なぜボルトは破断するのか? 金属疲労の話をしておこう:冴えない機械の救いかた(6)(4/4 ページ)
本連載「冴えない機械の救いかた」では、メカ設計の失敗事例を題材に、CAE解析や計測技術を用いて、不具合の発生メカニズムとその対策を解説していく。第6回は、現場で発生することの多いボルトの疲労破断をテーマに、その基礎となる金属疲労について説明する。疲労限度や破断面の見方、き裂停留の考え方などを整理しながら、なぜボルトが疲労破断しやすいのかを考える。
き裂停留 鉄鋼材料の場合
金属疲労は部品に小さなき裂ができて、それが成長して破断につながります。世の中の機械部品のうち、繰り返し荷重を受けても疲労破断に至らない部品は2種類に分類できます。1つ目は小さなき裂が発生しないもの、2つ目は小さなき裂が発生しても、その成長が止まっているものです。これを「き裂停留」といいます。ボルトなどは後者なのではないかと思っています。
ここで少し分かりづらい図を掲載します。原文の図をそのままコピペできないので作り直しました。図15に示します。
原著(参考文献[2])での題名は、「Fig.9. Fatigue strength and Kt for zero mean load. (1)Stress to propagate crack; (2)Stress to initiate crack; (3)Theoretical curve ±13 tons/sq.in. 'Kt; (4)Doted line represents nominal fatigue limit based on broken specimens.」です。ここでは「図15 き裂発生とき裂進展を判別する図」としました。
(1)は図15のσw2、(2)はσw1、(3)は点線、(4)のDoted lineは図示していません。図15は邦文の文献でもよく引用されているので、見たことがある読者もいると思います。
図15の横軸は応力集中係数です。外国では「Kt」で表記されます。縦軸は公称応力(応力集中成分を含まない応力、つまり「荷重/断面積」)の応力振幅です。
まず、図15のBに注目しましょう。応力集中係数αが1[-]ですね。つまり、応力集中が発生しない(切欠がない)試験片の疲労限度が180[MPa]ということです。
先に言っておきますが、応力集中係数αと切欠係数β(後述)は、一致する領域と一致せずβが一定値となる領域があります。図15のBからAまでの領域、つまり応力集中係数αが3[-]以下ではα=βとなります。
次にC点とD点に注目します。α=β=2[-]なので疲労限度は180/2=90[MPa]となります。C点は応力振幅が80[MPa]なので疲労破断せず、D点は応力振幅が100[MPa]なので疲労破断します。
続いて、σw1線とσw2線に囲まれた灰色の領域に注目してください。この領域にある部品には小さなき裂が発生していますが、き裂の進展が止まっているので疲労破断しません。
σw2線は疲労破断するかどうかの境界線です。G点はσw2線より上にあるので疲労破断します。ここで重要なのは、σw2線がαの大小にかかわらず一定値であることです。疲労破断するかどうかは応力振幅がσw2=62[MPa]より大きいか小さいかで決まり、この結果、βが一定値となるのです。
この章で一番言いたいことは、α>3[-]ではβが一定値になるということです。
σw1線は、小さなき裂が発生するかどうかの境界線です。F点はσw1線の上で、σw2線の下にあります。つまり小さなき裂は発生しているものの、その進展は止まっている(き裂が停留している)ので疲労破断しません。E点は小さなき裂も発生しません。
図15の点線は平滑材(α=1[-])の疲労限度をαで割った線で、σw1線の理論値と解釈できます。
A点は、「α=βとなるか」「βが一定値となるか」の境目です。原著(参考文献[2])ではA点のαは4.8[-]ですが、他の文献を参照すると3[-]であるデータが多いので数値を変えてあります。
参考文献[3]のデータを解釈すると、A点のαは試験片の引張強さによって変化し、σB=400[MPa]では2[-]くらい、σB=780[MPa]では3.5[-]くらいです。
き裂停留 オーステナイト系ステンレス鋼やアルミニウム合金の場合
