正念場を迎える日本の製造業、タイムリミットはあと2年!?団塊世代のリタイアと人口減少が直撃

日本の製造業が人材不足という大きな課題に直面しているが、その対策として、AIやIoT、ロボットなどに代表されるデジタル技術と自動化の大胆な導入が挙げられている。神戸国際大学 経済学部 教授の中村智彦氏によれば「単なる導入ではなく、熟練者の技術やノウハウとの組み合わせこそが重要だ」という。

» 2018年04月23日 10時00分 公開
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 日本の製造業は、今まさに正念場を迎えている。経済産業省が発表した「2017年版ものづくり白書」では、直面する2つの主要課題を具体的に指摘している。1つは、これまでの強みだった現場力が、人材不足の顕在化により維持・向上が難しくなっていること。もう1つは、これまでも大きな課題になっていた、付加価値の創出・最大化を苦手にすることによる収益率の低さだ。

日本のモノづくり産業の課題と目指すべき方向 日本のモノづくり産業の課題と目指すべき方向(クリックで拡大) 出典:経済産業省「2017年版ものづくり白書のポイント」

 これらの課題を解決すべく、政府が打ち出したのが日本版第4次産業革命となる「Connected Industries」だ。デジタルツールの活用によって、ネットワークを通じた付加価値の創出と、技術力や現場力を生かす人間本位の産業の在り方を目指すとしている。

 果たして日本の製造業は、この正念場を乗り切ることが可能なのか。日本のモノづくりの現場を大企業から中小企業に至るまで数多く見てきた、神戸国際大学 経済学部 教授の中村智彦氏に話を聞いた。

間もなく団塊世代が労働者市場、消費者市場の両方からリタイアする

神戸国際大学 経済学部 教授の中村智彦氏 神戸国際大学 経済学部 教授の中村智彦氏

 中村氏が、日本の製造業だけでなく国全体で大きな課題になっていると指摘するのが人材不足だ。「団塊世代の中心層が、あと2年で70歳を超える。そうなると労働者市場、消費者市場の両方からリタイアする。そこまでに対策しなければ、今よりもさらに大きな影響が出るようになるだろう」(同氏)。

 これまでも日本の人材不足は指摘されてきたが、結果としてあまり大きな問題になって来なかったという印象を持つ人も多いだろう。中村氏は「今まで人材が足りていたのは、団塊世代が定年を迎えた後も再雇用されて、その穴を埋めてきたからだ。しかし、70歳を超えれば再雇用を続けなくなる可能性が高い。今後は、男性労働者だけで200万〜300万人足りなるという調査もある」と強調する。

 出生率の低下による人口減少も加速度的に進む。2020年の日本の人口は、150万人の死亡数に対して、出生数は100万人にとどまる見込みだ。「単純計算で1年間で50万人減る。これは地方の政令指定都市の人口に匹敵する数だ。既にソフトランディングが難しいところまで来ている」(中村氏)という。

3つの対策を組み合わせることが必要

 中村氏は、この極めて厳しい状況に対して「『女性のさらなる社会進出』『外国人労働者の活用』『デジタル技術や自動化などの大胆な導入』という3つの対策の組み合わせで対処すべきだ」と訴える。

 日本の製造業にとってもこれら3つの対策が必要であり、だからこそ「デジタル技術や自動化などの大胆な導入」に力を入れる企業も多い。Connected Industriesでも挙げられている、AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)、ロボットの活用はその代表例だろう。

 その一方で、AIやIoT、ロボットが人から仕事を奪うという意見も多く聞かれるようになっている。「しかし、ロボットの専門家は『ロボットだけで日本の深刻な人口減少という課題は解決できない』と言っている。女性や外国人労働者を含めた人の力と、デジタル技術や自動化を組み合わせなければ問題は解決できない」(中村氏)。

 日本の製造業は、これまでにもさまざまなデジタル技術や自動化の導入を進めてきた。2次元の図面から3D CADへの移行、半導体製造プロセスや電子回路基板の実装ライン、産業用ロボットを用いた組み立てなどはその代表例だろう。これらの取り組みでは、アナログ技術や手作業でやってきたことを理解した熟練者が携わっていた。これらの熟練者がいれば、デジタル技術や自動化で何らかの不具合が起きたとしても、基本原則を理解しているので適切な対処ができた。しかし、熟練者がリタイアし、デジタル技術や自動化が当たり前の世代だけになれば、異常が起こった時の対応で後手に回ることも多くなる。

