MONOistの記者が、iPadスタンド作りにチャレンジするシリーズ。今回は、“本職の設計者”という素晴らしい助っ人をゲット! また今回もWeb上の加工・成形屋 プロトラブズの見積もりサービスを使いまくった。
前回は、MONOist編集記者 Kが考えたiPadのスタンドを3次元モデリングし、プロトラブズの切削加工サービス「Firstcut」を利用しながら、あれこれ形状やコストを検討していった。しかし思うようにコストは落ちず、しかも形状は次第に“モッタリ”してきてしまうという悪循環が生じた。
「検討すればするほど、ドツボにはまりそう」――そんな悪寒、もとい予感がした記者は……、東京都八王子市の設計会社 テクノブレインを訪問し、“その道のプロ”からのアドバイスを仰いでみることにした。
テクノブレインはCADを核として、受託設計・製作、技術者派遣事業、3次元データ入力サービス……と多岐にわたるビジネスを展開している。そして同社は、プロトラブズ・ユーザーでもある。
今回の主担当は、同社で受託設計・製作に携わる技術者のI氏だ。
テクノブレイン側には、こちらの要件として以下を伝えた。
強力なブレインも付いたことだし、今回のiPadスタンドは、完成した暁(あかつき)にはノベルティグッズにしようという「何とも無謀な!?」 企みがあった。なので、最終的には金型も作り、「とにかく単価を落とすこと」を目標とした。
コストダウンも大事だけど……、皆さんに少しでも「欲しい」と思っていただける製品を作らねば……。
「この背もたれ、なくてもよさそうですね?」
本件の打ち合わせ中、記者が作ったモデルを見たI氏が出してきたのは、以下の写真、ロジクール製のキーボードケース(iPad2用)。ごく浅い溝だが、iPadはしっかりと固定されており、指やスタイラスで押しても転ぶことがない。
前回、背もたれのないモデルも作ってみたものの、「iPadが倒れてしまわないか」と心配した記者だったが、“素人の取り越し苦労”に過ぎなかったようだ。
「これが名刺入れほどの大きさになったとしても、iPadは転ばないでしょうか?」と記者がたずねてみたところ、「大丈夫でしょう」とI氏。
それなら、使わないときは、モニターや小物入れのそばに立て掛けるなどして、すっきりと置いておける。しかも、iPhone用も兼ねられるかもしれない。ノベルティになったときも、紙箱にもすっきり収まって管理しやすい――その利点は、次から次へと浮かんだ。
何より、「外形をなるべく低くすること」は、射出成形の金型サイズを浅くでき、さらに材料費も抑えられるため、製品コストを抑えるポイントとなる。
上のキーボードを参考に、基本的な寸法を決めてみた。また外形は一応、iPadとiPhoneが両方置けることを考慮した。
前回作った形状からは、だいぶ見かけが変わった。基本的な形状は、これでひとまずフィックスとした。外形寸法は、80×100×14mmとなった。
この時点で、参考までプロトラブズのFirstcut(切削加工)で見積もりしてみた。記者の勉強のための見積もりということもあり、この段階で加工性のことは深く考えていない。
こんな単純な形状なのに、またもや金額は、黒のABS製で2万3533円……。前回の形状からはだいぶコストが落ちてはいるが……。原因は、iPadを引っ掛けるための溝形状が、長く続いていることだった。要するに、これでは切削工具がうまく届かず、効率の悪い加工になってしまうのだ。
プロトラブズからもらったアドバイスを基に、さらにコストダウンを図った形状が、以下。
iPadを置く溝に切り欠きを入れただけで、1万626円(黒のABS)と半額以下になった。つまり、切削工具がきちんと届く形状にしたというわけだ。加工工程が少し頭にあるだけで、こんなに値段が変わってしまうなんて。
今回のようなシンプルな形状では、iPadやiPhoneの全機種に対応させるのは結構、厳しそうだ。よって今回対応するバージョンは、以下の最新のものに絞りこむことにした。
iPhoneについては、iPadと外形が異なることを利用して、以下のような溝形状とした。なお、最終的な溝寸法の検討についても、I氏に依頼した。
上で記者が作った基本モデルを、I氏が設計のプロの視点からブラッシュアップしていく。iPadやiPhoneのバランス、成形性までを考慮していただいた。記者だけでは、短期間でここまでたどり着くには困難を極めただろう。ありがとうテクノブレイン! ありがとうIさん!
