なぜ業界固有業務でのAI活用がうまくいかないのか、重要な「文脈」の存在:製造マネジメント インタビュー(2/2 ページ)
業界固有業務ではAI活用の適用に苦しむ企業が多いが、その中で業界特化型AIエージェントの展開を発表したインフォアはどのような勝算を描いているのだろうか。インフォアジャパン ソリューションコンサルティング本部長の佐藤幸樹氏に話を聞いた。
業界ごとに細分化されたAIエージェントを展開
こうした強みを生かして、新たに展開するのが業界特化型AIエージェントだ。新たにリリースした「Infor Industry AI Agents」は、製造業、流通業、サービス業向けに構築された業界特化型および役割ベースのAIエージェントで、業務内容に合わせてAIによる業務支援を行う。
インフォアが展開してきた業界特化型ERP(Enterprise Resource Planning)システムなどの実績を生かし、業界の専門知識と、包括的なデータと統合されたシステムを組み合わせてソリューションとして提供する。これらの統合データとAI関連技術を生かし、業界特化型のAIエージェントを構築し、業務プロセスの削減や代替に貢献する。
佐藤氏は「業界特化型ERPを展開してきたからこそ、業界用データモデル、業務プロセス、バリューマップを標準化することができ、AIを活用して何をすればビジネス価値が出せるのかを定義できる。ビジネスにおける文脈を正しく理解し、ハルシネーションを抑えた正しい回答が出せる。業界カタログ、バリューマップ、プロセスを組み合わせてAIエージェントを構築する」と考えを述べる。
ただ、AIエージェントといっても、現在はプロセスの中でAIを活用して自動化ができる単位ごとに細分化されたAIエージェントを数多く構築している段階だ。「例えば、『請求書処理エージェント』や『支払処理エージェント』『売掛金勘定エージェント』『在庫管理エージェント』『作業指示エージェント』など、それぞれの業務プロセスの中でもさらに細かく分けたAIエージェントの構築を業界ごとに増やしているところだ」(佐藤氏)。
AIエージェントを活用することで、既にいくつかの成功事例なども生まれている。ドイツのフォークリフトメーカーであるCombiliftでは、アフターサービス部門でAIエージェントを活用し、訪問対応修理成功率が30%以上向上したという。出荷されたフォークリフトのカスタマイズデータと、出荷先からの故障状況などのデータを組み合わせて分析し、AIエージェントが修理プロセスを提案することで、サービスマンの対応率を高めることができたという。
AIエージェント活用に必要な3つのステップ
ただ、AIエージェントを活用し成果を得るにも押さえておくべきポイントがある。佐藤氏は業務におけるAI活用について3つのステップで進めることを訴える。
「組織業務においてAI活用で成果を出すためには、いきなりAIを活用するのではなくプロセスを見直すところから入ることが必要だ。最初にプロセスマイニングなどで標準的な工程と比較してボトルネックとなる非効率部分を見つける。次に、自動化を進め、手作業の排除やプロセスの合理化を行う。そして、効率化されたプロセスをAIエージェントを使って全面的に代替したり、生成AIを組み込んだりしていく。そういうステップが重要だ」と語る。
また、人の業務とAIとの関係性について佐藤氏は「業務によっては人の確認が必要な部分は残り続ける。現状では定型的でミスがあっても問題のない領域からAIエージェントを活用していくことになる。ただ、任せて問題のないところも増えてくるので、どう業務を再構築していくかを考えて、AIエージェントの活用を進めていく必要がある。そのためにもインフォアが持つ業界知識とデータ基盤というのは強みになる」と考えを述べている。
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