完全自動運転に向けたロードマップは「ビジョンでなく既に現実」車載半導体トップシェア・新生NXPの戦略

クルマ自身が人間と同じように運転するには――。NXP SemiconductorsのCar Infotainment & Driver AssistanceでSVP & General Managerを務めるTorsten Lehmann氏が、半導体メーカーの視点から、レベル4の完全自動運転(緊急時も含めてドライバーは一切運転に介入する必要がない)の実現に向けたロードマップを語った。

» 2016年07月08日 10時00分 公開
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 クルマ自身が人間と同じように運転するには――。MONOistが主催したセミナー「自動運転技術開発の最前線2016」にNXP Semiconductors(以下、NXP)のCar Infotainment & Driver AssistanceでSVP & General Managerを務めるTorsten Lehmann氏が登壇し、半導体メーカーの視点から、レベル4の完全自動運転(緊急時も含めてドライバーは一切運転に介入する必要がない)の実現に向けたロードマップを語った。

 Lehmann氏は、ドライバーの認知に相当するセンシングではミリ波レーダーが、人間の認知機能やセンサーが届かない範囲はV2X(車車間通信/路車間通信)が重要な役割を担うと語る。また、低消費電力の自動運転システム開発用プラットフォーム「BlueBox」を投入し、自動運転車の実用化に貢献していくとした。

自動車のイノベーションの9割はエレクトロニクスから

NXP SemiconductorsのCar Infotainment & Driver AssistanceでSVP & General Managerを務めるTorsten Lehmann氏 NXP SemiconductorsのCar Infotainment & Driver AssistanceでSVP & General Managerを務めるTorsten Lehmann氏

 NXPは2015年12月にFreescale Semiconductors(以下、フリースケール)と経営統合し、「自動車業界トップの半導体メーカー」(Lehmann氏)として動き出した。売上高の4割を自動車向けが占める。

 同氏は「自動車が面白いのは、イノベーションの9割がエレクトロニクスによって起きているということ。その大きなトレンドの1つは自動運転だ。ほとんどの交通事故は人間のミスによって起きる。この被害をなくすには、人間が運転に介入する部分を減らさなければならない。クルマ自身が人間の代わりに運転を担うためには、人間同等以上の検知能力を持ち、それを判断する必要がある。つまり、車両の周辺の環境を認知して、次に起こす行動を判断し、実際に動作に移さなければならない」と説明。

 人間の視覚をセンサーで、交差点や遠距離でセンシングできない範囲はV2Xで情報を取り込んでいき、それらを融合して処理した結果に基づいて意思決定を下していくのがレベル4の自動運転だ。その実現に向けてNXPは幅広いポートフォリオで貢献していく。

NXPのポートフォリオはセンサーやセキュリティ、センサーフュージョン、制御系まで自動運転に必要な技術をカバーする NXPのポートフォリオはセンサーやセキュリティ、センサーフュージョン、制御系まで自動運転に必要な技術をカバーする

 「NXPはセンサー、情報処理、制御といった自動運転に必要な製品や技術を包括的なシステムソリューションとして提供できる。自動車は家電やスマートフォンよりも厳しいレベルで堅牢さや安全性、信頼性が求められる。不良を出さないゼロPPMの考えも不可欠だ」(同氏)。

 また、安全性やプライバシー保護の観点から、これからの車載アプリケーションにはセキュリティの確保やハッキング対策も求められる。これに対し、NXPは自動車以外の業界での知見を提供できる強みがある。「われわれはセキュアなID認証に関するソリューションではナンバーワンだ。電子パスポートや政府の文書でも当社のチップが採用されている。銀行、クレジットカードなどに関しても実績がある。これらハッキングを防止するための暗号化技術は自動車に応用可能だ」(同氏)と語る。

 自動車向けのセキュアなソリューションでは、NXPとフリースケールの技術を融合している。「インタフェース、ゲートウェイ、ネットワーク、プロセッシングの各レベルで高度なセキュリティを提供できる。通信機能が車内から車外へと展開する中で、テレマティクスサービスやV2Xといった最も攻撃にさらされ得るところで安全性を実現していく」(同氏)と述べた。

