の現場には、働き方改革による労働時間の短縮や人手不足、属人化の解消やエネルギーロスの削減など数々の課題がある。これらを解決、解消に導くには高度なIoTの活用が不可欠となる。また、消費者との接点である店舗は、その背後で流通や製造の現場ともサプライチェーンでつながっている。現在、小売の現場が抱えている課題の一部を解決するには、これらと連携、協調することも重要であり、関連する技術やソリューションも展示された。
リテールコーナーの最初に展示されていたのが、流通データを管理し活用するための「Hitachi Digital Solution for Retail」だ。既にスーパーマーケット大手の西友が「Hitachi Digital Solution for Retail / AI需要予測型自動発注サービス」を2019年10月から順次導入を開始したことが発表されている。
同サービスは、日毎に販売量の異なる弁当や総菜の最適な発注量を決定可能にするものだ。処理にはHitachi Digital Solution for Retailの基盤を活用し、AIを使って多数のデータを処理している。
弁当や総菜などを多数扱うスーパーマーケットでは、天候や地域のイベント、競合店の動きなどによってこれらの販売量に差が出るのが一般的だ。当然ながら、発注はそれらを見込んで行われる。しかし、売れ行きが悪ければ大幅な値引きを行わなければならず、売れなければ廃棄を強いられる。弁当や総菜には消費期限があり、売れるまで陳列を続けることができないからだ。逆に、発注量が足りなければ欠品が生じて販売機会を失うことになる。
従来では、廃棄ロスや販売機会の損失を最小にすべく、熟練の担当者が過去の販売実績や経験を基に発注量の調整を行っていた。しかし、これは属人的な技術であり、担当者によって精度にバラツキがあった。また昨今、労働力不足や働き方改革が求められる中、ベテランのスタッフが発注業務に時間を取られることも改善すべき課題となっていた。同サービスは、それらを解決するものだ。
発注量が適性であれば、近年社会課題となっている売れ残りによる食品廃棄ロスが削減できる。同時に、欠品による販売機会の喪失も防げる。また、発注業務を自動化できるので、担当者は店内での加工や品出しなどの他の業務に専念できる。
3D LiDAR(Light Detection and Ranging、ライダー)を使って、店内の人の動きを検知・トラッキングする技術を展示したのは日立LGデータストレージだ。
3D LiDARは、レーザー光で空間をスキャンし、その反射光を受光するまでの時間の差分から対象物との距離を計測するセンサーである。展示は、この技術を店舗内で使い、入店から退店の全てに渡って人の動きをトラッキングすることができる様子を紹介した。「3D LiDARが捉えた点群データにて人を検知します。そして、その人の頂点の座標を追いかけることで、来店客の移動をトラッキングします。もちろん、複数の来店客を個別IDにて把握することもできます」(日立LGデータストレージの説明員)。
3D LiDARによる検知結果を店内地図とひも付けることで、来店客がどのような経路で商品に到達したかや、どの場所にどれくらい滞在したかが分かる。また、手の動きも認識できるので、何を手にしたかや、何に手を伸ばしたかなども把握できるという。来店客の行動の詳細な分析に活用できることもあり、既にアパレルを中心に120店舗ほどで導入実績があるとのことだ。
また、他の技術と連携することで、来店客のより高度な行動把握にも役立てられる。例えば、画像認識システムで来店客の性別や年齢などが得られれば、このデータと結び付けることで、情報分析の質を高められる。商品陳列ポイントごとの滞在時間や商品棚に手を伸ばした動作を分析すれば、性別や年齢別に行動や興味の傾向が浮き彫りになるだろう。
このような情報は、週あるいは月ごとに集計して分析することで、店内のレイアウトや仕入れ品の変更などを行うPDCAの材料となる。例えば、特定の人物だけが店内の滞在時間が長いのに購入を行っていないなどの異常行動もスムーズに把握できそうだ。
生体認証を利用した決済ソリューションの1つとして、日立が高度な技術を有する指静脈認証に関する展示も行われた。
コンビニや大手スーパーチェーンなどでは、“ハウスカード”と呼ばれる独自に電子マネーをチャージできる会員カードの採用が広がっている。この傾向は、各地域で顧客の生活に密着している地方スーパーでも顕著だ。しかし、これらのカードには課題もある。まず、紛失や盗難といったセキュリティ上の心配がある。そして顧客自身がカードを忘れてしまうと買い物ができないし、家族のカードを持参した場合に対応できないこともあるという。
