リーダーシップの壁【後編】 日本と海外の3つのズレにどう対応するべきか:海外駐在員になったら知ってほしい「3つの壁」(2)(2/2 ページ)
多くの製造業が海外での成長を目指す中、海外駐在員の役割は重要になっていますが、思った力を発揮できない場合も多く見られます。本連載では、HR視点でどのような考え方が必要で、どのような協力体制を築くべきかをお伝えします。第2回となる今回は第1回で紹介した「リーダーシップの壁」における3つのズレにどう対応すべきかについてお伝えします。
2. コミュニケーションのズレへの対策:「プロトコル」を決める
2つ目のズレとして、「低コンテクスト型」と「高コンテクスト型」というコミュニケーションのズレがあることを紹介しました。前提の常識が異なる海外拠点においては、高コンテクストを標準にすることは、トラブルの原因となります。安全管理や品質管理において曖昧さが許されないのと同じように、チームの公式なコミュニケーションは「低コンテクスト(言葉にしたことが全て)」を「Our Style」とする方が賢明です。
具体的には、メールや指示出しにおいて「結、承、結(結論、根拠、結論)」の論理構成を徹底することや、「分かったふり」を禁止し、自分の理解が正しいかを口に出して確認することをチームのルールとして定着させます。これは決して「冷たい対応」ではなく、「ミスを防ぐためのプロトコル」だと説明すれば、必ず理解は得られます。
3. 責任範囲のズレへの対策:期待する役割の「仕様書」を作る
3つ目のズレとして、責任範囲のズレについて説明し、日本は職務記述書が存在しない「アメーバ型」、海外は厳密に職務範囲が規定される「テトリス型」であることを紹介しました。
「アメーバ型」を期待する日本人リーダーと、「テトリス型」が心地よいと感じる現地スタッフとのギャップを埋めるには、期待値を「仕様書」として明示することが不可欠です。
もしリーダーであるあなたが、チームに柔軟な助け合いを求めるならば、暗黙の前提ではなく、「期待値」として低コンテクスト型で説明する必要があります。例えば、「このプロジェクトでは、職務記述書の範囲外であっても、トラブル対応は全員で協力することを『評価対象』とする」と明確に「Our Style」を定めるなどの対応が考えられます。
逆に、職務記述書にない業務を頼む際は、その必要性や戦略的な背景を説明し、納得を得るプロセスが欠かせません。「察してほしい」といった曖昧なコミュニケーションではなく、「ここまでは個人の責任」「ここからはチームの責任」という境界線をリーダーが引くことが、信頼構築に向けた第一歩になります。
マネジメントは「センス」ではなく「技術」
ここまで見てきたように、海外に赴任するということは、これまでの日本での前提が通じない部分が必ず出てきます。
それに対し「自分にはカリスマ性がない」「あうんの呼吸が通じない相手は苦手だ」というようにネガティブな感情を抱いたり、不必要に苦手意識を強めたりする必要はないのです。ギャップがあって当たり前で、それは個人の資質のみによるものではないからです。
今回紹介したアプローチは、本質的には皆さまが普段の実務で行っていることと全く同じだといえます。
例えば、生産現場であれば、ばらつきのある部品を勘や度胸で組み立てたりはしないはずです。「公差」を定義し、「標準作業手順書」を作成し、品質を安定させるはずです。開発であれば、異なる技術要素を組み合わせる際、必ず「インタフェース」の仕様を明確に定義し、システム全体が正しく稼働するように設計するはずです。また、営業であれば、顧客という不確実性の高い相手に対して、事前準備をせずに挑むのではなく、事前にニーズを分析し、論理的な提案シナリオを構築するでしょう。
海外拠点でのマネジメントも、これらと同じ「技術」です。個人の性格やセンスに頼るのではなく、客観性を持って状況を捉えた上で、「Our Style」という標準仕様書を設計し、その仕様通りにチームが動くように運用します。
これは、読者の皆さまが最も得意とするアプローチのはずです。日本で培った高い専門性に加え、この「異文化対応の技術」が加わった時、皆さまのリーダーシップは一段上のレベルへと引き上げられ、グローバルにおける日本企業の価値向上につながることでしょう。
次回は、現地法人を成長させる組織づくりのポイントについて解説します。
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筆者プロフィール
齋藤 友佑(さいとう ゆうすけ)氏
株式会社リンクアンドモチベーション
組織人事コンサルタント
横浜国立大学経営学部卒業後、新卒で株式会社リンクアンドモチベーション入社。組織人事コンサルタントとして、企業の人材開発や組織開発支援に従事。2018年、インタラック関東南 代表取締役に就任。公立学校にネイティブ英語教師を派遣する教育事業に従事し、1000人の外国籍人材をマネジメント。リンクジャパンキャリア代表取締役を務めたのちに、「外国籍人材と日本企業の良い関係性作り」を目指して、英語圏を中心とした人材紹介サービスを提供。
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