ミリ波レーダー市場は5000万台規模に成長

 NXPはさまざまなセンサーの中でもミリ波レーダーを重要視する。「2021〜2023年ごろに向けて、ミリ波レーダーの市場は爆発的に拡大する。市場規模は5000万台まで大きくなるだろう。自動運転システムの自動化レベルが高くなるにつれて、車両1台当たりのミリ波レーダーの搭載数が増えていく。また、駐車支援に使用する超音波センサーはミリ波レーダーに置き換えられていくだろう。超音波センサーよりも高速で解像度や信頼性に優れているのが代替のメリットだ。車両のデザインを損ねないという点も特徴となる。さらに、ドライバーがジェスチャー入力する際にもミリ波レーダーがセンサーとして使われると考えている」(同氏)。

 次世代のミリ波レーダーは信号処理部まで含め3.5cm四方まで小さくすることが可能という。「このRFCMOSにより製造された小型ミリ波レーダーに対して、自動車メーカーやティア1サプライヤが既に評価を始めている。既に500万台を出荷しているレーダー用プロセッサなどフリースケールの技術も盛り込んだ次世代のミリ波レーダーでは、RFブロックとベースバンド処理ブロックが1チップとなり、より小型に、省電力になっていく」(同氏)とその進化を説明した。

人間は車間距離5mを維持して運転できるか

 センサーでは検知しきれない範囲の情報を得るためにはV2Xが重要になる。「角を曲がったところにいる車両や、離れたところにいるクルマとコミュニケーションできると、例えば路面凍結した危険な場所に到達する前に、その事実を把握することが可能になる。米国政府は新車にV2Xの搭載を義務付ける方針だ。NXPは米国運輸省のパートナーとしてコネクテッドカーの普及に貢献していく」(同氏)。

 商用車などで期待されている隊列走行の実現にもV2Xはなくてはならない。同氏は「低遅延な通信をV2Xで行えるようにすれば、トラック同士が5mの車間距離を保ったまま時速80kmで走行可能になる。人間が緊急時にブレーキを踏んで対処するには難しい車間距離だろう。隊列走行は運輸に効率性を提供できる」とメリットを説明した。

 さらに「これは将来的なビジョンではなく、実現が間近の技術だ。数カ月前、欧州のトラックメーカー大手6社が参加して実際の道路環境でトラックの隊列走行をテストした。NXPのテクノロジーも使われている。V2Xに必要とされているのは高性能でセキュアなシステムソリューションだ。我々は完全なチップセットを用意している。また、IEEE802.11p対応の車車間通信用ICは2016年末からGeneral Motors向けに量産を始める」と間もなく市場に登場する技術である点を強調した。

自動運転システム開発用プラットフォーム「BlueBox」

 同氏は最後に、2016年5月に発表した自動運転システム開発用プラットフォーム「BlueBox」を紹介した。「要となるのは2つの高性能プロセッサコアからなるプラットフォームだ。このうち、『S32V』は自動車向けのセンサーフュージョンに特化したプロセッサだ。高性能/高演算のARMコアのアーキテクチャを搭載した『LS2088A』と組み合わせる。9万DMIPSと高い処理能力を持つが電力消費は40Wだ。パワフルだが省電力で搭載性も高い。開発はLinuxベースで行える」と説明。

自動運転システム開発用コンピュータ「BlueBox」のブロック図。高い処理能力と低消費電力を特徴とする 自動運転システム開発用プラットフォーム「BlueBox」のブロック図。高い処理能力と低消費電力を特徴とする

 BlueBoxは既に大手自動車メーカー4社が評価しているという。「これは単なるビジョンではなく製品化された技術だ。BlueBoxで自動車メーカーの自動運転車の開発や、他社との差別化を図る戦略をサポートしていく」(同氏)。

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提供:NXPセミコンダクターズジャパン株式会社
アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2016年8月7日

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