スマホやテレビにオープンソースのFirefox OSが採用された――。とかくブラックボックスになりがちなモノづくりの世界にもオープン化の潮流が訪れ始めている。Webでつないで、フィードバックを集めて、みんなの力を開発に生かすことで、今までにない新しい世界が広がってくる。一方で、多くの開発者が参加する開発手法に安全性などの不安もある。オープンソース的モノづくりの可能性について探ってみた。
モノづくりを支援するプロトラブズが、日本の未来を担うクリエイティブなモノづくりを追う連載「モノだけじゃない! 日本のモノづくり」。今回、プロトラブズ社長のトーマス・パン氏と対談したのは、Firefox や Thunderbird などオープンソース製品を提供しているMozilla Japan モバイル&エコシステム マネージャの浅井智也氏だ。
昨年末以降、KDDIとパナソニックが、オープンソースのFirefox OSを採用したことが話題になった。多くの開発者が参加して開発するオープンソースのソフトウェアには、正直不安を感じる方もいるだろう。しかし、今やオープンソースは、ソフトウェアの世界だけの話ということではなくなってきたようだ。はたして、オープンソース的モノづくりの可能性はあるのだろうか。
(以下、敬称略)
パン オープンソースというと、ボランティアベースで開発されているイメージなのですが、うまく意見を集約できるものなのでしょうか。
浅井 ボランティアだけではなく社員の開発者もいますが、ボランティアが開発しているコードがかなりの割合を占めていて、継続的にコードを書いてくれている人だけでも数千人います。全ての決断は、オープンなメーリングリストでのディスカッションを経て行われます。誰でも意見を言える場で、納得できるまで議論します。最終的にみんなの意見を調整するのは、技術力と実績があり、みんなから信頼されているリーダーです。そのリーダーも、社員とは限りません。
1998年にMozillaの元となるNetscapeがソースを公開しオープンソースという言葉を定義した時点でも、指揮系統がないのにうまくいくのかという議論もありましたが、このような体制ができれば成立します。
パン すごく民主的なのですね。ボランティアの開発者の人たちは、どういうマインドで集まっているのか興味がありますね。
浅井 例えば行政は資金の用途をオープンにして、市民がレビューすることができるようになっていますよね。われわれも同じように、公共の財産であるWebを使うソフトウェアは、みんながレビューできる形にしたいという考えがベースにあります。最初は、この考えに賛同してくださる方がコミットしてくれて、だんだんFirefoxが好きという方々も加わっています。直接開発に関わらないユーザーから集まるフィードバックも、次の機能追加/改善で検討しますので、ユーザーも製品作りに参加してくれていると思っています。
パン 最近は、KDDI(au)のFirefox OSスマホや、パナソニックのスマート4KテレビでもFirefox OSが採用されていますね。オープンソースには、誰が何をするか分からないというリスクもあるように思うのですが。
浅井 オープンにすることは、むしろセキュリティや安全性を担保する上でも有効です。セキュリティの専門家も含めて、非常に多くの目が見ているので、ひそかに何かを仕込むといったことはできません。KDDIやパナソニックも、新たに開発した機能などを公開してくれていますし、KDDIに至っては、透明な筐体をデザインし、その3次元CADデータを公開するなど、製品デザインに までオープン性を表現しています。
また1社が作った仕様や規格は、どんなに頑張ってもいつかなくなってしまいます。標準化されたオープンな仕様ならば、特許の問題もなく、将来的にも長く使えます。例えばJIS規格も、標準化された仕様ですよね。
パン 確かにそうですね。ただ、いわゆる“モノづくり”はソフトウェアとは育ってきた文化が違うと思いますが、Firefoxのようなオープンソースを比較的保守的な「モノづくりに組み込む」という考え方は理解されるのでしょうか。
浅井 何年も前に Firefox のエンジンを組み込み向けにいろいろな会社に提案しましたが、「オープンソースで本当に大丈夫なのか」とか、「バグがゼロになったら提案してくれ」とよく言われました。できあがったものを買うという発想ではなく、 一緒に作るという形をとってくださることが、オープンソースを使ったプロジェクトの成功に繋がります。企業の要望や、ユーザーからのフィードバックを取り入れて作っていけるということが、だんだん理解されるようになってきていると思います。
当初は個人がコミットしたオープンソースですが、KDDIやパナソニックのような日本の大企業もコミットするようになってきた。そういう時代に入ってきたのではないかと思います。
パン モノづくりの世界では、製品を商品化するためには、特にハードのコストパフォーマンスをいかに上げるかということに取り組んできましたが、今はソフトの重要性が高くなっていて、ソフトのコストだけではなくパフォーマンスも考えなければならなくなってきています。
特に機械を制御するソフトウェアの場合は、ソフトにバグがあったら機械が止まってしまうこともあるし、使っている人がケガをするというようなこともあるかもしれません。どうしてもプログラミングには、その機械を熟知したプログラマーだけに仕事が集中してしまい、色々なプログラマーが携わるような仕組みには多少なりともリスクを感じてしまうような課題もあります。
浅井 自分たちだけでなんとかするより、よく知っている人たちが管理していて、継続性があるソフトウェアや通信手段を基盤にする。それをベースに、独自性の部分に注力する方がいいのかもしれませんね。
もちろん、全てオープンにすればいいというものでもなく、何でもWebでつなげばいいというわけでもありません。1社の中で閉じて作った方がいい部分もあると思います。しかしWebでつないで、フィードバックを集めて、みんなの力をモノづくりに生かすという考えは、ソフトウェア以外の分野にも可能性があると思っています。
パン 物理的に形あるモノを作る場合でも、オープンソース的な考え方は成り立つということですね。
浅井 日本の製品は、クオリティは素晴らしい。しかしそれだけに注力するのではなく、新しい発想やスピードとのバランスも必要かもしれません。プロトタイプを作ってブラッシュアップすることは、社内では行われていると思いますが、エンドユーザーは意外と違う視点を持っています。
例えば初期の製品は、まず使えるものを提供する。それでも構わない、面白いから使ってみたいというユーザーが使ってみて、フィードバックをくれる。それを受けて改善する。こういうサイクルができれば、ソフトウェアのオープンソースと一緒です。このプロセスをいかに速く回せるかがオープンソースのだいご味、オープンなモノづくりのだいご味だと思います。
特にメイカーズとかFabなど、小さな規模でモノづくりをすると、テストに割ける時間は短くなります。多くの目が見ている共通のソフトウェアを使うことで、単に効率だけでなく、小規模化するモノづくりを支える考え方にもなるのかなと思います。
パン なるほど。当社は、工場を持たない人やメイカーズでも1個でも1万個でもカスタムパーツを作れるというビジネスモデルですから、オープンなモノづくりの考え方と通ずるものがありますね。
浅井 そうですね。プロトラブズさんのような一人ひとりの作りたいものを支援するサービスを活用して、だれかが作る。その人が作り方を公開すると、別の人がちょっとカスタマイズして作れる……というような、環境ができていけばいいなと思います。「みんなが参加して作る」という Web やソフトウェアの世界でのやり方を、よ りリアルでハードな世界に広げていければもっと面白くなる、生活の仕方を変えるインパクトがあるのではないかと考えています。
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提供:プロトラブズ合同会社
アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2015年8月7日
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