初期費用0円の製造業向けIoTサービスを生んだ「広く浅い」アプローチとは中小製造業のIoT活用

日本のモノづくりを支える中小製造業へのIoTの導入はまだほとんど進んでいない。「広く浅い」アプローチでIoT導入を進めている久野金属工業は、マイクロリンクと共同で、初期費用0円という製造業向けIoTクラウドサービス「IoT GO」を開発。2018年5月から外販を開始した。

» 2018年05月31日 10時00分 公開
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 インダストリー4.0への対応やスマートファクトリーの実現といった目標を掲げ、日本の製造業でもIoT(モノのインターネット)への取り組みが加速している。とはいえ、中小規模の製造業からするとまだまだハードルが高いと感じられるのが実情ではないだろうか。

 そうした中、中小製造業の現場から“ボトムアップ”で生み出されたIoTシステムが注目されている。愛知県常滑市に本社を置く久野金属工業とその関連会社のマイクロリンクがマイクロソフトのクラウド「Microsoft Azure」をベースに共同開発した「IoT GO」である。久野金属工業自身の生産ラインで実地検証を重ね、製造現場のニーズに対応した使いやすさや見やすさ、データの安全性、安定性などを追求したIoTのクラウドサ−ビスだ。

 さらにIoT GOは、中小製造業がIoT活用に取り組む際の最大の壁となるコスト面についても驚くべき価格設定を用意している。なんと、初期費用0円から始められるというのだ。2018年5月18日から受注を開始したこのIoT GOはどのようにして生み出されたのだろうか。

「IoT GO」によって得た情報を基にした電子アンドン画面をタブレット端末に表示している 「IoT GO」によって得た情報を基にした電子アンドン画面をタブレット端末に表示している

中小製造業の現場力×クラウド開発力から誕生

 久野金属工業は、2017年に創業70周年を迎えた自動車のプレス加工部品を主力製品とするメーカーである。従業員数は約300人と小規模ながらも、常に最新設備の導入や技術革新にこだわり続けてきた歴史をもつ。卓越した金型技術や自社開発設備にさらに磨きをかけるとともに、近年ではEV(電気自動車)やPHV(プラグインハイブリッド車)をはじめとする次世代自動車部品にも注力し、グローバル市場で多くの実績を上げている。

 世界初のEV用大型リチウムイオン電池ケース量産化の成果が評価され、2009年に内閣総理大臣表彰「ものづくり日本大賞」の優秀賞を受賞。さらに2014年にはPHV用大型モーターハウジングの研究開発と量産による世界シェア拡大の成果が評価され、経済産業省「グローバルニッチトップ企業100選」を受賞。2016年にもITを徹底活用した経営基盤の強化が評価され、同じく経済産業省の「攻めのIT経営中小企業百選」を受賞するなど、同社の取り組みは社会的にも高く評価されている。

 一方、マイクロリンクの創業は1989年。C言語、BASIC、dBASEなどによるアプリケーション開発のほか、PCネットワーク事業で成長を遂げてきたソフトウェア開発ベンダーだ。そして近年、特に注力しているのがクラウドである。その絶大なパワーとITリソースを中小企業も手軽に活用できるようにし、これまで考えられなかった革新的なシステムを提供していくことをミッションとしている。そうした中でマイクロソフトとの関係を深め、2014年より「Microsoft Office 365」の社内利用および取り扱いを開始した他、2017年には「マイクロソフト Gold コンピテンシーパートナー」に認定された。

 こうした久野金属工業の“現場力”とマイクロリンクの“クラウド開発力”が高度に融合し、シナジーを発揮する中から誕生したのがIoT GOなのだ。

対象装置の「オンオフを計測するだけ」のシンプルなIoT

マイクロリンク 代表取締役の久野尚博氏 マイクロリンク 代表取締役の久野尚博氏

 IoT GOを共同開発するにあたり、「中小製造業がIoTを始めるリスクを最小化することを狙いとしました」と語るのは、マイクロリンクの代表取締役である久野尚博氏(以下、尚博氏)だ。

 ここでいうリスクには大きく分けて2つの観点がある。

 1つは「投資に対するリスクの軽減」だ。IoT GOは、Microsoft Azureを最大限に利用することで、IoT導入に必要な機器や設備を削減している。尚博氏は「これによって初期費用を0円とし、導入後も必要なサービスを利用した分だけ料金を支払えばよい完全な従量制課金としました。初期費用だけでなくランニングコストも抑えられます」と訴求する。

