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【最終回】流体振動と金属疲労のお話CAE解析とExcelを使いながら冷却系設計を自分でやってみる(20)(1/3 ページ)

CAE解析とExcelを使いながら冷却系の設計を“自分でやってみる/できるようになる”ことを目指す連載。最終回となる連載第20回では、流体振動と金属疲労の話題を取り上げて連載を締めくくる。

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 いよいよ最終回です。最後に、流体振動と金属疲労のお話をします。

あの日見た鞘の図面を僕達はまだ知らない。

 「あの花」「あの雪」といえば、「あの鞘」ですね。1つ目と2つ目は検索してみてください。

 鞘は「タコ」のように読めそうですが、「さや」と読みます。一般的に“刀の鞘”をイメージされるかと思いますが、今回取り上げる「さや」は温度計の熱電対のカバー(シース)のことです。

 液体ナトリウムで冷却する原子炉で1995年12月にナトリウム漏れ事故が発生し、そのまま現在に至るまで原子炉は動いていません。図1に液体ナトリウムが流れるパイプと温度計、そしてナトリウム漏れの原因となった鞘の疲労破断箇所を示します。

 先に言っておきますが、この記事の情報源はテレビ報道、ネット情報(事故報告書)、日本機械学会の文献だけです。今回は、これらの公開情報をベースに、筆者なりに見直しをしてみることにします。

液体ナトリウムが流れるパイプと温度計、疲労破断箇所
図1 液体ナトリウムが流れるパイプと温度計、疲労破断箇所[クリックで拡大]

 原因は、カルマン渦の発生による繰り返し荷重と公表されています。カルマン渦は日常でも体験できる現象で、例えば釣り竿や棒を水に沈めて動かすとブルブルブルっと感じる振動です。連載第16回で紹介しましたね。

 図2にカルマン渦の例を示します。

カルマン渦の例
図2 カルマン渦の例[クリックで拡大]

 温度計の鞘の金属疲労の破断面を観察すると、「ストライエーション」と呼ばれる縞模様ができており、縞の直角方向がき裂の進展方向、つまり荷重方向となります。

 これを見ると、荷重方向は流れの方向だったそうです。図2の場合だと、荷重方向は流れと直角方向になるので、図2のカルマン渦は疲労破断の原因ではないようです。

 この原子炉の場合のカルマン渦は特殊なもので、図3のように上下対称の渦となり、この渦が「発生→剥離→下流へ移動→新規に発生」を繰り返すもののようです。やはり、カルマン渦とは呼べないように思います。

対称な渦の例
図3 対称な渦の例[クリックで拡大]

 図4に、流れの中にある円柱を示します。円柱がしっかりと固定されていれば、つまり、ばね定数がKp→∞、Kv→∞のときは、図2のようなカルマン渦ができます。

流れの中にある円柱
図4 流れの中にある円柱[クリックで拡大]

 円柱が弾性変形するとすれば、上下(流れと直角方向)に振動します。円柱がばね支持されているような場合は、図2のようにもなれば、図3のようにもなります(参考文献[1])。つまり、図3のような渦は、円柱がばね支持されているときだけ発生し、円柱は流れの方向に振動したり、流れと直角方向に振動したりします。

 自励振動の一種ですが、円柱を質量(マス)と考えて、ばね−マス系の固有振動数をfc[Hz]とし、流体側の渦の発生振動数をff[Hz]とすれば、両者がピタリと一致するといったアンラッキーな状態で振動するだけでなく、2つの振動数が2割、3割離れていても、流体側がばね−マス系の固有振動数にあわせて自励振動します。これは「ロックイン」と呼ばれる現象です。

 そして、円柱がしっかりと固定されていても、円柱(温度計の鞘ですね)が弾性変形する場合も、鞘が流れの方向に曲げ振動をして、同時に流体にはその振動数で渦が発生します。鞘が流れ方向に振動したか、流れと直角方向に振動したかは、疲労破断面を観察すれば分かり、前述したように今回の原子力発電所の場合、鞘が流れ方向に振動し、曲げ応力で疲労破断したことが分かっています。

 なお、図2図3は説明のために作った絵であって、実際の運転条件ではないことを記しておきます。

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