イーソルのプライベートカンファレンス「eSOL Technology Forum 2018」では、「AIと自律分散型プラットフォームによる新たなテクノロジーの覚醒」をテーマに、AI技術の可能性と課題、代表的なAIの応用例である自動運転技術などに関する多くの講演が行われた。
深層学習(ディープラーニング)などAI(人工知能)関連技術への注目が集まる中、製造業をはじめさまざまな産業がAIをどのように活用していくかの取り組みを加速させている。しかし、AIを本格的に活用する上で、まださまざまな課題があるのも事実だ。最新の研究成果を取り入れて、さらにAI技術を進化させていく必要がある。
イーソルが2018年9月28日に東京都内で開催したプライベートカンファレンス「eSOL Technology Forum 2018」では、「AIと自律分散型プラットフォームによる新たなテクノロジーの覚醒」をテーマに、AI技術の可能性と課題、代表的なAIの応用例である自動運転技術などに関する多くの講演が行われた。
イーソル 取締役 CTO 兼 技術本部長の権藤正樹氏は「AIの課題とeSOLの新たな取り組み」と題した講演を行い、AI技術を活用したイーソルの新たな取り組みとなる「eBRAD(eSOL BehavioR ADaptation engine)」を紹介した。
eBRADは、自動運転システムなどの自動化のために必要となるAIについて、人間の行動や振る舞いをパーソナライズした形で自動生成することができるAIフレームワークである。権藤氏は「自動運転技術では、ドライバーが行う認知、判断、制御という3つのプロセスを機械が担うことになる。これらのうち『判断』に焦点を当てて、そのために必要なAI技術として開発を続けてきたのがeBRADになる」と説明する。
例えば、自動運転車では、人間であるドライバーの特性に合わせて、機械である自動運転システムが適応化(Adaptation)する「人間と機械の協調」が重要になる。権藤氏は、人間と機械が協調するシステムを「Adaptive System」とした上で、「人馬一体と呼ばれる人と馬の関係がAdaptive Systemの分かりやすい事例になるだろう」と説明する。
国内外の大手自動車メーカーや大学、研究機関のさまざまな取り組みから見えてくるのは、Adaptive Systemの実現にオペレーター(自動車であればドライバー)の理解が不可欠なことだ。「コンピュータシステムとしてAdaptive Systemを実現するには人間の振る舞いモデリングが必要になる。自動運転車であれば、個々人の異なる運転行動を理解しつつ、その振る舞いを学習、そして行動予測や運転行動生成が可能なドライバーモデルが必要だ。これはすなわち、パーソナライズドモデルが不可欠なことを示している」(権藤氏)という。
eBRADは、自動運転車におけるドライバーモデルのように、製造業をはじめ各産業が培ってきたドメイン知見を基にしたモデルを用いることによって、少ない量のデータであってもパーソナライズドモデルを構築できるようにするためのAIフレームワークになる。
例えば、自動運転車の場合は、ドライバーモデルとして1985年から提唱されている「ドライビングタスクの3層構造」を用いる。これに、時間的情報を含むBN(ベイジアンネットワーク)であるDBN(Dynamic Bayesian Networks、動的ベイジアンネットワーク)を適用する。実際に、あるドライバーが二車線の高速道路を走行(車線変更や追い越しを含む)する際のパーソナライズドモデルを構築するのには、20分ほどの運転データを収集するだけで済んだという。
権藤氏は「AI技術の開発において、製造業よりも世界のITジャイアントの方が先行しているのは確かだ。しかしITジャイアントには、製造業のようなドメイン知見がない。製造業がITジャイアントに勝つには、このドメイン知見を深めるべきだ。eBRADはドメイン知見を活用するAIの開発に大いに役立つだろう」と述べている。
イーソルの欧州法人であるeSOL Europe S.A.S. バイスプレジデントのローラン・ドゥデマイン(Rolland Dudemaine)氏は「AUTOSAR Adaptive Platform and expansion of eSOL in Europe」と題し、次世代AUTOSARとして注目を集めるAUTOSAR Adaptive Platformについて説明した。
