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学生が製造業を選ばなくなったワケ 「青田買い」から「青田創り」に発想の転換を製造業のシン・新卒採用戦略(1)

近年、学生たちから就職先としての製造業の人気が低下している。本連載ではその理由を解説し、日本の製造業が再び新卒学生から選ばれるために必要な「発想の転換」についてお伝えする。第1回は、製造業における新卒採用の現状と課題を見る。

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 かつて就職先として人気を誇った製造業が、近年、新卒学生から選ばれにくくなっている。なぜ今、学生たちの「製造業への支持」が低下傾向にあるのか。本連載ではその理由を解説し、日本の製造業が再び新卒学生から選ばれるために必要な「発想の転換」についてお伝えしていく。第1回では、製造業における新卒採用の現状と課題を見ていきたい。

製造業における新卒採用の現状

 「2022年版ものづくり白書」によると、製造業の就業者数は約20年間で157万人程度減少し、34歳以下の若年就業者数は約20年間で121万人程度減少している。

※参考:経済産業省・厚生労働省・文部科学省『2022年版 ものづくり白書 概要』

 このデータが表しているように、昨今の製造業各社は、人材の「質」だけでなく、「量」の確保すらままならない状況だ。日本で知らない人はいないほどの大手メーカーですら、新卒採用で苦戦を強いられている。

 特に、同じメーカーでも「IT系」の人材は充足している一方で、「電気/機械系」の枠が埋まらないという相談を受けたことは少なくない。電気/機械系は、まさにモノづくりの「心臓部分」。その人材が不足することは、製造業にとって大きな打撃になり得る。

製造業の採用活動の課題とは?

 ではなぜ、製造業に人材が集まらなくなったのだろうか。言うまでもなく、少子化に伴う若年者自体の減少は影響しているが、現場で多くの大学生/大学院生に関わる中で、要因は他にあると感じている。

 具体的な事例を1つあげよう。2023年、電気/機械系を専攻する学生向けの就活イベントを開催した。そこで、参加者に進路を聞いたところ、電気/機械系の職種を希望しているのは、100人中わずか20人程度だった。また、大手金融機関の就活イベントに機械系の大学院生が来ていたので、「製造業に進むつもりはないのですか?」と尋ねたところ、「やりがいや面白さが感じられない印象です。先輩からも、将来性がない業界だと聞いています」という答えが返ってきた。このように、大学で電気/機械系を専攻していても、就職では金融やコンサルティング、商社やITなど他の業界を選択する学生は珍しくない。

 電気/機械系に興味を持って大学に入った若者でも、いざ就職となると、モノづくりの世界を選ばない。筆者は、製造業全体が「業界や仕事の魅力を伝えられていないこと」が最大の要因であると考えている。

 近年、さまざまなメディアを通じて「ITは可能性にあふれている」「就職するならIT業界だ」という情報に触れることが多い。一方で、「電気/機械の未来は明るい」「製造業はこんなにもすごいんだ」という話を耳にすることはあるだろうか? 大学の教授は、学生たちに製造業の可能性を伝えているだろうか? 今まさに製造業で働いているあなたは、若い世代に仕事のやりがいを伝えているだろうか?

 製造業には魅力や将来性はあるのに、「知る機会」や「触れる機会」がない故に、結果として学生が就職先として製造業を選択しなくなっている――。このような「構造」を変えるためには、製造業と学生の「コミュニケーションの強化」が非常に重要だと感じている。

業界や仕事の魅力を伝えられていないのはなぜか?

