現地化の壁 日本のリーダーに知ってほしい「挑戦する組織」の設計図:海外駐在員になったら知ってほしい「3つの壁」(3)(2/2 ページ)
多くの製造業が海外での成長を目指す中、海外駐在員の役割は重要になっています。しかし、日本と海外のギャップで力を発揮できない場合も多く見られます。本連載では、HR視点でどのような考え方が必要で、どのような協力体制を築くべきかをお伝えします。第3回となる今回は「現地化」に向けて、「挑戦する組織」をどう構築するかについて解説します。
日本的アプローチのわなと「働き方OS」の書き換え
前ページで紹介した4つのステップを進める際には、連載の第1回、第2回でお伝えした前提のズレを踏まえることが、失敗しない変革において重要です。なぜなら、日本人がインストールしている「働き方OS」と、現地スタッフの「働き方OS」は異なるからです。ここからは、「異文化コミュニケーションマップ(MAPS)」を用いて、海外で本当に機能する解決策をご紹介します。
方向性と共感は「察してくれない」ので「超具体的に伝える」
日本人マネジャーは、ビジョンを語った後、「あとはマネジャーである君たちが一枚岩になって、現場と対話して動いてくれ」と自律的な行動を期待する傾向があります。しかし、「コミュニケーション」の取り方がズレたままでは、組織は動きません。コミュニケーションは「高コンテクスト型(文脈への依存度が高い)」と「低コンテクスト型(言葉そのものが全て)」に分かれており、低コンテクスト型文化で、ビジョンだけ伝えても「十分な指示を与えられていない」と受け取られてしまいます。
組織を動かすためには、低コンテクストな言語で「権限とミッションの境界線を明示する契約」を結ぶことが大切です。「われわれの目的(Why)は○○。そして、この領域の実行手法(How)の決定権は、あなたの職務です」と明言してようやく彼らに当事者意識(共感と意思)が生まれます。
仕組みの整備を「インセンティブだけで終わらせない」
日本人マネジャーは、挑戦や部門間協働を促す際、「インセンティブを整えることが大切」と考える傾向があります。しかし「職務範囲の捉え方」がズレたままでは、組織は動きません。職務範囲は「アメーバ型(職務記述書が存在しない、もしくは曖昧)」と「テトリス型(職務記述書などで個人の役割を明確に示す)」に分かれています。テトリス型の文化で、インセンティブを提示されても「ブロック外の仕事」や「他部門への不当な干渉」と受け取られてしまいます。
組織を動かすためには、インセンティブに加えて、挑戦や協働というタスクを、「新しいブロックとして再定義する」ことが大切です。マネジャーが責任を持って各個人のブロックの境界線を引き直し、個別利益の交通整理をしてようやく彼らはその仕組みの中で100%の力を発揮するのです。
共創的コミュニケーションを「共通言語」で引き出す
日本人マネジャーは、共創的なコミュニケーションを取る際、「まずはみんなの意見を聞かせてほしい」と沈黙の姿勢を取る傾向があります。しかし、「会議スタイル」がズレたままでは、組織は動きません。会議スタイルは「ゴルフ型(調和を重んじる)」と「ラグビー型(積極的に議論に割って入り意見を戦わせる)」に分かれており、ラグビー型の文化において沈黙しても、「なぜ上司は何も言わないのか」と受け取られてしまいます。
組織を動かすためには、リーダーが「Our Style」という共通言語を宣言することが大切です。「ブレインストーミングの時間は、役職に関係なく遮って発言する(ラグビー型)」「最終決定は順番に意見を聞く(ゴルフ型)」と、その場のルールを明確に定義することでようやく健全な共創が生まれます。
技術のプロが「組織づくりのプロ」になる日
「挑戦する組織」を作ることは、多くの日本本社でも実現できていない根深い課題です。その課題に、異なる文化圏で向き合うこと自体、極めて難易度の高い取り組みだといえるでしょう。ですが、現状の構造的エラーを分析し、現地の「異文化というOS」に合わせて制度や職務定義、コミュニケーションルールを設計し直す「HR領域の技術」は生産現場や開発現場で、その道のプロとして活躍されてきた皆さまだからこそ必ず使いこなせるはずです。
次回は、最近相談をいただくことが多い「部門間連携の強化」の課題と対策について解説します。
筆者プロフィール
齋藤 友佑(さいとう ゆうすけ)氏
株式会社リンクアンドモチベーション
組織人事コンサルタント
横浜国立大学経営学部卒業後、新卒で株式会社リンクアンドモチベーション入社。組織人事コンサルタントとして、企業の人材開発や組織開発支援に従事。2018年、インタラック関東南 代表取締役に就任。公立学校にネイティブ英語教師を派遣する教育事業に従事し、1000人の外国籍人材をマネジメント。リンクジャパンキャリア代表取締役を務めたのちに、「外国籍人材と日本企業の良い関係性作り」を目指して、英語圏を中心とした人材紹介サービスを提供。
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