防舷材不適切検査を30年続けた住友ゴム、南アのタイヤ生産不正は日本人駐在員が主導:品質不正問題(1/2 ページ)
住友ゴム工業は2021年7月に判明した品質管理に関わる不適切事案について、特別調査委員会からの調査報告書を受領した上で、今後の対応や関係者の処分などを決定したと発表した。また、品質保証体制を強化するため、同年12月15日付で社長直轄組織となる「品質保証部」を新設することも決めた。
住友ゴム工業は2021年11月9日、同年7月に判明した品質管理に関わる不適切事案について、特別調査委員会からの調査報告書を受領した上で、今後の対応や関係者の処分などを決定したと発表した。また、品質保証体制を強化するため、同年12月15日付で社長直轄組織となる「品質保証部」を新設することも決めた。
同社は2021年7月30日、加古川工場(兵庫県加古川市)で生産している港湾岸壁用のゴム防舷材の検査と南アフリカ子会社のおける新車装着用タイヤ生産の品質管理に関わる不適切事案を発表。防舷材、タイヤとも、事案判明後に安全性についての検証を行い問題のないことを確認し、同社 社長の山本悟氏を委員長とする緊急対策委員会を設置するなど対応を進めていたが、それぞれ外部弁護士を加えた特別調査委員会の社内調査により原因究明を行った上で再発防止策を策定するとしていた。
東洋ゴムのデータ偽装を契機に工場長が不適切検査を把握も形を変え継続
加古川工場では、船舶接岸時に起きる防舷材の圧縮状態を再現して圧縮性能を確認する試験において、国際航路協会の定めた試験方法などのガイドライン(PIANCガイドライン)とは異なる試験方法で実施したり、データの変更を行っていたりしていた。
弁護士の上原理子氏が委員長を務めた調査委員会の報告書によれば、加古川工場の不適切検査は30年以上前から行われてきたという。具体的には、防舷材の品質基準であるPIANCガイドラインに基づく圧縮試験で合格基準に達しなかった製品の一部について、検査データを改ざんした上で出荷し、顧客との契約条件を満たさない製品を納入していた。そして2018年以降は、データの改ざん行為を止める目的で、PINIACガイドラインに定める試験方法を拡大解釈し、独自の試験方法によって合格させた製品を出荷して顧客に納入していた。
加古川工場の技術者は、防舷材としての性能を満足することには疑いを持たなかったもののデータ改ざんへの罪悪感やコンプライアンス違反への認識があり、各担当者や、加古川工場を管轄するハイブリッド事業本部でも製品の品質や検査方法の改善に向けて取り組みが何度も行われたが、今回事態が判明するまで不適切検査の事実が住友ゴム工業本社に報告されることはなかった。
例えば、2015年3月に東洋ゴム工業による免震ゴムのデータ偽装が発覚した際に、当時の加古川工場長が品質管理課長に同様の問題がないかを確認したところ防舷材のデータ改ざんの事実を告げられた。2018年ごろから同工場長が改善活動を進めたものの、PIANCガイドラインと異なる圧縮試験の方法に変更するという対応にとどまり、不適切検査は継続された。
なお、調査委員会は、防舷材の品質基準であるPIANCガイドラインにはJIS規格のような法的拘束力がなく、不適切検査はPIANCガイドラインを満たすことを求める顧客との個別契約違反に当たるとした。その一方で、顧客の仕様に定めた品質・性能を欠く製品を納入する行為は民法に基づく債務不履行責任や契約不適合責任が問われ、カタログの性能値を偽っていたとすれば不正競争防止法違反の問題(虚偽表示罪)にも当たり得るという。
防舷材の不適切検査の背景について「営業活動が必ずしも現場の声を反映させたものとはなっていないこと」「業績・コストの重視」「加古川工場、防舷材ビジネスチームの体質」「本社と加古川工場との隔たり」の4点を挙げた。
その上で、技術・製造現場の実態を反映させた営業活動を可能とするための「受注プロセスにおける営業と技術の連携」、本社の支援強化によって隔たりを解消するための「技術力の強化・支援体制」、過度な業績・コスト重視による不適切処理を防止する品質保証機能の強化を目指す「品質管理・品質保証体制の強化」、加古川工場の閉鎖的な体質や雰囲気の打破を狙った「職場活性化のための人事異動の実施」などの再発防止策を提言している。
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