ファクトリーオートメーション(FA)機器などを展開するオムロンでは業務プロセス改革の一環としてRPAを導入。全社的に展開し、生産や調達などのモノづくり部門でも大きな成果を生んでいるという。RPA導入に取り組んだオムロンの取り組みを追う。
製造現場に無縁だと考えられてきたRPAだが、現場改善の新たな一手となるかもしれない――。働き方改革への取り組みから「RPA」の導入が国内でも広がりを見せている。RPAとは「Robotic Process Automation」を意味し、PCでのデスクワークにおける定型作業を自動化するソフトウェアを指す。ノンプログラミングで簡単に事務作業の負荷を軽減することができることから注目を集めているのだ。
ただ、製造業にとっては、間接部門での活用は進められているものの、設計や製造、調達などモノづくりに直結する部門では「関係ない」と考えられがちだった。しかし、その認識は間違いだということになるかもしれない。ファクトリーオートメーション(FA)機器やヘルスケア製品などの開発、製造を行うオムロンでは、業務プロセス改革の一環としてRPA導入を進めているが、生産部門や調達部門などモノづくり部門で大きな成果を生み出しているからだ。オムロンでのRPA導入への取り組みを紹介する。
オムロンは、コア技術とする「センシング&コントロール+Think」を軸に、FA、ヘルスケア、モビリティ、エネルギーマネジメントの4つのドメインでグローバルに事業を展開している。そのオムロンが現在、全社を挙げて取り組んでいるのが働き方改革である。
その狙いについて同社 グローバルビジネスプロセス&IT革新本部 ITプラットフォーム革新センタ ワークスタイルアプリケーション部の好本和浩氏は「オムロンが抱える業務の中には、人がカバーすることでQCD(品質、コスト、納期)を維持している業務が数多く存在します。これらの業務の中で、定型・反復・大量の作業工数部分を効率化することで、人が本来取り組むべき業務に集中でき、さらなるQCD向上を目指すことができます。これにより、従来の時間の使い方が変化し、多様な働き方改革を実現することが可能になると考えています」と語る。
オムロンでは、これまでもさまざまな業務のスリム化プロジェクトを実行し、既存の業務プロセスの見直しやそこに内在している無駄の排除に継続的に取り組んできた。
そうした中、間接業務のさらなる効率化を実現するための新たなアプローチとして着目したのが、RPA(Robotic Process Automation)の活用である。「RPAを使えば、さらに一歩進んだ業務の自動化・高度化が実現できるのではないかと考えました。ちょうど同じ頃、市場で盛り上がりを見せ始めたのがRPAで、経営陣からも『検討するように』と指示がありました」と好本氏は語る。
オムロンでは、創業者・立石一真氏の経営理念の中に「機械にできることは機械に任せ、人間はより創造的な分野で活動を楽しむべきである」という考え方が企業文化として、従業員に深く根付いており、「RPAは、まさにこの言葉を体現できるツールであり、オムロン社内では、受け入れられやすいツールだと考えています」と好本氏は語る。
オムロンは、10年先を見据えた経営課題およびITシステム課題を解決するための基本構想を掲げており、経営課題の1つとして「業務の自動化・高度化」の有効な打ち手として、全社的にRPA導入の検討を開始した。
実は同社にとって、この施策を早急に進めていかなければならない事情もあった。「RPAへの注目が高まってきたことで、各部門が個別にRPAツールを導入するケースが見られ始めたのです」と語るのは、同社 グローバルビジネスプロセス&IT革新本部 ITプラットフォーム革新センタ ワークスタイルアプリケーション部 中村孝次氏だ。
部門ごとのバラバラな取り組みのままでは、部門個別に作られたロボットが無秩序に増殖し、全社的な効果創出につながらないおそれがある。「後手を踏まないためにも、まずはわれわれ全社IT部門がRPAの全社活用方針やルールを策定し、適切なガバナンスを確保することを優先しました。事業部門はこの全社ルールに沿って導入することで、安全かつローコストでRPAを活用し、業務の自動化や生産性向上を実現できると考えました」と中村氏は語る。
これらの経緯からオムロンでは、全社標準のRPAツールの選定を急いだという。選定に際して特に重視したポイントの1つは、サーバ型のRPAであることだ。RPAは業務プロセスをロボットによって自動化するというものだ。そのため、人間の目が行き届かなくなり、間違った運用をすると情報漏えいなどの問題を引き起こすリスクを生みかねない。また、業務プロセスがブラックボックス化することでメンテナンスも困難になる。そこで従来のプロセス以上にガバナンスが重要になるわけである。しかし一方で、あまりにも厳格にガバナンスを徹底すると現場の利便性が失われ、結局誰にも使われないRPAになってしまう。
「RPAの効果を最大化するためには、内部統制や情報セキュリティといった全社的なガナバンス部分と現場である業務部門の利便性のバランスをいかにうまく取るかが重要になります。そのために全社標準ツールはクライアント型ではなくサーバ型にすべきだと判断しました」と好本氏は語る。具体的にはサーバ型のRPAの機能を使って、各現場で稼働しているロボットを一元管理し、利用状況を定量的に監視したり、ポリシーに違反する動作を検出・制御したりできることを重視したという。
そしてもう1つのポイントが、グローバルで活用できるRPA基盤であることだ。「われわれはグローバルに事業を展開しており、世界の国々で容易に導入でき、サポートも受けられるツールであることが大前提でした」と好本氏は語る。
上記のような条件を最も高い評価で満たしたRPA基盤が、IBM Robotic Process Automation with Automation Anywhereとなり、同基盤の導入を決めた。
