自動運転技術の進化に合わせて、自動車に搭載するフラッシュメモリの容量が増えていく。これまではカーナビゲーションシステムなどの車載情報機器だけに使われていたが、自動運転を行うAIや安全確保のためのブラックボックスなどにも用いられるようになる。完全自動運転車では1台当たり1テラバイト(TB)のフラッシュメモリが必要になるという。
高精度3次元地図、ステレオカメラやミリ波レーダーといったセンサー、認知や判断を担う人工知能(AI)……自動運転車は膨大な情報を扱うことによって事故のない社会を実現する。また、他の車両や道路インフラなどと協調するV2X(Vehicle to X)やさまざまなコンテンツの利用に必要なクラウドとの通信も自動運転車の実現に不可欠となる。このため、5G通信などの高速・大容量・低遅延な通信方式を自動車向けに展開する取り組みも始まっている。
通信技術の進化やコネクテッドカーの普及により、2030年には、コネクテッドカー全体の通信データ量が5ゼタバイト(ZB)まで拡大する見通しだ。1ZB=10億テラバイト(TB)に相当することを考えれば、どれだけ膨大なデータ量かは推して知るべしだ。さらに、1台のクルマが1日に受け取るデータ量が72ギガバイト(GB)に達するという試算もある。こうしたクルマにまつわるデータ量の爆発的な増加に対応し、なおかつ長期間にわたって適切にデータを保存するための大容量NANDフラッシュメモリに対する需要が高まっているのだ。
NANDフラッシュメモリは、これまで自動車ではカーナビゲーションシステムなどをはじめとする車載情報機器に使われてきた。これに対して、自動運転と同じようにさまざまなセンサーを使用する先進運転支援システム(ADAS)に用いられるメモリは、一定時間で記憶したデータが消えるDRAMが中心となっていた。
ADASはあくまで運転支援であり、運転の主体はドライバーだ。しかし、ADASをさらに進展させることになるレベル3以降の自動運転技術では、システムが周辺環境を認知し、運転に必要な判断を下す。そのため、高精度3次元地図を基に、ADASよりも多くのセンサーで周囲をセンシングすることになる。例えば、Googleの自動運転車は1秒間に1GBものセンサーデータを処理しているといわれている。
ストレージ技術やソリューションを提供するグローバルリーダーであるウエスタンデジタルでオートモーティブマーケティングのディレクターを務めるラッセル・ルーベン氏によると、今後データ量が特に増加し、NANDフラッシュメモリが必要になるのは「高精度3次元地図」「AI」「メータークラスタ」「ブラックボックス」という4つのアプリケーションだという。
高精度3次元地図は最低でも64GB以上、今後5年間では128G〜256GBの容量が求められる。地図データを常に最新に保つため、更新したり修正したりする必要もある。また、ブラックボックスは航空機のようにクルマがいつどこでどのように自動運転で走行したかを記録するもので、事故発生時に記録を残すためのアプリケーションだ。使用するフラッシュメモリの容量は64G〜128GBを見込んでいる。「事故の直前だけ記録を残すのか、それとも何時間、何日といった単位でも記録が必要なのか、現時点でも議論が進んでいる」(ルーベン氏)。
求められるデータ容量が未知数なのがAIだ。「走りながら学習することを考えると、大きくなり続ける可能性がある」(ルーベン氏)。この他、無線ネットワークによるアップデート(OTA:Over-The-Air)にも大容量のフラッシュメモリが必須になりそうだ。OTAは、ソフトウェアを常に最新の状態に保てる一方で、更新前のバージョンのソフトウェアや、工場出荷時の状態のソフトウェアも残さなければならないからだ。
ルーベン氏は「このようにそれぞれの機能で大きなデータ容量が必要となるため、完全自動運転車1台につき1TBもの容量のフラッシュメモリを使うようになる」と想定している。
NANDフラッシュメモリは、スマートフォンで高画質な静止画や動画を表示したり、高性能なカメラを搭載したりするために採用が拡大してきた。しかし、フラッシュメモリを自動車に搭載するには、スマートフォンで使用しているものをそのまま使うことはできない。車載グレードをクリアする品質や耐久性を満たさなければならない。
ウエスタンデジタルは、半導体チップの開発・製造からフラッシュメモリとしての完成品まで一貫して自社で行う「垂直統合型ビジネスモデル」によって、高い信頼性と品質の製品を提供しており、過去5年以上にわたって、自動車分野で数百万のウエスタンデジタル製品が活用されてきたことを強みとする。2015年に第1世代の車載グレードのNANDフラッシュメモリ「Automotive iNAND」やSDカードを発表して以来、車載関連の投資を強化して新製品を追加してきた。自動運転車で扱うデータ量が増えることを想定し、データの読み出し性能だけでなく、書き込み性能も向上させている。
フラッシュメモリの記録方式にSLC(1セル当たり1ビット)ではなくMLC(Multi Level Cell/1セル当たり2ビット)を採用したこともウエスタンデジタルの特徴だ。SLCの方が信頼性や耐久性が高いとされてきたが、ウエスタンデジタルはNANDフラッシュメモリのコントローラーとファームウェアも手掛けている強みを生かして、書き込み回数の増加に対応させた。コントローラーはビットエラーが多発しても修正できるもので、車載専用で開発した。
ルーベン氏は「MLCであっても十分な車載品質を提供できる。取引先が希望すればSLCも選択できるようにしている。コストとデータ量の兼ね合いから、SLCよりもMLCの方がメリットが大きい」と述べている。
ウエスタンデジタルは2017年5月、コネクテッドカーにおけるデータ量の増大や耐久性に対応した車載向けフラッシュメモリの新製品「iNAND 7250A」を発表した。製品は動作温度範囲が−40〜+85℃のAEC-Q100グレード2と−40〜+105℃のAEC-Q100グレード3の2種類をそろえており、特に車載向けで重要となる高温下での動作をサポートする。
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提供:ウエスタンデジタルジャパン株式会社
アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2017年7月19日