 一方で、「コミュニケーションの強化」には、大きく2つの問題がある。1つが「伝える工夫」が不足していること、もう1つが「伝える機会」を失ったことである。

(1)魅力を「伝える工夫」が不足している

 企業と個人の関係は、縛り、縛られる「相互拘束関係」から、選び、選ばれる「相互選択関係」に変わった。このことは、製造業に限らず、あらゆる業界の企業が実感しているだろう。

 過去、理系学生は推薦制度で就職するのが一般的だった。よって、企業側は魅力を伝える努力をしなくても、人材を獲得することができていた。しかし、自由応募の一般化やトヨタ自動車が2022年に技術系採用の学校推薦を廃止したことを1つの契機に、風向きが変わりつつある。このように理系学生が就職活動の選択肢を広げるようになったことで、以下のようなことに気付いたのだ。

  • 他の業界にも、良さそうな会社が意外とたくさんあるんだな……
  • 理系学生って結構、幅広い業界の企業から人気があるんだな……
  • 製造業だと地方の工場勤務になる可能性があるけど、ITなら給料も良いし、都会で華やかなビジネスライフを送れそうだな……

 製造業はこれまで長く選ばれ続けてきた実績があるからこそ、「これからも選ばれ続けるだろう」と学生に魅力を伝えるための工夫や努力を十分にしてこなかったのではないだろうか。今になって、そのツケが回ってきたといえるだろう。

(2)魅力を「伝える機会」を失った

 ここ数年は特に、採用活動において製造業ならではの魅力を訴求するのが難しくなった。原因は、コロナ禍である。

 2020年以降、企業の採用活動も大きな影響を受け、説明会や面接をオンラインに切り替えた企業も多い。製造業にとっては、実際に「モノ」や「モノづくりの現場」を見せることが、何よりも効果的に魅力を伝える方法であるにもかかわらず、学生に製品や工場を直接見せられなくなってしまった。

 加えて、食事会や懇親会など、顔を合わせてざっくばらんなコミュニケーションを図ることもできなくなった。製造業は、伝統的にリクルーター制度を導入している企業が多い。リクルーターが出身大学や研究室に帰り、学生とコミュニケーションをとることで採用プロセスに参加してもらうのが通例だったが、コロナ禍ではそれもできなくなってしまった。製造業としては、ある意味「鉄板」ともいえる採用手法を封じられてしまったのが、ここ数年のコロナ禍だったと言えよう。

製造業が再び学生から選ばれるようになるために

 昨今はITなどのソフトウェア産業が伸びているが、元来、日本は「ハードウェア」が強い国である。筆者は、高品質なモノを軸にIoT(モノのインターネット)化を進めることが、日本の製造業の勝ち筋になると考えている。なぜなら、モノであれば、日本語という言語的な障壁を超えられるからだ。

 今後も、モノづくりの重要性は変わらないし、その可能性はますます広がっていくだろう。繰り返しになるが、製造業に人材が集まらないのは、決して製造業自体の魅力が失われたわけではなく、その魅力が学生に伝わっていないからである。いかに多くの学生に、製造業の魅力を伝えられるかが重要だ。ただし、大学の学部3年生や大学院の修士1年生になると、すでに製造業に対するイメージが固まっている学生も多い。だからこそ、採用活動とは一線を画して、業界や仕事の魅力を「知る機会」「触れる機会」を増やしていくことが、製造業全体の課題になるだろう。

 この課題を乗り越えるためには、これまでのような個社での短期的な「青田買い」ではなく、業界全体で長期的に連係する、まさに「青田創り」への転換が必要になってくる。次回以降、製造業の「青田創り」について詳しく解説していこう。

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筆者紹介

樫原洋平 株式会社リンクアンドモチベーション エグゼクティブディレクター
早稲田大学/同志社大学/大阪公立大学 非常勤講師
早稲田大学 モチベーションサイエンス研究所 招聘研究員
一般社団法人『エッジソン・マネジメント協会』代表理事

一橋大学経済学部卒業後、2003年にリンクアンドモチベーション入社。メガバンク、総合商社、グローバルメーカー、インフラ、ITなど多様な業界の採用コンサルティングに100社以上従事。また、大学教育事業を立ち上げ、産学連携での教育プログラムを開発、実行。早稲田大学/同志社大学などで非常勤講師を務める。2022年にパナソニックグループ、日立製作所、清水建設、京セラ、早稲田大学、同志社大学の産学から理事を迎え、一般社団法人『エッジソン・マネジメント協会』を立ち上げ。著書に『エッジソン・マネジメント』(PHP研究所)



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