PoCから先の実用化へのステップがIoT導入のハードルとなっている。ソフトバンク・テクノロジーは、この負担を軽減し、拡張性と導入コストの最適バランスを取りつつ、モノやサービスとIoTを連携するプラットフォームサービス「IoT Core Connect」を開発。「プラットフォーム×業務別テンプレート」により、製造業をはじめとする企業のIoT導入を後押ししていく。
ソフトバンクグループのICTサービス事業会社であるソフトバンク・テクノロジーが、第2次3か年計画(2017年3月期〜2019年3月期)の基本戦略として掲げているのが、「クラウドへの集約」と「IoTビジネスの開発」である。
「クラウドへの集約」では、これまでの注力領域である「クラウド」「セキュリティ」「ビッグデータ」を融合し、さらに付加価値の高いサービスの提供を目指す。また、さまざまなプロジェクトに対応する中で培ってきた知見や資産をサービス化し、パートナー協業によるサービス拡販のモデルを確立していく。
一方の「IoTビジネスの開発」においても、IoT(モノのインターネット)デバイスの安全/安心な利用を実現するデバイスセキュリティサービスの提供に加え、クラウド、エッジコンピューティング、AI(人工知能)などの技術を融合した付加価値創出に注力していく。IoTのデバイス領域から、クラウド/AI領域までをワンストップで提供するビジネスモデルの確立を進めていくとする。
これら2軸の基本戦略による3か年計画の最終年度に当たる現在、ソフトバンク・テクノロジーはどのようなビジネスの動きを見せているのだろうか。同社 技術統括 クラウドソリューション本部長の水田篤彦氏は、「これまでは主に情報システム部門に向けたソリューション提供を行ってきましたが、今後は事業部門のデジタルトランスフォーメーションへの取り組みをより手厚く支援していきたいと考えています。重点的なターゲットは、私たちがすでに多くの顧客基盤と実績を持っている製造業と建設業です」と話す。
その製造業と建設業を強く意識して開発を進め、2018年10月からサービス提供を始めたのが、「IoT活用に必要なサービスをつなげる」をコンセプトとするプラットフォームサービス「IoT Core Connect」である。マイクロソフトのクラウドプラットフォーム「Microsoft Azure(以下、Azure)」をベースに、エッジコンピューティング領域を含む多様なデバイスとAIの連携を実現するものだ。IoTシステムの構築および活用に必要なモノ、データ、ヒトを統合的に管理するサービスをワンストップで提供し、製造業をはじめとする企業の新たなビジネスモデル創造を支援していくとする。
デジタルトランスフォーメーションを象徴する「モノからコトへ」の流れを捉え、BtoBのサービスビジネス化を指向する多くの製造業が、その事業展開を支える基盤としてIoTを積極的に活用していきたいと考え始めている。「こうしたIoTへの高まるニーズに応えていくためには、やはりクラウドベースでIoTの機能をスピーディーに導入、活用できるパッケージソリューションの形で提供していくことが最適解となります」と水田氏は言う。この基本戦略をIoT Core Connectとして体現したわけだ。
もっとも、世の中では同様の狙いをもったIoTスターターパックと呼ばれるようなキットやサービスがすでに多数登場している。これらの先行製品に対して、IoT Core Connectはどのような独自性や強みを打ち出していくのだろうか。
ソフトバンク・テクノロジーが見据えているのは、IoTの初期導入の“次のステップ”となる実用化にある。水田氏は「もちろんIoT Core Connectとしても、現場で稼働しているさまざまなデバイスから容易にデータを収集し、それらのデータを可視化できる仕組みを基本機能として提供します。しかし、それによって実現できるのはPoC(概念実証)までです。その先の実用化に向かうためにはアプリケーションの作り込みが必要となり、多額のSI費用と時間がかかることから多くの企業が立ち止まってしまいます。IoT Core Connectは、そうしたアプリケーション構築からサービス展開まで一貫してサポートする仕組みを業務別テンプレートとして提供していきます」と説明する。
