開発スピードをテーマにしたMONOist主催セミナーが、モノづくりを支援するプロトラブズの協賛で開催。ニーズが多様化するいま、注目の企業はどのように開発スピード高め、どんなモノづくりに挑んでいるのか。
2015年12月11日に行われたMONOistセミナー「大手とベンチャーが語る『開発スピードが生み出すモノづくり力』」では、2つの基調講演で大手、ベンチャーそれぞれの開発スピードを高める取り組みがリアルに紹介された他、ベンチャーとプロトラブズ社長のトーマス・パン氏の対談、パネルディスカッションと非常に濃い内容で、熱心にメモを取る参加者も見られた。
基調講演は、デンソー 情報通信基盤開発部 サービス開発室 担当係長の伊藤正也氏による「デンソーにおける製品開発スピードアップへの挑戦」。デンソーといえば車載製品が主力だが、スマートフォンの利用をアシストする専用アプリ「Spin n'Click」を開発し、そのアプリを遠隔で操作できる円形のコントローラー「KKP(くるくるピ)」を、Braveridgeと共同で開発した。
スマホの利用シーンやニーズが多様化していることから、短期間で試作し、市場の反応を見ながら改善するというサイクルを回して開発を行ったという。伊藤氏は「特に新しい分野の製品は、世の中に早く製品を出して、アーリーアダプターを獲得し、フィードバックを得ることが重要。従来製品の開発スキームにとらわれないモノづくりに取り組んでいく」と語った。
セッション「品質が求められる医療機器の製造事例」は、吉村メディカル福祉の代表 吉村一成氏と、プロトラブズ社長のトーマス・パン氏の対談。吉村メディカル福祉は、ウェアラブルで火を使わない業界最軽量の電子お灸「ながら灸」を開発し、2014年12月、難関の医療機器認証を取得。2015年6月から販売を開始している。
同社は部品の製造にプロトラブズのサービスを活用している。その理由として吉村氏は「見積もりがスピーディーで、設計の課題も3Dビューアーで分かりやすく、価格も明瞭であることは大きい。最初から量産金型に投資するというリスクも避けられる」という。
また医療機器認証の申請は、最終製品と同じ材料でなければならないが、プロトラブズなら製品仕様に適合する材料の選択も可能で、オンラインで仕様を確定させ、発注することができる。そのおかげで、2014年11月の薬事法改正前に医療機器認証の申請をするというタイトなスケジュールに、間に合わせることができたそうだ。
大手メーカーで生産技術に従事してきた吉村氏は、2009年に退職後、社会福祉士の資格取得を目指すかたわら、医学的根拠の不明瞭な高額な健康機器に不信感を抱き、「培ってきたモノづくりを生かして、福祉に貢献できる会社を設立したい」と考えたそうだ。「今後は『ながら灸』をプラットフォームに、更なる機器開発事業の発展を目指したい」と意欲を燃やしている。
2つ目の基調講演は、Cerevo CTOの松本健一氏による「『グローバルニッチ』を実現するベンチャー流開発手法」。同社製品はまさにニッチで、その世界に非常にこだわりを持っている人でなければ必要でない、むしろ他の人にはその必要性も良さも理解できないといっていいくらい個性的な製品を開発している。販売戦略は「100カ国で100個ずつ売れば1万台」とし、実際昨年は40カ国に出荷した実績がある。売上も海外が53%で、それほど遠くない将来7割に届く見込みだ。
講演では、スピードのためにどのようなスタイルで開発を行っているかを紹介。同社では基本的に合議制をとらず企画は1人で決める。デザインとメカ、電気設計、アプリとサービス、組み込みソフトの4分野にそれぞれ1人ずつという少人数チームで、全て開発する。常に顔が見える状態で、何か問題があれば4人で考え、自分で判断する。
「ニッチで誰も作らない。でも誰かは欲しい。それを1秒でも速くユーザーに届けるというスタンス。われわれの強みは、スピードしかないと思っている」(松本氏)。
「開発スピードを速くするとモノづくりはどう変わる?」と題したパネルディスカッションでは4人の講演者が集まり、いくつかのテーマを通じて開発スピードを高める「ワザ」とそこから生まれる「モノづくり力」について、考えを語り合った。
開発側の短納期のニーズに応えるサービスを提供しているプロトラブズのパン氏は「今日では、マーケット寿命が短くなっているため、早く市場に投入しなければマーケットを獲得できない」と指摘。