結論を先に言っておくと、オーステナイト系ステンレス鋼やアルミニウム合金の場合はき裂停留がありません。
応力振幅と荷重回数をいろいろ変えて疲労試験を行い、ギリギリ破断しない応力振幅を測定してグラフにしたものがS-N曲線であると説明しました。
図16にS-N曲線の例を示します。横軸は繰り返し荷重回数、縦軸はそのときの応力振幅です。図16左図の鉄鋼材料の場合はS-N曲線が水平になるようなデータが得られます。水平ということは無限回の繰り返し荷重に耐えることを意味しています。
一方、図16右図のオーステナイト系ステンレス鋼やアルミニウム合金のS-N曲線では水平になりません。つまり疲労限度が現れません。107[cycles]程度の応力振幅は時間強度であり、これを疲労限度の代わりに使うことがあります。この時間強度には特別な名前は付いていないようです。
今回の連載では、鉄鋼材料の疲労限度とオーステナイト系ステンレス鋼やアルミニウム合金の時間強度をまとめて「疲労強度」と呼ぶことにします。
では、オーステナイト系ステンレス鋼やアルミニウム合金で疲労限度が現れない理由を説明しましょう。
これは論文で紹介されていた考え方なのですが、必ずしも定説というわけではありません。「こう考えるとうまく説明できた」というレベルでしょうか。
今、図17に示すように、き裂進行時にき裂表面へ酸化物ができたとします。
荷重の大小によって、き裂開口量は広がったり、狭まったりしながらき裂が進展します。ここで、き裂先端が酸化物で埋まってしまった場合を考えましょう。
酸化物で埋まっているので、き裂が狭まろうとしたときでも先端は開口した状態を保ちます。この結果、き裂先端に限っては開口と閉口の繰り返しがなくなり、き裂先端にダメージを与えられなくなります。その結果、き裂は進行しなくなります。
き裂停留の理由はいくつかあると思いますが、これもその理由の1つといえます。この結果、荷重の繰り返し数がいくら増えても疲労破断しなくなる、つまり疲労限度が出現するということになります。
鉄鋼材料では、このような酸化物によるき裂停留が疲労限度の発現要因の1つとして考えられています。酸化物ができるのは鉄鋼材料だけなので鉄鋼材料には疲労限度があり、オーステナイト系ステンレス鋼とアルミ合金は酸化物ができないのでこの種のき裂停留が発生せず、S-N曲線に水平部が現れないというのが筆者の解釈です。
今回はこの辺にしましょう。次回は応力集中係数αと切欠係数βをその定義から解説し、αとβの関係を別のグラフで説明してから、ボルト1本構成の許容繰り返し荷重を求めましょう。 (次回へ続く)
参考文献:
- [1]CAE設計演習問題作成WG|https://sites.google.com/g.ecc.u-tokyo.ac.jp/caewg/
- [2]N.E. FROST and D.S. DUGDALE|FATIGUE TESTS ON NOTCHED MILD STEEL PLATES WITH MEASUREMENTS OF FATIGUE CRACKS|Journal of the Mechanics and Physics Of Solids(1957)|Vol 5. pp. 182 to 192
- [3]石橋|金属の疲労と破壊の防止|養賢堂(1967)
Profile
高橋 良一(たかはし りょういち)
RTデザインラボ 代表
1961年生まれ。技術士(機械部門)、計算力学技術者 上級アナリスト、米MIT Francis Bitter Magnet Laboratory 元研究員。
構造・熱流体系のCAE専門家と機械設計者の両面を持つエンジニア。約40年間、大手電機メーカーにて医用画像診断装置(MRI装置)の電磁振動・騒音の解析、測定、低減設計、二次電池製造ラインの静音化、液晶パネル製造装置の設計、CTスキャナー用X線発生管の設計、超音波溶接機の振動解析と疲労寿命予測、超電導磁石の電磁振動に対する疲労強度評価、メカトロニクス機器の数値シミュレーションの実用化などに従事。現在RTデザインラボにて、受託CAE解析、設計者解析の導入コンサルティングを手掛けている。⇒ RTデザインラボ
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