 もう1つは「技術に対するリスクの軽減」である。IoT GOでは、IoTとして情報を得たい装置の「オンオフを計測するだけ」というあえて割り切ったセンサーを採用した。これにより、例えばプレス加工の打ち抜き回数など対象装置の一定時間における動作をカウントしたり、1日における稼働時間を計測したりすることが可能となる。

「IoT GO」のセンサーは外付けで「オンオフを計測するだけ」というシンプルなものだ 「IoT GO」のセンサーは外付けで「オンオフを計測するだけ」というシンプルなものだ

 「このシンプルな仕組みならば、ITシステムとの接続インタフェースを装備していない旧式の装置であっても簡単にIoTシステムに組み込むことができます」(尚博氏)。例えば、ランプの点滅を光センサーで計測する、あるいは作業者がスイッチを押す操作をマグネットセンサーで計測するなど、装置内部に手を触れることなく外面に表れる変化を捉えてデータに変換できるのだ。

「広く浅い」アプローチでIoTを実践

 ただし、さまざまなメディアで紹介されている大手製造業のIoT導入事例では、温度、振動、加速度、電圧、流量、映像、音声など、多様なセンサーから計測/収集したデータを活用している。これと対比したとき、「オンオフを計測するだけで本当に十分なのか」という疑問が生じるのも事実だろう。

 まさに、このことこそがIoT GOの最大の特徴であり、久野金属工業の生産ラインで実地検証を重ねてきた中から得られた結論なのだ。

 実は、久野金属工業とマイクロリンクは、IoT GOの共同開発に着手する2年前の2015年、大手製造業と同様の“本格的”なIoTの取り組みを進めていた過去がある。

久野金属工業 専務取締役 兼 CIOの久野功雄氏 久野金属工業 専務取締役 兼 CIOの久野功雄氏

 その取り組みは、久野金属工業が導入した最新の研磨機に多様なセンサーを組み込むことで、熟練作業者の技(カンコツ)を見える化して最適な加工条件を導き出すというもの。これによって、それまで外注していた研磨作業の内製化が可能になった。久野金属工業の専務取締役兼CIOの久野功雄氏(以下、功雄氏)は「研磨機やセンサーにかかったコストは、内製化によってほぼ回収できたので取り組みそのものは成功したと言っていいと思います」と語る。

 だが、そこで両社が直面したのが、「同じ取り組みを別の装置でも繰り返すのか」という葛藤だった。久野金属工業にとって研磨機は生産活動のコアとなる装置の1つであるだけに、思い切った投資が可能で全力を挙げる意義があるが、全ての装置で同様の投資を行うのはあまりにもリスクが大きい。また、現場に負担を強いることもできない。「そうした中で行き着いたのが『狭く深い特化型』と『広く浅い汎用型』の2つのアプローチを使い分けるという考え方なのです。中小製造業にとっては、まず『広く浅い』のアプローチにより、工場内の幅広い装置からデータを収集することが、IoTによる価値創造の早道となります」(功雄氏)という。

A.I.よりも前に製造現場の“N.I.”を喚起する

 「広く浅い汎用型」のアプローチを体現したIoT GOの実地検証を通じて、実際に久野金属工業はどんな成果を上げることができたのだろうか。

 例えば、工場内のさまざまな装置の稼働をカウントすることで、1個の製品を作るのにどれだけの時間を要したのか、工程のサイクルタイムをリアルタイムに見える化することが可能となった。功雄氏は「これからEV/PHV関連の部品の需要がますます拡大していくと予想される中で、現状の生産ラインにはまだ改善の余地があるのか、それとも新たに生産ラインを増設する必要があるのかといった、経営判断にかかわる重要な指標をIoT GOから得ることができました」と説明する。

 また、各装置の稼働時間や稼働率、停止時間を計測することで、前月と今月、昨日と今日、日勤と夜勤といった多角的な観点から、それぞれの生産性を容易に比較できるようになった。明らかな格差が生じているならば、そこには何らかの問題が潜在していることを意味し、原因を追究するとともにその解決策を探る糸口となる。

