なぜ組み込み開発には有償ツールなのか?IARシステムズに聞く市場変化とツールの進化

オープンソースの多様化や半導体メーカー提供の無償ツールの充実もありながら、有償(商用)ツールメーカーへの顧客ニーズは高まっているという声がある。「IAR Embedded Workbench 」を提供するIARシステムズ株式会社によれば、その背景には「組み込み開発ソフトウェアに求められる要件の変化」と「ツールの進化」が存在するという。

» 2016年04月20日 10時00分 公開
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 組み込みソフトウェアは、モノのインターネット(IoT)や機能安全への対応などもあり複雑化・大規模化の一途をたどっている。しかし開発にさける期間や予算は限られているため、その状況を打破するためにオープンソースが注目され一定の存在感を示した。しかし、組み込み開発に関するソフトウェアが全て無償のオープンソースに流れ、有償ツール市場が大きくシュリンクしたかと言えばそうではない。

IARシステムズの主力製品である統合開発環境「IAR Embedded Workbench for ARM」 IARシステムズの主力製品である統合開発環境「IAR Embedded Workbench for ARM」

 スウェーデンに本拠を構え、ARMマイコンを主な対象とした組み込みシステム向け統合開発環境「IAR Embedded Workbench」を提供するIARシステムズは5年連続の業績増を果たしており、とりわけ日本を含むアジア市場の伸びが顕著だという。無償のオープンソースツールや半導体メーカー提供の無償ツールでも開発を進めることができながら、なぜ専業ソフトウェアメーカーによる有償ツールが市場から求められるのか。

 IARシステムズの古江勝利氏(マーケティング部 マネージャ)と赤星博輝氏(技術部 マネージャ)によれば、その背景には「組み込み開発ソフトウェアに求められる要件の変化」と「ツールの進化」が存在するという。

半導体メーカー内製ツールを前提としたモデルの崩壊

photo IAR システムズ マーケティング部 マネージャの古江勝利氏

 「オープンソースの無償開発ツールが増えたことは事実ですし、最先端の組み込み開発向けに半導体メーカー は内製ツールを無償で提供しているのは事実ですが、マーケットの数字は有償(商用)ツールの優位性を示しています」と語るのは、IARシステムズにてマーケティングを担当する古江氏だ。

古江氏: 例えば、初期試作までを無償ツールで開発することは可能ですが、「開発から量産まで」の全工程をカバーできる品質の無償ツールを見つけることは困難です。それに製品化される組み込み機器にはさまざまなマイコンやプロセッサ、SoCなどが利用されますが、複数種のハードウェアを開発対象にしなければならない場合に1つの無償ツールだけで開発することも現実的ではないでしょう。

 ですがプログラムのコーティングからルールチェック、デバッグまでをワンパッケージにした統合開発環境ならば、導入するだけで開発から量産までの全工程に対応し、さまざまなハードウェアにも対応することができます。それに1つのパッケージで全工程を処理することによる工数減は、常に納期や予算という制約がつきまとう開発者に大きなプラスを生み出します。

 私どもの主力製品である「IAR Embedded Workbench」はコンパイラだけでではなくIDEやデバッガまで包括する統合開発環境です。更にオプション機能として静的および動的解析や機能安全まで提供できます。利用されている製品も航空機から自動車、産業用ロボット、カメラ、フィットネス機器など多岐にわたっています。

――「IAR Embedded Workbench」を統合開発環境として採用することのメリットは理解できますが、半導体メーカーとの取引ではマイコンとコンパイラをセットで導入するものという考えも根強いように思えます。この意識に変化は見られるのでしょうか。

古江氏: 長年、半導体メーカーはマイコンとコンパイラをセットにして売っていましたし、導入する側もそれを当然と思っていました。ですが半導体メーカーのM&Aが相次いだことにも象徴される通り、メーカー内製ツールを前提とした垂直統合モデルは破綻し、専業ツールメーカーを巻き込んだエコシステムやパートナーシップと呼ばれるビジネスモデルにシフトしています。実際ESECなど展示会の弊社ブースではここ数年、6〜8社の主力マイコンメーカーが自社半導体+弊社ツールという組み合わせの展示を行っています。

photo IAR システムズ 技術部 マネージャの赤星博輝氏

 IARシステムズのツールを導入するお客さまに伺っても、半導体メーカー内製ではない開発環境を使うことに抵抗はないとのことです。事実、日本を含めたアジア地域でIAR Embedded Workbenchの売り上げは伸びています。

赤星氏: 導入頂いた顧客数は全世界で4万6000件を超えていますが、技術サポートに関する数字では「年間販売件数イコール、問い合わせ件数」という興味深いものがあります。技術サポートについては代理店任せにせず全て自社で手掛けているためかなり詳細な技術サポートも可能ですが、1ライセンスあたりの年間サポート件数が1件ということが意味する通り非常に手間要らずな製品なのです。IAR Embedded Workbenchは導入されているお客さまからすれば“使いやすく、トラブルがない”統合開発環境といえるかと思います。

