タイプラスワン戦略におけるミャンマー、“期待先行”はチャンスかリスクか!?:知っておきたいASEAN事情(18)(1/2 ページ)
ASEAN内の製造拠点に「タイプラスワン」の動きが高まる中、外資系企業の進出が加速するミャンマーは新たな選択肢となり得るのか。ASEAN事情に詳しい筆者が解説する。
製造業にとって役立つASEANの現状を紹介してきた連載「知っておきたいASEAN事情」ですが、第14回から、「タイプラスワン(Thai Plus One)」をテーマに、タイからの移転先として注目を集めているASEAN各国の状況をお伝えしています。
タイプラスワン戦略とは、ASEANの中心基地であるタイだけで事業を完結させることが人件費高騰や政情不安などでリスクになりつつあるため、タイ以外の拠点を設けようという動きや戦略のことです。今回は、過去にも取り上げたミャンマーを、今度は「タイプラスワン」の観点から取り上げます(関連記事:繊維産業の進出が進む親日国ミャンマー、国内消費の動向は?)。
前回ミャンマーを取り上げたのが2012年9月です。早いもので1年半近くが経過したことになります。この1年半ミャンマーでは何が起きたのでしょう。ミャンマーの最近の変化で、外国企業に関わりの深い項目といえば、「改正経済特区法(SEZ法)」と「ヤンゴン市内不動産の高騰」の2つになるのではないでしょうか。
改正経済特区法(SEZ法)の制定
SEZ法は、経済特区に進出する外国企業に対する優遇措置を定めるものです。2014年度末までに具体的な実施細則などは策定される予定ですが、想定される主な改正点には以下の点があるといわれています。
- 法人税免除期間が最長5年から最長7年へ延長
- 免税期間終了後も最長10年間50%減税
- 土地利用権も最低30年から50年へ延長
- 特区内で製造した製品の輸出可能(従来は外国企業の貿易業は原則禁止)
- 必要な部品の海外調達が可能(従来は外国企業の貿易業は原則禁止)
- 進出後3年以内に熟練工のミャンマー人比率を75%に引き上げ(従来は15年以内)
ちなみに経済特区とは、三菱商事・丸紅・住友商事の日系3社が進めるヤンゴン近郊のティラワ、タイとの国境に近いダウェー、中国政府肝いりの西部チャオピューの3カ所です。
ヤンゴン市内不動産の高騰
海外企業の直接投資が進むヤンゴンでは、外国企業や外国人向けの不動産開発が活況を呈しています。2011年の民主化以降、外国企業を中心とした需要が急増していますが、インターネットインフラなどが整備されたビルの数はかなり限られており、需要と供給のバランスが大きく崩れています。その結果、外国企業向けオフィス、外国人向けのコンドミニアムの賃貸価格が急騰しています。現在ヤンゴン市内では、至るところで不動産開発が進行していますが、今後も慢性的な供給不足を解消するめどは立っていないようです。
ちなみに現在、ASEAN諸国の中でオフィス賃料が最も高いのはシンガポールです。ヤンゴンは、なんとそれに次ぐ2番目の高さだといいます。ヤンゴンのオフィス賃貸相場は、この1年で2倍に上昇したとされ、ASEANの中での先進国であるタイやインドネシアの首都であるバンコク、ジャカルタの4〜5倍の高値となっています。
また、近い将来に解禁されると予想されるのが外国人の不動産所有です。ただし、タイなどと同様に、土地の所有は認められず、一定価格以上のコンドミニアムが対象となるようです。これにより、海外からの資金を流入させ、不動産開発に一層のスピードを出させることが目的でしょう。
こうした社会の急速な変化に敏感に反応し、虎視眈々と金もうけを狙っているのは、タイ、インド、中国をはじめとした近隣諸国の人々です。現実には、既にヤンゴン市内の多くの不動産物件が、ミャンマー人の名義を借りて、こうした外国人に所有されているといわれています。また、開発が進むティラワ工業団地周辺の土地も、同じような現象が起きているようです。日本政府のODA援助、日本企業の投資が、結果として、ミャンマー人ではなく、こうした外国人の懐を潤すことになりそうです。なかなか日本人にはまねのできないしたたかさを感じます。
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