外形寸法は、86×100×12.2mmとなった。
iPadなどの設置バランスについては簡易なモデルを製作した上、スタンドを小さくすることと、操作感について検討してくださった(以下の写真)。「実際のお客さまの案件でも、場合によってこのような確認をしています」(I氏)。
さて、I氏によるモデルをプロトラブズの射出成型サービス「Protomold」で見積もってみた結果が、以下だ。成形については、大きな問題はなかった。
ABS(黒)で、25個製作
※発注し15営業日後にサンプルパーツを出荷
さらに2案、少し雰囲気の違うデザインもいただいた。もし茶色で製作したら、お菓子のようでいいかもしれない。これらについても、見積もりを取ってみた。金型費用にはそれなりに差は出たが、25個製作した場合の単価は大きく変わらなかった。
B案は本採用した案よりも複雑に見えるが、金型費用が少し安くなっている。
ABS(黒)で、25個製作
※発注し15営業日後にサンプルパーツを出荷
ABS(黒)で、25個製作
※発注し15営業日後にサンプルパーツを出荷
なお、樹脂部品設計の基本については、プロトラブズのWebサイトにも詳しいガイドが掲載されている。適切な肉厚の検討や、ヒケやソリを防ぐための秘訣(ひけつ)などが書かれていて、特に設計ビギナーにとっては大変心強い(下記、関連リンク)。
関連リンク: | |
---|---|
⇒ | 樹脂部品設計ガイド(プロトラブズ) |
こんなに見積もりしまくっても、費用を取られることは一切ない。また、「見積もったからには、必ず注文しなくてはいけない」ということもないので安心だ。
最終的に製作することになったのは、こちら。さて、実物がどう仕上がってくるのか楽しみだ。
最近のテクノブレインでは、製品設計や加工の知識がない人からの相談が増えているという。プロトラブズと同様に、同社もそのような人たちからの相談もきちんと受け付けているとのこと。
ただし一番困るのが、依頼者がどういう形状や機能を求めているのか、具体的にはっきりしていない場合だという。逆に、それさえはっきりしていれば、同社側からもいろいろと提案することが可能で、設計作業はスムーズに進むとのことだ。プロトラブズに加工依頼をするにしても、同様な心掛けが必要だ。
また、I氏のようなベテラン設計者も、製品づくりにまつわる全ての技術に深く精通しているわけではない。例えば、加工技術のことなら、やはりプロトラブズなどの専門家に尋ねるのが一番だとI氏は話す。
最後に、専門家に協力を仰ぐ際に押さえるべき“鉄則”を紹介する。こうしてみると当り前なことばかりだが、不慣れな人がいざやってみると、抜けてしまうことが少なくないようだ。
「案件に合わせてケースバイケースにて対応しているため、大雑把でもかまいません。製品や部品が使用される目的や背景などをお聞かせいただくと、ご提案もしやすくなります」(I氏)。
プロトラブズのような便利なサービスが登場し、いまや「誰でもメーカーになれる」可能性がぐんと広がった。世の中には無償の3次元CADもあり、モノづくりの情報もWeb上にもあふれ、自力で頑張れることは多いかもしれないが、やはり大事なところでは専門家の力を上手に借りたいところだ。
見積もってみたい方は、ここからモデルデータをアップロードできます。
今回、この記事で設計したiPad/iPhoneスタンドを射出成形しました。ご応募いただいた方全員にプレゼントします。ご応募は、以下のリンクからどうぞ。
>>『MONOist記者と一緒に製作したiPad/iPhone 樹脂スタンド』プレゼント
※このスタンドでご利用いただけるスマートフォンは、カバーをしている、11〜13mm厚さのものを想定しています。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
提供:プロトラブズ合同会社
アイティメディア営業企画/制作:@IT MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2012年8月29日
MONOistの記者が、iPadスタンド作りにチャレンジ! Web上の加工・成形屋 プロトラブズの見積もりサービスで、自分が作ってみた、ちょっといいかげん(?)なモデルが切削加工でいくらになるのか試してみた。
MONOistの記者が、iPadスタンド作りにチャレンジするシリーズ。今回は、“本職の設計者”という素晴らしい助っ人をゲット! また今回もWeb上の加工・成形屋 プロトラブズの見積もりサービスを使いまくった。
今回は「一人家電メーカー」として注目を集めるビーサイズ 八木啓太氏が登場! 同社のLEDデスクライト「STROKE」や新製品でも、小ロット生産を力強くバックアップするプロトラブズのサービスが活躍していた。どんどん見積もりして部品のコストダウンや納期短縮をかなえるという、八木流プロトラブズ活用法とは? 八木氏の設計した製品の実際の見積もり詳細情報も公開!
今回は、MONOist「メカ設計フォーラム」でおなじみの「甚さん&良くん」コンビが登場! カッコイイ!? チャリティーグッズの設計にチャレンジだ。プロトラブズの見積もりサービスで樹脂部品設計を支援。