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「工場立地」面から見たアジア各国の特性と課題いまさら聞けない「工場立地」入門(2)(1/3 ページ)

長年生産管理を追求してきた筆者が、海外展開における「工場立地」の基準について解説する本連載。2回目となる今回は、工場を立地するという観点で見た場合のアジア各国が抱える特性と課題について解説する。

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 海外展開における「工場立地」の基準について解説する本連載。前回の「生産の海外展開に成功するカギ――工場立地を成功させる20の基準とは?」では、工場立地において、考えなければならない基準があるということを紹介した。2回目となる今回は、工場を立地するという観点で見た場合のアジア各国が抱える特性と課題について解説する。


ASEAN地域の工業化

 工場立地の話の前に、ASEAN各国の工業化の歴史や現状について簡単に振り返っておこう。

 ASEAN地域の工業化は、1965年にマレーシアから分離独立したシンガポールで1970年代に始まった。同国の成功は、リー・クアンユー首相が真っ先に取り組んだ賄賂根絶が大きく貢献している。公務員に高給を払う代わりに賄賂には厳罰を課すというものだ。ところが、金融業がけん引する経済躍進が起こり、人件費や物価の上昇、製造業の空洞化を招いた。政府は豊富な資金を使ってハイテク産業誘致や、国内育成に力を注ぐようになった(関連記事:国境を越えて通勤するマレーシアの人々)。

 やや遅れてマレーシアも工業化が始まった。先鞭をつけたのは、米国半導体メーカーだ。黎明期の半導体は、手作業でワイヤー・ボンディングをしていたが、価格競争の激化に耐えきれず、人件費が安いマレーシアに後工程を移したのだ。一方、日本企業はボンディングの機械化でコストを下げ、国内生産を維持した。その代わり、パナソニックを筆頭に家電産業が進出し、同国に家電・半導体産業が集積した。1981年に首相に就任したマハティールは、日本に学ぶ「ルック・イースト」政策を掲げ、三菱自動車と提携して国策会社プロトンを立ち上げ、機械産業の育成を図った(関連記事:チャイナプラスワン戦略におけるインドネシアとマレーシアの「チャンスとリスク」)。

 タイは、2001年から急成長する。「タイをアジアのデトロイトにする」と宣言したタクシンが政権を獲得し、同国の自動車生産は大きく増加した。2013年は、政治混乱で販売が急減したが、それでも、過去最高の販売台数を記録した。年産245万台レベルを2年連続達成し国別の生産台数では世界第10位となる。その半分近くを輸出しているという。生産台数は、日系7社が9割を占めていると言われ、自動車を頂点とする部品サプライチェーンのピラミッドが出来上がっている。さらに自動車だけでなく、部品輸出も活発に行われている(関連記事:チャイナプラスワン戦略におけるタイ、変化の兆しが)。

 ベトナム政府は、1986年に外資を導入して経済発展を目指す「ドイモイ」政策を開始した。しかし当時は、沿岸部の経済特区で素早く受け入れ体制を整えた中国に工場進出が集中し、インフラが脆弱なベトナムは見向きもされなかった。日本企業が造成した工業団地もアジア通貨危機で入居が停滞した。この風向きが変わったのは、2005年の中国のデモ騒ぎから始まるチャイナリスクの高まりだ。危機感を抱いた企業の進出が始まり、その後、中国での相次ぐ反日暴動、人件費高騰、環境汚染によって進出ラッシュになった。日系企業の進出は加速しているものの、ベトナムで圧倒的な存在感を示しているのは韓国企業だ。韓流ドラマ、K-POPが溢れ、縫製、製靴、電子産業で大型投資が相次ぐ。しかし、進出企業は、逃げ足が早い労働集約企業が大半となっている。裾野の広い自動車産業が発達する見通しが立たないというのが今のベトナムの弱点であるといえるかもしれない(関連記事:タイプラスワン戦略におけるベトナム、職住近接の豊富な労働力はリスクを覆うか)。

 インドシナ半島5カ国は高速道路(図1)で接続され、中国に劣らない物流ネットワークが出来上がった。さらに、インドと日本は、バングラデシュ、ミャンマー経由で大メコン圏と接続する高速道路網を計画しており、JICA(国際協力機構)が予備調査を始めたという。

図1
図1:タイを中心に広がる大メコン圏の状況(出典:三菱東京UFJ銀行 タイ月報)(クリックで拡大)

 1992年にASEANは自由貿易協定(AFTA)を締結し、10カ国、6億人の巨大経済圏が動き出した。先行6カ国は2010年、後から入る4カ国も2015年にほぼ全ての関税を撤廃する。大メコン圏だけでない。天然資源に恵まれたインドネシア、高等教育が充実し、人材豊富なフィリピンも工業化が急速に進んでいる。日本企業は、中国から親日国の多いASEANに本格的に軸足を移し始めたといってよいだろう。

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