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航空機電動化の夢を現実に、AIやハイテクレーザーで高温超電導集合導体の開発本格化材料技術(3/3 ページ)

高温超電導集合導体を用いた超電導モーターは、従来のモーターに比べ、大幅に軽量でコンパクトだ。積載量(ペイロード)の増加にも貢献するため、電動航空機の実用化を後押しする。しかし、従来の高温超電導集合導体では電力ロスが大きく、こういったモーターを作れなかった。その問題を解消する事業が本格始動した。

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社会実装の時期

 高エネルギー加速研究機構はSCSC-IFBケーブルの機械的特性を評価する。具体的には、電流/磁場による力への耐性向上に向けた機械的特性評価技術の確立を行う。高エネルギー加速器研究機構 教授の菅野未知央氏は「工業化のための線材、集合導体の機械的特性の基礎データ収集と強く集合導体の実現に向けた設計指針を構築する」と語った。

高エネルギー加速研究機構(KEK)の役割
高エネルギー加速研究機構(KEK)の役割[クリックで拡大] 出所:産総研

 同機構は、電子−陽子衝突加速器「SuperKEKB」を保有している他、日本原子力研究会機構(JAEA)とともに陽子加速器「J-PARC」を有している。「SuperKEKBで荷電変換とパリティ変換を同時に行っても不変であるという性質『CP対称性』の破れを実証し、J-PARCで電子型ニュートリノ出現現象を発見した実績がある」(菅野氏)。

高エネルギー加速研究機構(KEK)の保有加速器
高エネルギー加速研究機構(KEK)の保有加速器[クリックで拡大] 出所:高エネルギー加速研究機構

 加速器で使用される磁石は、円周軌道に沿ってビームを曲げる「偏向」と衝突効率向上のためにビームを細く絞る「収束」の機能が求められる。高エネルギービームの偏向と収束には強い磁場を発生する高温超電導磁石が必要となる。「ビームの軌道を思い通りに制御するには、強度と方向がそろった高精度磁場を生じる高温超電導磁石が必須だ。この磁場を実現できる、マルチフィラメント化された高温超電導線材を用いた集合導体に期待している」(菅野氏)。

 一方で、菅野氏は「今回の事業で使用する高温超電導体であるREBCO線材は、長さ方向の圧縮には比較的強いが、テープ形状であるため曲げ方向に制約がある。積層構造であるため厚さ方向に剥離しやすい。さらに、一定以上の小さい半径で曲げると超電導状態で流せる電流が減少する。そのため、電磁石の設計に向けて、変形の限界値を知る必要がある」と見解を示した。

REBCO線材の「ひずみ」による超電導特性の変化
REBCO線材の「ひずみ」による超電導特性の変化[クリックで拡大] 出所:高エネルギー加速研究機構

 その上で、高エネルギー加速研究機構が持つ高度な機械的特性評価技術を駆使して「力に強い高温超電導集合導体」の実現を目指すという。

高エネルギー加速研究機構が行う集合導体の機械的特性評価
高エネルギー加速研究機構が行う集合導体の機械的特性評価[クリックで拡大] 出所:高エネルギー加速研究機構

 古河電工は、IFB-REBCOテープの提供とSCSC-IFBケーブルの設計支援を行うとともに、産総研と共同で「データ駆動型高速レーザー加工」を用いてIFBマルチフィラメント線の製造精度向上と高速化を実現する技術開発を進めている。

今回の研究開発における古河電工の位置付け
今回の研究開発における古河電工の位置付け[クリックで拡大] 出所:古河電工

 同社は、ニオブチタン(NbTi)やニオブスズ(Nb3Sn)を用いた低温超電導体と、REBCOテープをはじめとする高温超電導体の事業を展開している。低温超電導体は栃木県日光市の日光事業所で、高温超電導体はレーザー加工技術の開発および実施を日光事業所が、製造/開発を米国ニューヨーク州のSuperPowerが行っている。

古河電工 研究開発本部 超電導事業推進部 部長の廣瀬清滋氏
古河電工 研究開発本部 超電導事業推進部 部長の廣瀬清滋氏

 古河電工 研究開発本部 超電導事業推進部 部長の廣瀬清滋氏は「今回の高温超電導集合導体で低交流損失低温超電導線の設計思想を具現化する。同導体の実現に向けて、重要なのは、IFB-REBCOテープの『マルチフィラメント化』『スパイラル導体化』『銅めっき層の工夫』だと考えている」とコメントした。

 また、社会実装に向けた要求仕様の集約では、各産業分野の超電導応用機器メーカーからの技術要求を収集し、用途別に分別/優先順位付けを行う作業を進行しているという。

 なお、今回の事業では改良したSCSC-IFBケーブルを2040年に社会実装することを目指している。雨宮氏は「2040年よりも前倒しで、欠陥耐性の向上と、フィラメント間の溝幅低減により流せる電流を増大したSCSC-IFBケーブルを開発できるとみている。量産化で鍵を握るのはデータ駆動型高速レーザー加工のスピード向上だと思う」と展望を明かした。

フォトセッション
フォトセッション。左から、廣瀬氏、雨宮氏、菅野氏
今回の研究開発における技術に関する取り組みのまとめ
今回の研究開発における技術に関する取り組みのまとめ[クリックで拡大] 出所:京都大学

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