自動運転技術を進化させ、製品化していく中で、自動車業界の開発の在り方が変化してきた。人工知能やビッグデータ活用などIT業界の方が得意とする技術の開発に加えて、自動運転車で新事業の創出を見込む異業種との連携が進んでいく。こうした変化は採用活動にも表れている。
自動車メーカー各社が自動運転技術の開発を加速させている。日本の自動車業界にとっては、欧米自動車メーカーだけでなくGoogleなどIT企業もビジネスの競合になりうる。自動運転技術が、高速道路から一般道に適用範囲を広げ、ドライバーレスにも向かう中で、「系列」「内製化」にこだわってきた日系自動車メーカーがさまざまな方針を変え始めている。
自動車メーカーや大手サプライヤーをはじめとする自動車業界の動向を、技術と人材採用の両面から解説する。情報通信総合研究所 ICT基盤研究部 副主任研究員の吉岡佐和子氏と、パーソルキャリア DODAキャリアアドバイザーの井上和真氏に話を聞いた。
「自動運転技術が注目を集める中、自動車業界は大きく変化しており、2016年にも活発な動きがありました。振り返ると、日本の自動車業界の動きを加速させたのはGoogleが自動運転車の開発を始めたことかもしれません。」とここ数年で起きている業界の劇的な変化について吉岡氏は語る。
「自動運転技術が開発テーマの中心になる以前から、欧州の自動車メーカーはクルマの根幹となる部分は自前で開発し、それ以外はサプライヤーと協業する進め方が浸透していました。これに対し、日系自動車メーカーは自社グループ内で完結させようとする姿勢が強かったのが特徴です」
「しかし自動運転技術を進化させていくためには、人工知能(AI)技術が不可欠です。AIは明らかにIT業界の方が得意領域なので、ここで自動車関連の企業が異業種とうまく連携できるかどうかが、プレゼンスの強弱にもつながってきます。また、高度な自動運転技術を自動車に搭載するには、半導体メーカーが提供するAIチップも重要な役割を果たします」
確かにここ最近、吉岡氏が言うように自動車メーカーやティア1サプライヤー、IT業界、半導体メーカーの間で、従来はなかった形での提携が活発になっている。例えば、自動車メーカーとIT業界の間であれば、トヨタ自動車とマイクロソフトはコネクティッドカーで提携している。そのマイクロソフトは日産自動車とも提携しているが、自動運転サービスの実証実験ではDeNAと提携した。ホンダは、AI技術でGoogleとの提携を発表する一方で、ソフトバンクとも提携している。そしてソフトバンクは、三菱自動車や川崎重工業と協業している。
かつてはティア2サプライヤーの立ち位置だった半導体メーカーは、AIチップを軸に自動車メーカーや大手ティア1サプライヤーとの提携を強化している。2017年5月にトヨタ自動車とNVIDIAが自動運転で提携を発表したことは、自動車業界全体に衝撃を与えた。
「また、車載システムや人工知能以外の分野でも、IT企業との融合が進みつつあります」。自動車技術を利用したサービスのほうで各社の動きが活発になっていると吉岡氏は語る。
「IT企業は自動運転技術のサービス性に注目しビジネスが変わっていくことを予測しており、活発に自動車業界に働き掛けています。ZMPやDeNAといったベンチャー企業は、自動運転車向けのプラットフォーム開発を行っていたり、通信キャリアは携帯電話機に続く新しいデバイスが自動運転車になると見込んで今後のビジネスを考えていたりなど、自動運転車に関連するビジネスにも注目が集まっています」
そして自動運転技術でどのように社会的課題を解決するかという点も、日本の自動車業界の競争力になっていくという。「例えば、米国や中国には広い国土の中でどのように快適に移動するかというニーズがあります。一方で日本はというと、公共交通が発達しているが、地方の過疎化という特有の課題を抱えています。これをどう解決できるか、そして解決した実績を増やしていけるかが日本の強みにつながっていくでしょう」
「自動運転技術の開発競争が激しくなるにつれて、従来のような採用動向は一変しました」とDODAキャリアアドバイザーの井上和真氏は語る。なんと現在、トヨタ自動車を始めとする日系自動車メーカー大手が募集する人員のうち、半数以上が組み込みソフトウェアの技術者で占められているのだ。中には7割以上を占める企業もあるという。自動ブレーキの開発に携わるソフトウェアの技術者を数百人単位で一気に募集をする企業まで出てきている。
「これまで、自動車メーカーやサプライヤーの中途採用は『自動車業界での勤務経験があること』が必須条件でした。その理由は、ピラミッド型のサプライチェーンで構成される特殊な業界構造であることや、品質に対する厳しい要求水準があり、即戦力を求める中途採用で、自動車業界の特異性を一から教育するのが難しいと考えられていたからです」
「しかし、自動運転技術の開発は『異業界との融合』がポイントになってきます。自動運転、コネクティッドカー開発においてはデバイスとインターネットをつなげるIoTの技術・知見が不可欠であり、その知見を持っている技術者はむしろ異業界に多い。そのような背景から、最近では自動車業界経験が一切なくても自動車業界に転職して成功している事例が増えています」
今まではあまりメジャーではなかった異業界からの転職。しかし実際にカメラメーカーや電機メーカー出身の組み込みソフトウェア開発の経験者が活躍しているという。
「例えばカメラ業界で制御ソフトウェアや画像処理の開発経験を持っていた技術者が、ソフトウェア開発の経験を生かして、自動車メーカーのシステム設計で活躍されている事例があります。また電機メーカーで通信プロトコル・アプリケーション開発をしていた技術者が、自動車メーカーでモビリティに関連する通信エンジニアとして活躍するなど、前職で自動車業界の経験がなくても十分に活躍できるポジションはあります」
「また自動車メーカーだけでなく、大手サプライヤーも同じようにソフトウェア分野の技術者の募集を強化しています。外資系サプライヤーの採用活動も活発で、本国から人員リソースを割けないため、日本法人で採用して開発の機動力を高めたいという考えがあるなど、引く手あまたの状況です」
そんな人材獲得競争が激しくなる中、開発拠点やオフィスを首都圏に移転・設立する企業が増えているという。今まで勤務地がネックで獲得できなかった首都圏の人材を囲いこみたいという背景があるようだ。
「最近では日産自動車がコネクティッドカーの研究開発拠点を中目黒に設立、デンソーも一部開発拠点を東京・日本橋のオフィスへ移設しました。さらには本田技術研究所も2017年2月に研究開発組織の拠点として赤坂にHondaイノベーションラボTokyoを設立するなど、各社が首都圏で働き続けることができる環境を整え始めています。過去自動車業界に挑戦したくても、勤務地がネックで諦めていた方にとっては、チャンスだといえます」
将来のクルマがどうなるか、自動車メーカーも模索している段階だろう。クルマの概念が変わるかもしれないこの状況は、100年に一度の変換期とも言われている。まだ自動運転車のスタンダードが決まっていないからこそ、自動車業界は技術者として新しい攻めのチャレンジができる環境だ。
今後、自動運転の領域で勝ち進めていくために、各社とも研究開発への投資を積極的に行っていくだろう。そんな環境で働けるのは、技術者にとってまたとないチャンスだといえる。さらに将来的に自動運転車がスタンダードになれば、社会に大きなインパクトを与え、交通事故をゼロにすることも実現できるかもしれない。
もし少しでも自動運転技術に興味があるのであれば、挑戦してみてはいかがだろうか。
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アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2017年8月2日