 中村氏によれば、ある製鉄メーカーでは、現在でも作業員が溶鉱炉の窓を開けて温度を確認するという作業プロセスを続けているという。もちろん、さまざまなセンサーを付けているのだが、熟練者であればセンサーの数値よりも先に溶鉱炉内の異常を把握できるという。そして、この作業は必ず次の世代にも受け継がれている。万が一計器が故障していても、そのときに作業員が気付ければ異常に対処できるわけだ。

必須となるデジタルツール、それを使いこなす人の役割も重要に

 中村氏は「日本の製造業の強みは、熟練者の持つ技術やノウハウの伝承にある。これをブラックボックス化せずに、導入しようとしているデジタル技術や自動化と組み合わせられれば、強みとして昇華できるはずだ」と説明する。

 その一方で、熟練者をただ代替する形でデジタル技術や自動化を導入しようとすることは危険だと警鐘を鳴らす。「ただ単に導入するだけでは、中国や東南アジアなどの海外企業に対する競争力にはならない。市販されているデジタル技術や自動化そのものはどこでも導入可能であり、日本よりも若年層が多い東南アジアなどの方が吸収力が高く、素早く、うまく使いこなすだろう」(中村氏)。

 熟練者の技術やノウハウをデジタル技術や自動化にうまく取り込んでいる事例は幾つもある。ある歯ブラシの工場では、毛先のそろい方などを画像認識で検品しているが、ベースになっているデータは女性従業員による目視結果だという。歯ブラシがモデルチェンジするときには、従来の画像認識のアルゴリズムでは検品ができないが、女性従業員の目視検品であれば柔軟に対応できる。そしてこのデータを基に、また新たに画像認識のアルゴリズムを作り直すというわけだ。

 ある塗装ラインに用いられているロボットは、塗装を行う途中で、スプレーの先端を上下にピッピッと振るような動きをする。これによって泡のつまりが抜けて塗装の品質を維持できるのだが、基になったのは塗装の名人の作業内容だった。名人自身もなぜやっているのかを説明できない動作だったが、塗装品質を確保する上で大きな効果があったというのだ。

 デジタル技術や自動化を導入したからと言って、人の仕事が奪われるわけではない。その時に知恵を絞って新しいことを生み出すのが、機械にない人間の価値だからだ。喫緊の課題である、団塊世代の技術やノウハウを、デジタル技術や自動化と組み合わせる上で、「SOLIDWORKS」をはじめとするデジタルツールが必要になることは間違いない。デジタルツールを活用することで、今までは分からなかった新しいことが分かるというメリットもある。

 中村氏は「ただし、デジタルツールはあくまで“ツール”だ。何かを生み出すには、ツールを使いこなす人の役割が重要だ。デジタル技術や自動化を導入しても、そこに変わりはない」と述べている。

デジタル技術による「技術継承と人材不足」の解決に向けたセミナーを開催

 本テーマについて、更に考察するセミナーが2018年6月8日に秋葉原で行われる。

 講師に中村氏、そしてデジタル技術の利用によって技術継承と人材不足の課題に対し効果を得たSOLIDWORKSユーザーを迎え、日本と製造業が直面する課題の解決の方法について考える聴講型のセミナーだ。セミナーの最後には、講師2人による「これから求められるエンジニア」を考えるパネルディスカッションも予定されている。

 日本が直面する課題、「技術継承と人材不足」について、自身の日々の業務の中で取り組めるヒントが得られるかもしれない。

【無料 聴講型】ソリッドワークス・ジャパン主催

「人材不足への不安に喝!もはやヒト事ではないものづくりのデジタル化」セミナー

日時:2018年6月8日(金) 13:30〜17:30(受付開始12:30)

場所:DMM.make AKIBA 12F(JR秋葉原駅 中央口 徒歩2分)

申込・詳細http://www.solidworks.co.jp/mohayaseminar1806_entry

※開催時間は予告なく変更する場合がございます。最新情報は申込・詳細ページをご確認ください。

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