具体的には、製造業のサプライチェーンの保守・アフターサービス領域におけるフィールドサービスなど、さまざまなIoTアプリケーション群をカスタマイズ可能なSaaSテンプレートとして拡充を図り、基本機能の上に乗る“2階”の業務別テンプレートとして提供していく。「当社ならびにパートナーによるIoTやAIの実用化に知見のあるコンサルタントが、多様なニーズに合わせてこれらのコンポーネントを取捨選択し、適材適所で柔軟に組み合わせることで、お客さまの目標とするIoTのサービスやビジネスモデルを低コストかつ短期間で具現化します」と水田氏は訴求する。
IoT Core Connectのこの“2階建て”モデルのベースとなったのは、ソフトバンク・テクノロジーが、エナジー・ソリューションズ(ESI)ならびにM-SOLUTIONS(M-SOL)の両社と共同開発し、2018年8月にリリースした「ドローンを用いた太陽光発電所の赤外線検査におけるAIによる赤外線画像(IR)自動解析ツール」である。
もともとESIは、2016年9月に「ドローンアイ」と呼ばれるサービスを開始して以来、全国約100カ所に点在している出力400MW以上のソーラーファーム(太陽光発電所)を対象に赤外線検査を実施してきた。しかし、これまでの検査ではホットスポット(太陽光発電パネル上に落ち葉などが付着してその部分が局所的に発熱する現象)の判別を目視で行い検査報告書を作成する必要があり、多大な人手を費やしていた。
共同開発した自動解析ツールは、この作業負荷を軽減するものである。ドローンで収集した大量の検査データに対し、ソフトバンク・テクノロジーがAzureの「Custom Vision」や「Azure Machine Learning」をベースに開発した画像認識アプリケーションを適用することで、高精度な異常モジュール検出を実現した。また、M-SOLがAzure上で開発した「ドローンアイIR解析ツール」との連携により、誰でも迅速かつ正確に検査解析を行えるようになり、モジュール検査報告書の作成もほぼ自動化された。
IoT Core Connectは、この事例にあるように、ドローンの赤外線カメラなどデバイスからのデータ収集やクラウド連携を担う部分を基本機能として提供するだけでなく、データ分析や報告書作成などのアプリケーションおよびその開発環境を“2階”の業務アプリケーションとして提供するのである。
こうしたIoT Core Connectの仕組みを作るにあたり、なぜソフトバンク・テクノロジーは数あるクラウドプラットフォームの中からAzureを選択したのだろうか。
水田氏は「Azureを採用した最大の理由は、日本企業が最も安心して使えるパブリッククラウドであることです。東日本と西日本の2つのリージョンに最初にデータセンターを設置したのはAzureですし、セキュリティやプライバシー保護などのコンプライアンス要件についても国内法に準拠しています。これは安全性を何よりも重視する製造業や建設業のお客さまにとって非常に大きなポイントです」と強調する。
さらに、同社 営業統括 ソリューション営業本部 Cloud & IoTソリューション部のシニアセールスである小菅剛氏は「弊社自身が豊富なSI実績を持つことからもいえるのですが、既に多くのお客さまがハイブリッドクラウドのプラットフォームとしてAzureを利用しています。さらに視野を広げれば、製造業や建設業のお客さまもオフィス業務ではOffice 365などのコミュニケーション基盤においてマイクロソフトのクラウドサービスを利用しています。その意味でも、これらのお客さまが新たにIoTに乗り出していこうとしたとき、既存資産とのシームレスな連携を実現することができるAzureはとても有利です」と声をそろえる。
一方、技術的な観点からAzureの優位性を評価するのは、同社 技術統括 クラウドソリューション本部 IoTソリューション部 サービスエンジニアリンググループのエキスパートエンジニアである中平頼孝氏だ。中平氏は「AzureのPaaSは他のクラウドサービスを圧倒しています。例えば、『Azure IoT Hub/Edge』を筆頭に、さまざまなIoTデバイスを監視、制御、管理する機能も充実しています。これらのPaaSをAPIで呼び出して組み合わせることで、クラウド上のAIで作成した学習モデルや加工済みのデータをエッジに展開する仕組みも簡単に構築することができます。もちろん、クラウド上では必要に応じてノードをスケールアウトしたり、GPUを含めたリソースをスケールアップしたりできますし、一時期に集中的に負荷が上昇することが多い機械学習関連の処理にも柔軟に対応可能です」と語る。
