「HPC」(High Performance Computing)が、もっと身近になってきた。大学や研究機関での学術研究だけでなく、製造業を中心とした一般企業の製品開発にもHPCが導入されつつある。それをかなえたのが、「PCクラスタ技術」だ。旬な技術を競合企業よりもいち早くチェックしよう!
「HPC」という言葉を聞いたことがあるだろうか? “High Performance Computing”(ハイパフォーマンス・コンピューティング)の略語、日本語に訳すと「高性能計算」になる。聞き慣れないという方も少なくないだろうが、「スーパーコンピュータ」といえば、「ああ、スパコンね」と誰もが納得することだろう。
一言でいえば、極めて高性能な処理能力を備えたコンピュータシステムのことだ。これまでHPCというと、大規模な国家プロジェクトや、大学や研究機関における高度な研究開発のために使われるもの、というイメージが強かった。そのためかつては、HPCはスーパーコンピュータとほぼ同義にとらえられることが多かった。
しかし、ここ数年でこうした状況が大きく変わりつつある。大学や研究機関の学術研究だけでなく、製造業を中心に一般企業の製品開発にもHPCが導入されつつあるのだ。だからといって、企業が何億円もするスーパーコンピュータをこぞって購入しているわけではない。その背景には、HPC分野における一大イノベーションがあったのである。それが、「PCクラスタ技術」だ。
ではPCクラスタとは、一体どのような技術なのだろうか? ごく簡単にいえば、「PCの能力を足し算する技術」とでも表現できよう。複数のPCサーバを高速ネットワークで接続し、大量の演算処理を分割し、それぞれのPCノード上で並列処理することで、全体としてはスーパーコンピュータ並みの高性能を実現しようというものだ。
しかし、もともとPCはそれ単体で独立した演算処理を行うためのものだ。複数台で並列処理を分散実行させるためには、PC内部のデータ転送バスや、ギガビット・イーサネットやInfiniBandといった高速ネットワークなど、さまざまな要素技術が必要だ。これらがここ数年間で実用化されたことによって、PCクラスタ技術は一気に花開くことになったのである。
PCクラスタのメリットは、何といってもそのコストパフォーマンスにある。世界最先端技術の粋を集めたスーパーコンピュータに比べ、個々の構成技術はPCベースなので、極めて安価にシステムを構成できる。しかも、スーパーコンピュータにも劣らない性能が実現できるのだから、投資効果は抜群である。
また、PCノードの数によってさまざまな規模のシステムを柔軟に構成できる点も大きなメリットだ。「単体のPCサーバやUNIXワークステーションでは性能不足だが、スーパーコンピュータほどの高性能は必要ない」といったニーズにも、柔軟に対応できる。そのため、これまでHPCとはあまり縁がないと思われてきた中堅企業でも、PCクラスタによって高性能なコンピューティング環境を導入することが可能になったのである。
このPCクラスタの分野で先頭を走っているのが富士通株式会社(以下、富士通)だ。HPC分野では国家プロジェクトの開発事業に参加し「スーパーコンピュータの雄」でもある同社は、PCクラスタによりHPCソリューションの裾野をより拡大する活動へも注力している。同社 プラットフォームビジネス推進本部 本部長代理 兼 PCクラスタビジネス推進室長の森下 健作氏は、次のように説明する。「富士通は、1980年代から世界最先端のベクトル型スーパーコンピュータを提供してきたが、2000年を前にしてその提供を終了した。また、UNIXシステムをベースにしたスカラ型スーパーコンピュータも提供しているが、これも現在ではほとんどといっていいほど提供していない。間もなく次世代スパコンの提供が開始されるが、それでもHPCソリューションの大部分は、PCクラスタによるものと考えている」。
実際に、これまでHPCとはあまり縁がなかったミドルレンジ・システムにおけるニーズが広がりを見せているという。同社 プラットフォームビジネス推進本部 PCクラスタビジネス推進室 営業支援グループ プロジェクト部長 浜崎 正昭氏は、こうした状況を次のように説明する。
「製造業の研究開発部門で、これまで単体のPCやワークステーション上で解析アプリケーションを動かしていた環境をPCクラスタ環境に集約するニーズが出てきている。解析処理が速くなり、製品開発に要する期間やコストを圧縮できるのはもちろんのこと、解析アプリケーションをPCクラスタの集約環境上で動作させるため、アプリケーションライセンスや設備の利用効率改善も期待できる」。
このように同社では、上はスーパーコンピュータクラスから、下はPCサーバ数ノードの規模まで、HPCのほぼすべてのレンジをPCクラスタ技術で提供しているという。
また業種別では、何といっても製造業におけるHPCの導入効果が大きく、すでにさまざまな企業でその効果が表れている。特に、近年導入が進むCAE(Computer Aided Engineering)を効果的に活用するには、HPCが不可欠だ。
CAEとは、コンピュータを使ったシミュレーションと解析処理によって設計業務の支援を行うものだ。代表的な例としては、自動車を設計する際の衝突実験が挙げられる。かつては試作車を製作し、実際に走らせて衝突させることを何度も繰り返すことでしか、設計に必要なデータを収集することができなかった。しかしCAEによるシミュレーションを導入すれば、実験回数を大幅に減らし、開発に要する時間とコストの削減が見込める。
しかし、正確なシミュレーションを行うには膨大な量の演算処理が必要になる。そのため、CAEの分野では早くからHPCが活用されてきた。そして当然、最新のPCクラスタ技術の導入がいち早く進んでいるのもこの領域だ。さらに昨今では、製造業以外の分野でもHPCを活用したシミュレーション技術が普及している。特に金融工学やバイオ工学における広がりがめざましい。
富士通では、製造業における各種の解析用途はもちろんのこと、こうした新しいニーズに対しても幅広くPCクラスタソリューションを提供している。(後編に続く)
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アイティメディア営業企画/制作:@IT MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2010年7月31日