指静脈決済ソリューションは、カードが持つこれらの弱点を一気に解消するものだ。指静脈認証では、その名の通り、指内部の静脈のパターンによって個人の認証を行う。個人の認証はチャージ式のハウスカードとひも付けされているので、カードがない状態でも買い物の支払いができる。指による個人認証が行われると、買い物の代金は電子マネーの残高から引き落とされる。
生体認証では、指静脈の他にも指紋や顔、目の虹彩など多数の候補がある。その中で指静脈が優位とされているのが、セキュリティ面での信頼性の高さだ。指内部にある静脈は、その状態を人間が外部から判別できないことから、悪意を持って複製することは極めて困難である。また、指紋認証の場合は、指先がぬれていたりすると認証ができないことがあるが、指静脈認証であればそのような問題は発生しない。
指静脈決済ソリューションは既に中国・四国地方でスーパーマーケットを運営するエブリイで実証実験も行っている。同実験には、エブリイと日立の他に、POSシステムを手掛ける東芝テックと電子カードを手掛けるアララが参加した。
実験は、2019年5月7日〜7月19日までの2カ月半、エブリイの社員約100人を対象に実施された。指静脈認証によりレジでの支払いが短時間で行える一方で、いつ決済が完了したのか顧客が気付きづらい。「対応策としては、レジ前にサブディスプレイを設置し、顧客自身が指静脈認証やカード、現金など、支払い方法を自ら選ぶ方法が考えられます。そういったユーザーインタフェースの改善により導入に近づけられるのでは」(日立の説明員)という。
今後もさまざまなキャッシュレスのシステムと指静脈認証を連携する実証実験を検討しているとのことだった。
チェーンストアに代表される多店舗運営の効率化に向けて、「チェーンストア向け設備運用効率化ソリューション」と「多店舗メンテナンスサポートサービス」の展示も行った。
チェーンストア向け設備運用効率化ソリューションは、例えば空調や冷熱システムに設置されたセンサーの情報を遠隔監視することで、予兆保全や保守業務の品質と効率の向上を可能にするものだ。展示では、チェーンストア全体の平均的なエネルギー消費特性から逸脱している店舗を例に、原因の特定例が紹介された。
温度に関して平均的なエネルギー消費量から大きく逸脱する店舗には、必ずその理由がある。多くの場合、それは冷媒ガスの漏れや保温壁の損傷などによるところが大きい。これらが発生すると、設定した温度を保つために空調や冷熱システムの稼働率が高まる。電力の消費量が増えるのはこのためだ。
これに対し、センサーによってその予兆を早い時期に検知できれば、それだけムダなエネルギーを使わずに済む。また、効率的なメンテナンススケジュールの作成による、人財の有効活用が可能になる。
監視システムが導入されていない場合、その年の夏の終わりに発生した空調や冷凍に関する不具合が翌年の初夏まで見つけられないこともある。監視システムがあれば、長期間ムダなエネルギーを浪費した上に急ぎのメンテナンスを強いられるような事態は回避できる可能性が高い。このシステムは、センサーをIoT化することでリアルタイムでの監視も可能となるという。
「多店舗メンテナンスサポートサービス」は日立システムズが提供している。店舗運営に必要な各種のメンテナンスや修理に関わる業務管理を、問い合わせ窓口センターを起点に行うものだ。
店舗の運営には看板や設備機器、什器など非常に多くのものが必要になる。しかし、これらのメンテナンスは、各店舗を統括する保全本部や、各設備機器や什器で異なる保全会社が関わるため、不具合や故障などの際に手続きや連絡が非常に煩雑になるという問題があった。同サービスは、それらの手続きや連絡を単一の窓口となる問い合わせ窓口センターに集約することで、修理やメンテナンスに関わる店舗、保全本部、保全会社間のやりとりを効率化するものだ。そのために必要なクラウド統合プラットフォームも日立システムズが開発を進めており、2020年2月をめどにリリースを予定している。
同サービスにより、店舗は器具や設備のメンテナンスについて、問い合わせ窓口センターに電話を1本かけるだけで処理できるようになる。その後の進捗管理や見積もりなどもプラットフォーム上で適切に処理され、進捗状況もダッシュボードで見える化されるので、問い合わせ窓口センターでクローズされ、店舗や本部の負担軽減につながるというわけだ。
日立の“OT×IT×プロダクト”で新たな価値を創出 つながりが生むモノづくりとバリューチェーンの革新
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提供:株式会社日立製作所
アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2019年12月20日