 さらに功雄氏が言及するのが、この改善サイクルのスピードアップである。IoT GOを利用することで現状把握を常に行うことができる。要するに実施した改善策の結果を「次に作る製品1個」から見える化できるのだ。

 これまで110秒を要していた工程において、作業者が何らかの工夫を行った結果108秒に短縮できたとすれば、その2秒の成果をすぐに確認することができる。数字が見えることで作業者の意欲も高まり、次はこうしてみようというアイデアがどんどん広がっていく。功雄氏は「世にある多くのIoTの取り組みでA.I.(Artificial Intelligence:人工知能)が注目されていますが、その前にIoT GOは製造現場のN.I.(Natural Intelligence:自然=人間知能)を最大限に喚起するのです」と強調する。

「IoT GO」の稼働モニターのメイン画面 「IoT GO」の稼働モニターのメイン画面。リアルタイムの見える化によって製造現場の“N.I.”が喚起される

「Microsoft Azure」ならではのメリットを開発にフル活用

 久野金属工業とマイクロリンクがこのIoT GOの共同開発に着手したのは2017年4月のことで、それから1年にも満たない2018年1月に早くも実地検証を開始した。こうした短期間のIoTシステム構築を支えたのがMicrosoft Azureである。

 尚博氏は「Microsoft Azureは、データ収集からデータ集約、データ蓄積、データ分析、データ可視化に至るまで、大手製造業が利用している最新のIoT環境と同等のサービスを一気通貫で備えており、しかも低コストで提供しています。このMicrosoft AzureならではのメリットをIoT GO開発でフルに活用しました」と語る。

 こうして商用サービスにブラッシュアップされ、2018年5月18日より受注を開始した現在のIoT GOには、次のような機能が実装されている。

 まず、製造現場の各装置から生成されるセンサーデータは、Wi-FiとNTTドコモのセルラー通信回線および「Azure IoT Hub」を通じて、リアルタイムにMicrosoft Azureに送信される。この仕組みのもと、これまで手作業で収集していた稼働データの自動収集を行うとともに、PCやスマートフォンからのリアルタイムモニタリングを実現しているのだ。

 また、マイクロリンクによって独自にカスタマイズされたダッシュボードでは、さまざまな生産ラインや作業場所に合わせた稼働モニタリング表示、アンドン表示および10種類の作業時間帯の定義によるデータ表示を可能としている。さらに、現場表示器(デジタルサイネージ)を設置することで、先述したような作業者の意識を高めることにも役立つ。

 もちろん今後もIoT GOの機能拡張は継続的に進められていく。「Microsoft Azure上でアップデートされる新しい機能やテクノロジーを迅速にIoT GOに取り込むことで、中小製造業のお客さまの将来的なニーズにもお応えしていきます」(尚博氏)という。

「Microsoft Azure」のセキュリティポリシーが安心を生む

 なお、生産に関連するデータをクラウド上で運用することには、まだ多くの製造業が二の足を踏むところだが、その面でもMicrosoft Azureに対する信頼は高かったという。功雄氏は「主要なクラウドサービスの中でも、Microsoft Azureだけは『お客さまのデータはお客さまが管理します(顧客のデータをマイクロソフトが勝手に利用したり、第三者に開示したりすることはない)』というセキュリティポリシーを明示しています。バックアップを含めたデータ保護の体制も万全で、当社も安心して利用できました」と述べる。

 実際、IoT GOを通じて久野金属工業の稼働データは大量にMicrosoft Azureに蓄積されていく状況にある。功雄氏は「今後に向けてこの長期時間軸のデータを『Azure Machine Learning』を用いて分析し、ボトルネックとなっている工程の改善提案やタスクの指示ができるレベルまで進化させたいと考えています」という構想を示す。

 一方、尚博氏も「初年度100ライセンス、3年目までに500ライセンス」という目標を掲げ、マイクロリンクとしてIoT GOの販売を加速していく構えである。

 モノづくりの現場のニーズや事情を知り抜いたIoT GOは、中小製造業のIoT導入に大きな弾みをつけてくれそうだ。

「IoT GO」の拡販に意気込む、マイクロリンクの久野尚博氏(左)と久野金属工業の久野功雄氏(右) 「IoT GO」の拡販に意気込む、マイクロリンクの久野尚博氏(左)と久野金属工業の久野功雄氏(右)

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提供:日本マイクロソフト株式会社
アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2018年6月30日

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