デザインレビューに新時代が到来。2D、3D、そしてVR(仮想現実)へと進化してきたレビュー環境は、遠隔地に離れた複数人が同時にVR空間を共有してコラボレーションできるところまで進化している。
デザインレビューは、製造業における製品の開発プロセス全体のスピードに大きく影響する工程の1つ。質の高いデザインレビューは工程を加速させるが、逆にちょっとしたコミュニケーションミスがブレーキにもなる。実物の大きさや空間を疑似体験できたら、しかも遠隔地からも参加できたら、多くの課題が解決されるはず。それを実現するシステムをSCSKが開発した。
Autodesk(オートデスク)の3Dビジュアライゼーションソフトウェア「Autodesk VRED(以下、VRED)」は、世界の、特に自動車のデザイン分野で広く利用されている。プロダクトモデルのレンダリングや、デザインレビュー、バーチャルプロトタイプの作成などが主な用途だ。外装、内装、さらにその内部などと階層化されたデータを持つことができ、色やテクスチャ、デザインそのものなど、幾つものバリエーションを切り替えることも可能だ。対象物が置かれている環境(例えば、ビルのロビー、街の広場、海辺など)を複数選択でき、その環境における製品表面に当たる光や周辺の映り込みも正確に再現できる。
オートデスクはVR(Virtual Reality:仮想現実)システムの活用にも積極的。最新版の「VRED 2017 Professional」では、これまで対応していたHMD(ヘッドマウントディスプレイ)型のVRシステム「Oculus Rift」に加え、新たに「HTC Vive(以下、Vive)」もサポートした。VREDのバーチャルプロトタイプを「見る」のではなく、空間の中を動き回り、体験し、感じながらレビューを行うことができる。
「体験できる」という意味合いは大きい。いかに高精度なレンダリングやレイトレーシングが実現できたとしても、平面のディスプレイに疑似的に表現された3D画像では、その場に身を置いたときの感覚まで理解するには限界があるからだ。バーチャル空間に入り込むことができれば、実際の大きさや広さ、圧迫感、動作に支障がないかなど、実運用に近い感覚で検証することができる。
デザインレビューは、複数人で行うことが多い。ディスプレイやスクリーンに投影されたモデルならば、会議室で、あるいはWeb会議システムなどによって、情報を共有しながらレビューを進めることができる。没入型の立体視が可能なVRシステムを使うのであれば、複数人で「同時に体験」したいという要求が出てくるのは当然のことだろう。オートデスクでも、最新バージョンのVREDとViveの組み合わせによって、2人で同じVR空間でコラボレーションできるデモスクリプトを公開している。標準機能としての実装も、今後のリリースで計画されているようだ。
ところがSCSKの顧客からの要求は、もう一歩先の環境だった。「遠距離のコミュニケーション手段として、3台以上のViveを使用したVR空間のコラボレーションを、すぐに始めたいというご要望でした。つまり、VR空間を共有しての『多拠点デザインレビュー』です。そこでオートデスク提供のデモスクリプトを解析し、3台以上のViveによる『VRED コラボレーションシステム』を開発しました」と語るのは、SCSK プラットフォームソリューション事業部門 製造エンジニアリング事業本部 デザインソリューション部 第一課 シニアエンジニア ITコーディネータの阿部大如氏だ。
オートデスク提供のデモスクリプトは、2台の端末がお互いの位置情報を相手に送り続けるというもの。しかし台数が増えると負荷も相当増加することになる。この課題を解決するために、コラボレーションサーバを間に立てることでスケーラビリティを確保したのがSCSKが開発したシステムになる。サーバは各端末から送られた位置情報を集約し、その端末以外の位置情報を返す。現時点では、イントラネットワーク内でコラボレーションサーバと4台の端末を接続した環境での動作を確認済みだ。
このシステムを使用すると、遠隔地にいる複数人が仮想的に同じVR空間内でデザインレビューを行える。表示した空間の感覚を共有したり、クルマの中に入り込んだ上でもう1人の参加者に「こっちにきて、コレ見てくれる?」という作業をしたりすることも可能なのだ。コミュニケーションが格段にスムーズになり、デザインレビューにおける認識のズレが大幅に減ることは間違いない。
実物大のサイズ感を検証する方法としては、壁一面をスクリーンにする「パワーウォール」や、従来のVRシステムである「Cave(ケーブ)」という方法がある。しかし、パワーウォールの場合は、デザインレビューを行う関係者が「その場」に集まらなければならない。またケーブの場合は、高解像度のシステムを用意するのに億円単位の投資が必要な上に、基本的には1人でしかVR空間を体験できない。
SCSK プラットフォームソリューション事業部門 モノづくり技術部 第四課長の岸元睦氏は「当社が開発したVRED コラボレーションシステムのニーズはたくさんあると思います。VR空間を使った没入型のデザインレビューに、遠隔地からでもWeb会議と同じような感覚で参加できるので、デザインレビューが一変します」と強調する。実物の大きさや空間を検証する必要がある航空機、船舶、大型の家電など、自動車分野以外でも需要は大きそうだ。
VRED コラボレーションシステムを運用するには、コラボレーションサーバの他、各端末にVREDがインストールされたハイスペックのPCとViveが必要。特にPCのグラフィックス処理性能は最高レベルが望ましい。基本的にはイントラネットワークの利用を前提としており、指定のポートをパケットが通過できる環境があれば動作する。コラボレーションサーバの構築は、一般的なアプリケーションサーバを構築できる程度のスキルがあればOK。必要ならば、これらのハードウェアの提供や、システム全体のセットアップも含めてSCSKがワンストップで対応してくれる。
現時点で、遠隔地とVR空間を共有できるカーデザインレベルのレビュー環境を提供しているのは、このVRED コラボレーションシステムだけ。体験してみたいという方、また自社の環境で利用できるかどうかを知りたいという方は、ぜひSCSKに問い合わせてほしい。
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提供:SCSK株式会社
アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2017年2月28日