【最終回】流体振動と金属疲労のお話:CAE解析とExcelを使いながら冷却系設計を自分でやってみる(20)(3/3 ページ)
CAE解析とExcelを使いながら冷却系の設計を“自分でやってみる/できるようになる”ことを目指す連載。最終回となる連載第20回では、流体振動と金属疲労の話題を取り上げて連載を締めくくる。
では、Rを付けた鞘で応力解析をしましょう。図9です。
公称応力が26[MPa]なので、応力集中係数は1.11[-]です。図6のS-N線図を図10に再掲します。
ここでも百歩譲って、α=2[-]のS-N曲線(黄色の線)を使いましょう。横軸が対数グラフであることに注目します。
黄色の線では、応力振幅が60[MPa]のときの寿命は、1012[cycles]をはるかに超えるというか半永久的のように見えます。仮に、寿命が1012[cycles]として、250[Hz]だと129年ですね。原子力発電所の想定寿命よりも多分長いと思います。
後に公表された報告資料では、弾塑性解析をして「ひずみ集中係数」を求めて、ひずみ集中係数の表面から1結晶粒までの領域の平均値を切欠係数βの代りとしていますが、ひずみ集中係数の平均値は約3[-]とのことです。
図10のα=4[-]、1012[cycles]のときの応力振幅は60[MPa]、一方、応力集中なし、つまりα=1[-]、1012[cycles]のときの応力振幅は約200[MPa]ですね。200÷60はというと約3[-]で、前述した切欠係数βの代りと近い値です。
この発電所の建設費用は約5000億円といわれています。そして、事故を起こしたときから今までの維持管理費はいくらでしょうか。解体して、更地に戻すのに一体いくらかかるのでしょうか。
「当時200円くらいで買えたテンプレートをケチったために5000億円損した」などとの極端な発言はしませんが、疲労強度計算の重要性と、それらを未然に防止する先人の知恵をご理解いただければ幸いです。
これで、「CAE解析とExcelを使いながら冷却系設計を自分でやってみる」シリーズは終わりです。ここまで読んでいただきありがとうございました。
参考文献:
- [1]日本機械学会|機械工学便覧 A3 力学・機械力学(1990)
- [2]日本溶接協会|原子力機器用ステンレス鋼の疲労強度評価研究(2015)
Profile
高橋 良一(たかはし りょういち)
RTデザインラボ 代表
1961年生まれ。技術士(機械部門)、計算力学技術者 上級アナリスト、米MIT Francis Bitter Magnet Laboratory 元研究員。
構造・熱流体系のCAE専門家と機械設計者の両面を持つエンジニア。約40年間、大手電機メーカーにて医用画像診断装置(MRI装置)の電磁振動・騒音の解析、測定、低減設計、二次電池製造ラインの静音化、液晶パネル製造装置の設計、CTスキャナー用X線発生管の設計、超音波溶接機の振動解析と疲労寿命予測、超電導磁石の電磁振動に対する疲労強度評価、メカトロニクス機器の数値シミュレーションの実用化などに従事。現在RTデザインラボにて、受託CAE解析、設計者解析の導入コンサルティングを手掛けている。⇒ RTデザインラボ
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