オムロンのRPA導入は、2018年7月よりIBMのコンサルティングチームと共にPoC(概念実証)を実施し、導入ルールやガイド類を整備することからスタート。その上で実際のロボット構築に取り掛かったのだが、「事業部門に対しては、最初のステップではあまりRPAを意識せずに、業務改革の観点で業務の棚卸しをしてもらいました。フォーマットを決めて、それぞれの現場で改善したい業務を書き出してください、と依頼しました」と中村氏は語る。
このように、RPAを意識せず業務改革という旗印を立てることで、できるだけ多くの業務をリストアップすることができたといえる。同時に、複数の部門で重複している業務や担当者ごとの手順のバラツキなどを洗い出すことができ、業務の標準化にもつながっている。その結果、「調達、生産、営業、会計、人事、管理など、働き方改革や業務効率化に取り組むあらゆる業務領域から、トータルで数百件の業務が上がってきました」と中村氏は語る。
そして次のステップとして、その中からRPAに適した業務の選定にあたった。そのとき意識したのは、効果がすぐに出せるいわゆる「“Quick Win”を実現できる業務であるか?」というポイントだ。具体的には、期待できる削減工数の大きさだけでなく、実装の容易さ(開発期間)なども評価軸に加えた。また、想定効果については「金融機関などに比べると製造業では大量の反復業務が少なく、業務あたりの定量効果がでにくい面があります。そこで定量的な効果だけではなく、定性的な効果も加味して評価しています」と好本氏は語る。
こうして第1弾として約50の業務を選定し、順次ロボット開発を開始。2018年10月より各事業部門での実運用を開始した。
ロボット化された約50の業務の中には、生産部門や調達部門からの業務も数多く含まれていたという。「当初は経理や人事総務などの業務に偏ってしまうのではないかと想定していたが、実際にモノづくり現場でもRPAが活用できる業務が存在するということが、改めて確認できました」と中村氏は語る。
以下にその事例を紹介しよう。
製造を行う中で、顧客から納期短縮を要求された場合、オムロンからもサプライヤーに対して部材の納期の前倒しを依頼する必要がある。しかし、対象となる部材のアイテム数は数千あり、サプライヤーも多岐にわたる。担当者は毎朝1回、サプライヤーごとの納期前倒しリスト、納期未回答リスト、納期遅れ回答リストを作成して送付しているのだが、それだけで手いっぱいなのが実情だった。この作業をロボット化することで、担当者は本来実施すべきフォロー業務の時間を確保でき、納期回答精度を上げることができた。
必要な部材をスムーズに調達するためには、サプライヤーと最新のフォーキャスト情報を常に共有する必要がある。従来はこれらの情報共有も人手による作業に依存していた。これらのフォーキャストの送付作業をロボット化することで、より迅速かつ正確な情報共有を実現した。
出荷漏れは顧客への納品遅れに直結する重大事故となる。担当者は朝一番で各種の伝票類を突き合わせてチェックを行っているが、万一、出荷遅れや出荷指示漏れが発覚した場合、出荷の再手配や顧客への連絡、対応策の協議などで、想定外の多大なコストと工数を費やすことになる。
24時間働き続けることができるロボットを導入することで、担当者が出勤する前に出荷の突き合わせ作業を行い、チェックを完了させることが可能となった。担当者が出勤するとチェックが完了しているため、出荷遅れや出荷指示漏れがあった場合、すぐにリカバリー作業に取り組めるようになり、発生するコストや工数を最小限に抑えられるようになった。
人事が担当する業務ではあるが、生産部門や調達部門などで働いている従業員にも大きく関連するため紹介したいのが昇格試験案内業務だ。オムロンで年1回行われている昇格試験の結果は本人にメールで通知されるが、宛先間違いなどのミスは絶対に許されないため、人事の担当者は慎重な対応と何重ものチェックを強いられていた。この業務をロボット化したことで、送付先リストを準備するだけで間違いなく本人に通知が行われるようになり、人事の担当者はストレスから解放された。
これらの事例のようにオムロンにおけるRPA導入の成果は、まさに「人への負荷の軽減」を実現するもので、定性的な意味合いも大きい。ただ、それでもさまざまな業務の効率化を積み重ねれば、相当な定量効果となって表れてくる。「2019年度、既存のロボット化業務に加え、追加のロボット化も計画しており、年間で約1万5000時間の工数削減を見込んでいます。確実に成果は上がっています」と、好本氏は手応えを示す。
現状のこれらの成果は国内でのものだが、並行して進めているのがRPAのグルーバル展開だ。既に北米、シンガポール、韓国の拠点にはIBMのグローバルネットワークを活用して展開済みだが、引き続きヨーロッパや中国にも展開を進めていく計画だ。
そしてその視線は、さらなるRPA活用範囲の拡大に向けられている。具体的な検討に入ったテーマの1つが、「紙」を使用する業務へのRPA適用だ。「ペーパーレスといわれて久しいのですが、オムロン社内では紙に縛られている業務がまだまだ多く、毎月多くの工数が割かれています。そうした業務にAIを活用したOCR(Optical Character Recognition、光学的文字認識)を導入し、自動で文字を読み取ってデータ化することを検討しています。さらに、ワークフローやRPAを組み合わせることで、一連の処理業務を自動化できるようにしたいと考えています」と好本氏は語る。
「機械にできることは機械に任せ、人間はより創造的な分野で活動を楽しむべきである」の哲学のもと、「機械に任せる領域」を模索する取り組みはまだまだ続きそうだ。
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提供:日本アイ・ビー・エム株式会社
アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2019年9月23日