古江氏: IAR Embedded Workbenchは、ルネサス エレクトロニクスのIoT機器向け設計基盤「Renesas Synergyプラットフォーム」に採用されています(名称は「EWARM-RS」)。 ルネサス エレクトロニクスも半導体メーカーの常として自社ツールを提供していましたが、ARMコアの「RZファミリ」以来、弊社のツールをオフィシャルツールとして推奨しています。「半導体メーカー内製のツール縛り」という意識が、半導体メーカー側でも変わっていることを示す事象と言えます。

「コンパイル以上」の価値を提供する技術的アドバンテージ

――IARシステムズといえば、世界で初めて組み込み向け商用Cコンパイラを投入したことから、C/C++のコンパイラに強いメーカーという印象が強くあります。“その強さ”に変化はないのでしょうか。

赤星氏: IAR Embedded Workbenchは主要アーキテクチャ全てに対応した統合開発環境ですが、中でも、コンパイラとしての優秀さは他を圧倒すると自負しています。コンパイラが優秀であれば、コードサイズが削減できるメリットはもちろん、処理速度面での優位性による製品の高機能化も狙えます。リソースの限られることが多い組み込み機器開発において、低リソースと高機能の両立を果たせる意義は大きいはずです。

コンパイラ性能差によるコード効率の比較例 コンパイラ性能差によるコード効率の比較例(出典 IARシステムズウェブサイトより)

 IAR Embedded Workbenchのコンパイラは自社開発IPによる完全オリジナルです。IARシステムズは30年以上の歴史を持ちますが(創業は1983年)、その歴史の中で洗練されたコンパイラであり、その洗練によりいわゆるコンパイラエンジン内の共通化部分のパフォーマンスが非常に高くなっています。共通化部分のパフォーマンスが高いと言うことは、対応するターゲットのアーキテクチャに依存する部分による影響が少ないため、ハードウェアが変わってもパフォーマンスが落ちないと言うことを意味します。

――確かにIAR Embedded Workbenchでは、現在主流のARM系はもちろん、 8051、AtmelのAVR、ルネサスのRXや SuperHなど多種多彩なハードウェアに対応します。ただ、昨今では品質向上や機能安全などの観点から、高性能なコンパイル以上の開発環境が求められています。

赤星氏: 確かに自動車におけるMISRA-Cなど、開発にはコンパイル以外の要素も重要になっています。そこで提供しているのが、IAR Embedded Workbench上で動作する静的解析アドオンツール「C-STAT」と動的解析アドオンツール「C-RUN」です。前者はIAR Embedded Workbench上でシームレスに実行されるコンパイラチェッカーで、後者はIAR Embedded Workbenchに完全に統合された動的解析アドオンです。

 これらは高品質なコード生成に欠かせない解析機能を提供するものですが、IAR Embedded Workbenchのアドオンツールとして用意することで導入コストの劇的な引き下げを可能にしました。両製品ともに約16万円程度(ライセンス形態による)なので、IAR Embedded Workbenchをベースに「コンパイラは静的、デバッガは動的」の環境を開発者1人につき1つ、構築することが可能です。

 静的解析アドオンの「C-STAT」はMISRA-C以外にも、セキュリティ確保のためにCERTがまとめた「CERT C/C++」といったコーディングルールの必要な開発にも利用できます。IoTデバイスの開発が本格化を迎える中、CERT C/C++はもちろんですが、コーディングルールの存在は安全性確保の観点からより重要になるでしょう。

 安全性という意味ではISO 26262 / IEC 61508対応コンパイラ「機能安全認証ツール」も提供しています。「ISO 26262」という文字を出すと自動車関連の開発者しか関係ないように感じられるかもしれませんが、自動車でなくとも安全性・信頼性が求められる製品は増えています。品質が高いソフトウェアを作り出すための作りこみ手法としてこれらは利用できます。

 機能安全パッケージの導入は証明書の取得という目的を達成するためのものではありますが、機能安全というボーダーラインを設けることで、品質の高さを担保できる仕組みともいえます。

「組込みシステム開発技術展(ESEC 2016)」「IoT/M2M展」出展情報

2016年5月11〜13日に開催される「組込みシステム開発技術展(ESEC 2016)」と同時開催の「IoT/M2M展」 において、IARシステムズはさらなる機能強化を果たした「IAR Embedded Workbench」の最新版を展示する他、IAR Embedded Workbench上で動作する静的解析アドオンツール「C-STAT」、動的解析アドオンツール「C-RUN」および機能安全パッケージを紹介する。

また、主要マイコンメーカー8社と同社製品を組み合わせての展示も予定されており、産業機器からウェアラブル機器まで、さまざまな産業、製品の領域でIAR Embedded Workbenchが実現する世界を目の当たりにできるブース構成となっている。ESEC 2016 のIARシステムズブースは西1-7だ。


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提供:IARシステムズ株式会社
アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2016年5月19日

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