製造業をはじめとする企業の働き方改革や健康経営に向けてNECが開発したのが「感情分析ソリューション」だ。ウェアラブルデバイスで計測した従業員の生体データをクラウドに集めて分析し、感情の状態を可視化することで、適切な業務支援や注意喚起を行うとともに、これまで気付いていなかった業務プロセスや職場環境の改善に役立つ。
企業が持続的な成長を実現するためには、ビジネスを拡大して売上を伸ばすのはもちろんのこと、常に製品サービスの品質改善、顧客満足度の向上に努め、ブランド価値を高めていく必要がある。
だが、この成長を生み出していく原動力である「従業員」に、今さまざまな問題が顕在化している。あらゆる業界で深刻化している人手不足もその1つだ。国立社会保障・人口問題研究所によると、少子高齢化が進行するわが国の生産年齢人口は、1995年から2015年の20年間で1000万人近くも減少してしまった。そうした中で限られた人材に負荷が集中しており、長時間労働や過重労働が発生しがちだ。
厚生労働省が2014年に行った調査では、労働基準関係法令違反が認められた事業場は、実に83.6%(調査対象となった4561事業場のうち3811事業場)にも上る。さらに同省が2017年に行った調査では、仕事への強い不安、悩み、ストレスを感じる労働者の割合は59.5%で増加傾向にある。これに伴い医療費は高騰を続けており、企業の健康保険組合の約60%が赤字に陥っている。
この負のスパイラルから脱却するため、働き方改革や健康経営への取り組みは、待ったなしの状況にある。多様な働き方に対応し、従業員が生き生きと働ける職場、健康的な企業づくりをサポートする施策が求められている。
こうした社会課題の解決に最先端のICTで貢献すべくNECが発表したのが、「感情分析ソリューション」だ。NEC ものづくりソリューション本部のシニアエキスパートである田靡哲也氏は、「もともとIoT(モノのインターネット)システムの開発にあたっていたチームから生まれたアイデアによるもので、ウェアラブルデバイスで計測した従業員の生体データを『Microsoft Azure』に集めて分析することで、その時々の状態(感情)を可視化します」とその概要を説明する。
感情分析ソリューションのコア技術となっているのが、NECが自社開発した「感情分析エンジン」である。同社 ものづくりソリューション本部 主任の阿部勝巳氏は「ゆらぎ解析と呼ばれるアナリティクスの知見に基づき、ウェアラブルデバイスや非接触デバイスから収集した生体信号の連続データに対して、周波数解析や統計解析を行うことで特徴量を抽出します。さらに、ラベル付けした教師データを投入してトレーニングを重ねる機械学習の独自アルゴリズムにより、その判定モデルの精度を高めていきます」と説明する。
この感情分析エンジンで測定する生体データは、主に「心拍変動」になる。心拍をつかさどる神経を自動車に例えると、交感神経がアクセル、副交感神経(迷走神経)がブレーキに相当し、交感神経活動の変動に対して鈍感に、迷走神経活動の変動に対しては敏感に反応する。従って、心拍数を時間軸で分析することで、交感神経/副交感神経の活動状況を認識できるようになる。
さらにNECの感情分析ソリューションは、これらの生体データを分析した結果を「覚醒−眠気」「快−不快」の2軸からなる感情指標に基づいて、「Angry(緊張、イライラ、ストレス)」「Happy(興奮、喜び)」「Sad(憂鬱、疲労)」「Relax(穏やか、リラックス)」の4象限に分類して可視化する。Webブラウザベースの「感情可視化グラフィカル画面」と呼ばれるダッシュボードを提供し、対象者の感情推移をグループ単位、個人単位で表示する仕組みで、現在の感情や1日の中での感情の経過を簡単に把握することができる。
他者の感情の把握は非常に複雑かつ慎重さが要求される問題で、例えば同僚に「なんだかイライラしているようだけど?」と尋ねても、「そんなことはない」という答えが返ってくるのがほとんどだ。そもそも本人が自分の精神状態の悪化に気付いていないケースが少なくない。このように表面的な問診や自己申告では検知できなかった従業員の感情を、客観的かつリアルタイムに把握することが可能となるのだ。
仮に特定の時間帯に多くの従業員のAngryやSadの度合いが高まっているならば、その時点の作業工程や職場環境そのものに重大な問題が潜在していると判断できる。