また、AzureのPaaSをベースにアプリケーションを組み立てることで、OSのパッチ適用やアップデートなどの作業は全てマイクロソフト側で行われる点にも言及。「お客さまがIoTシステムの本番稼働を開始したあとも、煩雑なメンテナンス作業から解放されることで、運用コストを抑えてサービス提供ができます。また、私たちはアプリケーション開発に専念できるので、新たな付加価値サービスをお客さまに提供することができます。Azureをプラットフォームに利用したからこそ、IoT Core Connectの“2階建て”モデルを実現できたといって過言ではありません」(中平氏)という。
今後、IoT Core Connectの“2階”の業務別テンプレートにはどんなアプリケーションが展開されていくのだろうか。ソフトバンク・テクノロジーが最初のターゲットとして準備を進めているのは、製造業においてユーザー企業のさまざまな現場に納入した自社のIoT製品(スマートプロダクト)の稼働状況を遠隔から監視して可視化し、故障予測による予知保全に基づいてフィールドサービスを効率化するアプリケーションだ。「自社製品のサービスビジネス化による付加価値提供を指向する製造業のお客さまは着実に増えており、このアプリケーションについて既に多くの引き合いが寄せられています」と小菅氏は語る。
さらに人材不足や付加価値創出に課題を抱いている顧客にAIなどの最新技術を活用したサービスを提供していく計画だ。「製造業や建設業のお客さまから多くご相談いただいているのが、人材不足による業務の省人化です。その解決策としてIoTで収集したデータをAIで分析するというサイクルを回す必要があります。今後は故障予測などの時系列データの分析だけでなく、画像認識による目視作業の簡略化など、フィールドサービスで必要なさまざまな業務別AIを提供していきたいと考えています。また、新しい技術として、マイクロソフトのMR(複合現実)ヘッドセット『HoloLens』を利用した修理業務の支援など、フィールドサービスに革新を起こしていきます」と、水田氏は今後を見据えている。
これに合わせてソフトバンク・テクノロジーは、社内における開発およびコンサルタント体制のさらなる拡充を図る一方、製造業や建設業などのBtoBサービスを提供する企業におけるIoTのビジネス化を共に推進していく協業パートナーを広く募っている。2018年11月現在、日本マイクロソフトをはじめ既に18社(アラヤ、エイシング、岡谷エレクトロニクス、金沢エンジニアリングシステムズ、クラウディアン、ケーメックス、コンテック、サイバートラスト、サンダーソフトジャパン、センスウェイ、東京エレクトロン デバイス、日本ヒューレット・パッカード、マクニカ、LeapMind、Moxa、PTCジャパン、VIA Technologies)の賛同を得ており、このエコシステムのもとでIoT Core Connectを強力に展開していく考えだ。
PoCから実用化へのハードルを乗り越えるIoTサービスとは?
「優れた顧客体験」の提供や「サービスビジネス」の実現にIoT・AI活用への期待が高まる一方、多くの企業において実用化が進んでいないのが実情だ。そこで、IoT・AI活用の課題を解決するサービスを、ユースケースと併せて紹介する。
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提供:日本マイクロソフト株式会社
アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2018年12月19日
「優れた顧客体験」の提供や「サービスビジネス」の実現にIoT・AI活用への期待が高まる一方、多くの企業において実用化が進んでいないのが実情だ。そこで、IoT・AI活用の課題を解決するサービスを、ユースケースと併せて紹介する。