Cerevoの松本氏も同様に「スピード感を持って開発しなければ勝ち抜けない」といい、「フィードバックから得られるユーザーニーズは強い。社内で時間をかけて検討するより、まず市場に投入してコンセプトを確認していくことが最重要。開発スピードのポイントは、判断を一元化すること」と同社の考えを説明した。
デンソーの伊藤氏も「関係者内で閉じた開発だけでは多くのユーザーの満足・理解を得るのは難しい。製品開発のPDCAを速く回して、開発段階、試作段階で多くの外部の意見を取り入れる必要がある」と語り、企業規模は違っても、早期の市場投入、そのための開発スピードは重要であることを強調した。
莫大なコストと時間がかかる医療機器分野について、吉村メディカル福祉の吉村氏は「一般に臨床が必要な医療機器は開発に10年、10億円が必要と言われている。しかし『ヒト』『モノ』『カネ』のないベンチャーが医療機器を開発するには、短期間でコストを抑えた戦略でなければ無理。ベンチャーは意思決定が速いという利点はあるが、開発には社外の力が必要で、正確性と確実性を維持するのに労力を要す」と述べた。
では、質とスピードは両立できるのか。「スピードうんぬんは関係なく、上流工程での設計をキチンと行うこと」というのは伊藤氏。松本氏は「コンセプト以外の部分を削ぎ落し、判断のフローや、作り方のアプローチを変えることで、品質を犠牲にしなくても開発期間は短縮できる」という。
一方「その両立に一番苦労した」というのは吉村氏だ。「はっきり要求品質が決まっている医療機器は、設計段階から材料、構造、加工性、コスト、デリバリーを考慮しなければならない」。実際吉村氏は、スピードと正確性が重要な部分はプロトラブズで、やや品質を落としても問題ない部分は中国で、と使い分けている。
サービス提供側のパン氏は「その会社組織のモノづくりの文化で決まるのではないか。品質を落とさずにスピードアップできる仕組みが提供されているなら、それを活用すべき。いまだに紙の図面や書類のやり取りで、新規テクノロジーを取り入れられないことが最も大きな問題では」と指摘した。
ではどんな新規テクノロジーをどう活用しているのか。
「3Dプリンタを多用している」と伊藤氏。松本氏はDMM.make AKIBAを活用している他、「用途と期間によって、海外の試作業者と自作する試作とを使い分けている」そうだ。吉村氏は「IT活用で大手と同様の商品開発が可能な時代。これからはコンセプトが勝負になると思う」と予測する。
パン氏は「今はまだ3D CAD、CAE、3Dプリンタ、Web上の支援サービスなどはバラバラの状態。これは、ICTも含めてすべてを一社で統合して提供する技術的なハードルがまだまだ高いのと、ツールを提供している会社間や顧客間の利害関係の問題も課題のひとつなので、技術だけでは解決できず、現状では『どの技術をいつどの製品に応用するか』というユーザーの判断自体が、競争力の源になっている。しかし将来的には、これらの製造技術はICTによってかなりのレベルまで統合されてもおかしくない」と、ICT活用の課題と将来像について語った。
最後に、今後への期待を込めた、各氏のコメントを紹介する。「すぐにモノが作れることで、よりユーザーニーズを反映した製品にもなる。ソーシャル化された開発スタイルの変化はモノ作りに全く新しいイノベーションを起こすのでは」(伊藤氏)。
「多様化するニーズに対し、ハードウェアベンチャーや個人のメーカーたちが、迅速に応えられる世界がくると思っている」(松本氏)。
「モノづくりの主役は、イノベーティブな商品開発が可能な会社に移っていく。機能デザインに加えて、ストーリー性を付加したモノづくりまで広がれば、値段が高いものをたくさん売ることもできるようになる」(吉村氏)。
「少量多品種を素早く開発することが標準になる時代が来る。例えば『開発に5年間かけ、年間1000万個を10年間売る』というような製品は、時代の変化についていけないので、民生品の世界からはほぼ無くなるのではないでしょうか。一方で耐久性の必要な製品はさらに耐久性や性能が高まるので、今後は時代にマッチした『消費製品』と長期性能重視の『耐久永年製品』の住み分けが両極端になるのでは」(パン氏)。
さて読者の皆さんは、モノづくりはどう変わると考えるだろうか。
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提供:プロトラブズ合同会社
アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2016年2月17日
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