【最終回】流体振動と金属疲労のお話:CAE解析とExcelを使いながら冷却系設計を自分でやってみる(20)(2/3 ページ)
CAE解析とExcelを使いながら冷却系の設計を“自分でやってみる/できるようになる”ことを目指す連載。最終回となる連載第20回では、流体振動と金属疲労の話題を取り上げて連載を締めくくる。
では、疲労破断に至るまでの荷重回数を推定しましょう。発表によると、
- 1995年2月 原子炉出力を段階的に上げる試運転を開始
- 1995年12月8日19時47分 2次冷却系配管からナトリウムが漏えい
とあるので、運転期間は10カ月となりますが、振動していた期間はその3分の1とします。
鞘の振動数は、直径10[mm]程度の金属製の棒の曲げ振動なので、数百Hzでしょうか。ここでは、250[Hz]としましょう。荷重回数は、約2.2×109[cycles]と見積もられます。
鞘の製作図面はかたくなに公開されていませんが、筆者は見ています。2次冷却系を製作したエンジニアリング会社の図面庫に忍び込んで見たわけではなく、金曜日か日曜日に放映していたNHKの特集番組で数秒間ほど映されました。
公開されている情報と、そのときの記憶から鞘をモデリングして応力を求めました。図5となります。筆者は、Rの図面指示はなかったように記憶しております。後の公開資料でもここに角Rが存在しているような絵はありません。事故調査資料ではR0.4[mm]で解析したとか、R0.1[mm]で解析したとか書いてあります。ポイントは以下です。
旋盤加工なので図面指示していないRの大きさはバイトの刃先半径で決まる。
学生時代に、NC旋盤のプログラミングをしているので、鞘の製作当時はNC旋盤を使って自由なR寸法で製作できたと推測しております。百歩譲って、R0.5[mm]でモデリングしました。今回の記事は批判めいた内容なので、「百歩譲って」は「やさしく見積もって」という意味です。
荷重値は分からないので、ここでは応力集中係数だけを求めます。式1の分母は、はりの曲げ理論から計算できるので、これと図5の最大応力との比が応力集中係数αとなり、αは約4[-]となりました。
鞘はオーステナイト系ステンレス鋼と推測されるので、その疲労強度のデータがあります。図6に、SUS316材のS-N曲線(参考文献[2])を示します。参考文献[2]は、荷重回数が107[cycles]までのカーブフィット式ですが、1012[cycles]まで延長してあります。
図6のデータは、試験片に図7のような切欠を設けて、試験片に応力集中が発生する状態での疲労強度です。
図6から、応力集中係数αが4[-]で、荷重回数が2.2×109[cycles]のときの公称応力での応力振幅が求まり、約60[MPa]と推測されます。
ここまで書いていると、これが株主代表訴訟とか利権が絡む案件だったら、夜道で怖いお兄さんに「余計なことはほどほどに」とのご助言をいただくことになるのですが、今回は怖いお兄さんは来ないと思うので続けます。
筆者が社会人を始めたころは、2D CADも3D CADも実用レベルではなかったので、ドラフターで図面を描いていました。今回の鞘の場合は、図8のような作図手順です。旋盤加工品なので横に倒し、右側が細くなるようなレイアウトで描きます。
円テンプレートで角Rを描くところがポイントですね。これを忘れると指導員による検図時に「良ちゃん。R忘れているよ」との指摘で、Rを追加することになります。こういうところにRを付けるのは先人の知恵といえます。設計現場では発生する現象が難し過ぎて、予測できないことに常に遭遇するのですが、このような知恵である程度防ぐことができます。
今回の振動も、事前に予測することはかなりの専門性が必要だと思います。
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