巨大なCAD図面をノートPCで操作するなんて机上の空論? そんな常識を覆す技術を武器に富士通が提供する「エンジニアリングクラウド」は、かなり「使える」仕上がりになっているようだ。
製品設計にいまや欠かせなくなりつつある3次元CAD。製品ライフサイクル管理において重要な位置を占める図面データだが、製図場面では、ソフトウェアの高機能化に追随してコンピュータにも高い性能が求められている。
例えば、100人の設計者に共通の最新CAD設計ツールを配布するためには、全員に最新の高性能ワークステーションを提供しなくてはならない。CPU性能はもちろん、GPUもそれなりの性能がなければ快適な作業はできないため、設計環境への投資は年々増える一方だ。
また、個別のワークステーションにアプリケーションをインストールしている場合では個々の環境の管理が煩雑で、バージョンアップの作業なども個々の作業者の負担となる。また、作業中のデータも個別の端末に格納されるため管理がし辛く、設計資産の管理を難しくしている。
そこで、昨今では、仮想デスクトップ環境を使った設計業務を検討する向きも少なくない。富士通が提供する「エンジニアリングクラウド」も仮想デスクトップ環境の1つといえるが、他の製品と決定的に違うのは、設計業務ならではの課題に、独自の技術で対応している点だ*。
* エンジニアリングクラウドの詳細は、設計・製造ソリューション展の会場で実際の動作や事例を確認できる。
一般的な仮想デスクトップ環境では、サーバ側に仮想クライアント環境を用意し、操作や処理結果の画面表示を、個々の端末に送信する。逆に端末側の操作情報をサーバ側に送信して処理を命令する。
3次元CADのように、ビジュアルな情報が多い場合、画面を端末に送信する際のデータ量次第では、通信速度がボトルネックとなる場合が少なくない。特にサーバと端末の距離が遠ければ、通信遅延は看過できないほど操作感に影響するものだ。
設計環境の管理や端末への投資コスト削減などを目的に、設計環境の仮想デスクトップ化を検討した際にはここがボトルネックになることが少なくない。
こうした課題を解決するため、富士通研究所が開発したのが、仮想デスクトップ向けの画面高速表示技術である「RVEC(レベック)」だ。
「CAD図面を操作する際、実際に作業者が注目して操作する部分は全体のごく一部であることが多い点を生かし、画面全体を都度転送するのではなく、動きがある部分だけを自動的に検出し、差分の動作のみを動画に変換して端末に転送します。画面全体を転送する場合と比べて使用する帯域を約50〜80%にできます」(富士通 民需ビジネス推進本部 PLMビジネスセンター デジタルエンジニアリング開発部 シニアマネージャー 吉田義史氏)
このRVEC技術を活用したサービスがエンジニアリングクラウドである。
エンジニアリングクラウドでは、端末管理の仕組みとしてEngineering Cloud Manager(ECM)というミドルウェアも提供する。ユーザーは自身のノートPCなどからこのECMにアクセスし、空いているリソースの中から自身が利用可能な端末を選択して利用できる。
このため、ユーザーと仮想クライアント、各種アプリケーションのライセンスは1対である必要はなく、同時接続ユーザーが100人中最大でも70人に抑えられる場合は、70の仮想クライアントを100人で共有することも可能だ。
各種データも、PDMを適用すればエンジニアリングクラウド環境側に一括して保管できる。PDMで保管されたデータは、おのおのの開発フェーズごとにアクセス権限も設定できるため、ワークフローに即して、必要なデータにのみアクセスできる環境を提供できる。
「例えばある部門内で検討中のデータは部門外の利用者からはアクセスできないように制限できますし、逆に、部門横断でレビューが必要なタイミングでは必要なレビュアの端末からのみアクセスさせることも可能です」(同)
この他にも、エンジニアリングクラウドの利用例は多岐にわたる。
例えば、海外の設計パートナーとの情報連携の場面では、エンジニアリングクラウド独自の機能であるデスクトップ画面の共有が効果的だ。語学が堪能でなくとも「This」と画面を指し示せば、実物の図面を見たり操作したりしながら、課題や情報を共有できる。
データ量の大きな3次元CAD図面を遠隔地の相手と共有するには非常に手間が掛かる。一般的には事前に図面を軽量フォーマットに変換したり、ファイルサーバにアップロードして共有するが、いずれも準備工数が掛かる上、その場で閲覧以上の操作が難しいケースが多かった。しかし、エンジニアリングクラウドを使って、アプリケーション操作画面をリアルタイムに共有できれば、工数が削減できる。さらに、端末側の処理は画面表示だけであることから、一般的なノートPCで操作可能だ。このため、例えば会議室に持ち込んだノートPC上で直接図面を操作しながら図面レビューすることも可能だ。
「デスクトップ画面の共有機能で実際に図面を共有すると、設計者同士は言語の壁を越えて理解できるものが多いようです」(同)
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以上で見てきたエンジニアリングクラウドの仕組みは、実際に富士通社内の開発業務に適用されているものだ。メーカー企業としての富士通自身が、実践してその成果を確認している点も、同製品の大きな強みとなろう。
この他にも、富士通以外のメーカーでの採用事例もいくつか出てきているという。本稿では紙幅の都合で紹介し切れないが、導入事例は6月20〜22日に東京ビッグサイトで開催される「第23回 設計・製造ソリューション展」で見ることができる。展示会場ではエンジニアリングクラウドの担当者が説明に当たる予定だという。
確実に求める情報を仕入れたい場合は、同社の「事前アポイントメントシステム」で会場の説明員の時間を押さえておくことをお勧めする。
設計・製造ソリューション展の富士通ブースでは富士通の各種ソリューションの他、エンジニアリングクラウドの活用事例も紹介する予定だ。本稿で紹介し切れなかった実際の利用事例や、具体的な導入方法などは、会場で担当者から説明を受けられる。出展概要は下記リンクで確認してほしい。
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提供:富士通株式会社
アイティメディア営業企画/制作:@IT MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2012年6月30日
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