ちなみに被験者が装着するのは、TDK製の「Silmee W20」というリストバンド型ウェアラブルデバイスだ。心拍変動データの測定だけでなく、会話量測定、紫外線量測定、皮膚温度測定、食事時間検出、ボタン操作による第三者への緊急連絡などの機能を搭載。BLE(Bluetooth Low Energy)を通じてリアルタイムにデータを収集することができる。
もっとも、生体データを単に可視化するだけでは意味がない。「誰が、いつ、どこで、どんな作業を行っているときに、どんな感情変化が起こったのか」を特定することで、はじめて適切な業務支援や注意喚起を行うことが可能となる。
そこで役立つのが、他の業務システムとの容易な接続を実現する「データ連携用API」である。さまざまな業務システムから取得した被験者の勤怠記録や作業履歴などの時系列データと、感情分析ソリューションから導き出された感情データをクラウドのMicrosoft Azure上で突き合わせることで、業務プロセスや職場環境に隠れている課題を発見し、業務改革や働き方改革などの改善策につなげていくのである。
今後に向けてNECは、さまざまなパートナー企業/団体との協業を通じて感情分析ソリューションを核としたITサービスの拡充を図っていく考えだ。
2018年6月には、製造業向けに先進技術を活用して次世代ものづくりを具現化する「NEC DX Factory 共創スペース」をNEC玉川事業場(川崎市中原区)内に開設した。部品投入から加工・搭載、組立、検査に至る4つのプロセスから構成される製造ラインに、AI(人工知能)やIoT、生体認証などの先進技術を活用した次世代ものづくりソリューション「NEC Industrial IoT」のほか、パートナー企業/団体が開発したロボットやFA機器、IoTデバイスなどを実装し、次世代のものづくりを共創するスペースである。
このNEC DX Factory 共創スペースを通じて感情分析ソリューションも展開し、適用検証や新たなITサービスの開発など共創活動を推進していくとする。さらに、その先にいる顧客にも次世代ものづくりを体験してもらうことで、ビジネス環境の変化を先取りしたソリューションを実現するための新しいアイデアや価値の創出に取り組んでいく。
こうしたパートナー企業/団体との協業や共創を通じて、感情分析ソリューションのエコシステムを拡大していくというビジネス戦略にこそ、NECがMicrosoft Azureを採用した真の狙いがあったといって過言ではない。
田靡氏は、Microsoft Azureを採用したメリットについて「データベースサービスの『SQL Database』や機械学習サービスの『Machine Learning』をはじめとする豊富なPaaSやSaaSが用意されており、それらを組み合わせることで多様な用途に沿ったアプリケーションを迅速に構築し、そのままグローバルにも展開することができます」と強調する。
また、感情分析ソリューションで捕捉した従業員の体調や精神疲労といった状況変化を、危険が伴う作業現場の事故防止などに役立てようとすれば、クラウド上で作成した推論モデルをエッジ側に展開してリアルタイムにデータ処理したり、従業員のウェアラブルデバイスに警告情報をフィードバックしたりできなければならない。「そもそも従業員の感情という究極的な個人情報を扱う上で、全てのデータをオンプレミス側で管理したいという要件も上がってくるでしょう。こうした多様な運用形態に柔軟に対応できるクラウドサービスは、Microsoft Azureの他にありませんでした」(田靡氏)という。
なお、感情分析ソリューションの正式リリースは2018年度下期を予定している。NECは今後3年間で90億円の目標を掲げ、積極的な拡販活動を推進していく計画だ。
感情分析で心身のリスクを把握、従業員のストレスや健康不安に先手を打つ
人材不足に悩む企業では、従業員への負担が過重となる一方で、その管理まで手が回らず、従業員の健康不安や離職率の上昇を招いている。こうした課題を解消するには、人手をかけることなく従業員の状態・リスクを把握する必要がある。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
提供:日本マイクロソフト株式会社
アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2018年11月24日
人材不足に悩む企業では、従業員への負担が過重となる一方で、その管理まで手が回らず、従業員の健康不安や離職率の上昇を招いている。こうした課題を解消するには、人手をかけることなく従業員の状態・リスクを把握する必要がある。