イーソルは2018年4月、自動車関連事業を世界規模でさらに発展させるべく、欧州の新たな拠点としてフランス・パリにeSOL Europe S.A.S.を設立した。ドゥデマイン氏は、エンジニアリング担当のバイスプレジデントとして、欧州現地でAUTOSAR Adaptive Platformの仕様策定活動に参画している。
車載ソフトウェアの標準として欧州を中心に規格化が進められてきたAUTOSARだが、自動運転車やコネクテッドカーなど自動車の進化に併せて、車載ソフトウェアもより複雑化している。新たなコンピューティング技術などを取り込みつつ、複雑化する車載ソフトウェアの開発を効率的に行えるよう、従来のAUTOSAR(AUTOSAR Classic Platform)とは別の枠組みで開発が始まったのがAUTOSAR Adaptive Platformである。2018年11月に中国・上海で開催されるAUTOSARのオープンカンファレンスに向け、AUTOSAR Adaptive Platformの最新版となるAP18-10の策定が進んでいる。
ドゥデマイン氏はAUTOSAR Adaptive PlatformにとってIPC(プロセス間通信)とSOA(サービス指向アーキテクチャ)が重要になると強調した。「IPCのパフォーマンスとスケーラビリティが必要であり、機能安全を確保するためにはSOAを実現しなければならない」(同氏)。
これらの要件に最適なのが、イーソルのメニーコア対応リアルタイムOS「eMCOS」である。これまでも使われてきたAUTOSAR Classic Platformと、次世代のクルマに必要なAUTOSAR Adaptive Platformの両方に対応可能であり、シングルコアからマルチコア、メニーコアプロセッサ、そして複数のチップを組み合わせたヘテロジニアスコンピューティングまで幅広いスケーラビリティを有している。ドゥデマイン氏は「イーソルは、AUTOSARの標準化活動に積極的に参加しており、当社のAUTOSARソリューションにはその知見が織り込まれている」と述べている。
これらの他、国立情報学研究所 社会共有知研究センター センター長・教授で一般社団法人 教育のための科学研究所 代表理事・所長を務める新井紀子氏、デンソー 技術開発推進部 国際標準推進室 シニアアドバイザーの菅沼賢治氏、GFリサーチ 代表 テクノロジーアナリスト泉田良輔氏も講演を行った。
新井氏は、自身が2011〜2016年に手掛けたAIプロジェクト「ロボットは東大に入れるか。(東ロボ)」や、2016年から始めた読解力を診断する「リーディングスキルテスト」の研究開発について紹介。東ロボでは、「東大に入れるか。」の「か。」が重要であり、AIの限界を見極めることが目的だったという。最後に「AIは使いどころを間違ってはいけない。どこでAIを使って勝負するかが鍵だ」と話した。また、リーディングスキルテストの調査では、東ロボで開発したAIよりも、学生や成人の方が読解力が低いという衝撃的な結果を披露した。
菅沼氏は、ドイツの自動運転機能の安全性評価法開発プロジェクト「PEGASUS」について説明した。自動運転車の安全性を証明するため、既に数百万kmを走行したという実績をアピールする事例があるが「人間のドライバーと同等なことを示すには2.4億kmの走行テストが必要になる」(同氏)という。この走行テストに求められる標準について、ドイツ経済産業省を中心とする産学官体制で策定を進めているのがPEGASUSだ。2017年11月に初のシンポジウムを開催したPEGASUSは、PEGASUSの枠組みが安全性アセスメントや型式認証、製品安全性に準拠していることを報告している。
泉田氏は、MaaS(Mobility as a Service)という言葉に代表される、自動車産業が志向する製造業からサービス業への移行について語った。国内大手自動車メーカーの業績を見ると、売上高が伸びていても、自動車生産台数や営業利益は横ばい状態である。そこで、新たな成長エンジンとして注目を集めているのがMaaSになる。しかし泉田氏は「人を運ぶモビリティサービスという意味では、あまりもうからないかもしれない。例えばUberはずっと赤字だし、国内のタクシーとハイヤーの輸送人数は30年近く漸減している。モノを運ぶ配送・物流サービスにチャンスがあり、さらには自動運転と都市デザイン、都市間デザインを組み合わせるようなビジネスの広がりも必要になるだろう」と述べている。
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提供:イーソル株式会社
アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2018年11月28日