実際の核融合炉と発電の仕組み:核融合発電 基本のキ(2)(1/3 ページ)
自然科学研究機構 核融合科学研究所 教授の高畑一也氏が、核融合発電の基礎知識について解説する本連載。第2回では、核融合炉/発電の基本的な仕組み、核融合炉に使われる主要装置について解説します。
連載の第1回では、地上で実現可能な核融合反応を提示し、この反応を実現するための条件、核融合発電の優位性と安全性について解説しました。今回は、実際の核融合炉(核融合反応を起こす場所)と発電の仕組みを解説します。核融合にはいくつかのアプローチがありますが、今回は磁場閉じ込め方式、そして第1世代といわれる重水素-三重水素(D-T)反応炉に話を絞ります。その他のアプローチについては、連載第3回で触れたいと思います。
超高温プラズマを閉じ込める磁場の容器
そもそも核融合炉で作られる1億℃の水素ガス(プラズマ)を金属の容器で閉じ込めることはできません。1億℃に耐えられる金属がないのは確かですが、それより数グラム(g)しかないプラズマが数百トン(t)もある容器壁に当たれば、1億度の温度があっても、一瞬で温度が下がってしまいます。プラズマが金属容器に当たることは許されないのです。
そこで考えられたのが、目に見えない磁場の容器を使う方法です。プラズマは原子核と電子が別れて自由に動ける状態です。そこに磁場があると、図1のように、原子核と電子は磁力線に巻き付いて動くようになります(これをサイクロトロン運動と呼びます)。磁力線に対して垂直方向の動きができなくなることで、プラズマの籠(かご)ができるわけです。
ところが、図1の状態では、粒子は磁石にぶつかってしまいます。そこで、磁力線を円形に周回させて、端部をなくす方法が考えられました。そうすると、プラズマは図2のようにドーナツ(トーラス)状になります。緑の線は磁場を作るコイルを表しています。左のように、複数の円形コイルを一周並べたタイプを「トカマク型」、右のように、らせん状のコイルを使うタイプを「ヘリカル型」と呼びます。
しかし、単に磁場をトーラス状にするだけでは、プラズマがトーラスの外側に膨らんでしまう現象が起きます。これを抑制するために、磁場をらせん状に捻る必要があるのです。ヘリカル型は、コイル自身をらせんにすることで、トカマク型は、プラズマに電流(プラズマ電流)を流すことで、電流が作る磁場を重畳させて磁場を捻(ひね)ります。このように、磁場の籠でプラズマを閉じ込める方法を「磁場閉じ込め方式」と呼び、トカマク型とヘリカル型が主流になっています。
どちらの型にも一長一短がありますが、内容が多岐にわたるため、ここでは双方の課題を1つだけ述べます。トカマク型は、プラズマ電流が突然消失するディスラプションという現象があり、炉の一部が損傷する可能性があります。ですが、これを回避する方法が既に見つかっています。ヘリカル型は、コイルの形状が複雑であるため、製作面に課題が残ります。また、プラズマとコイルが接近しているので、精度良くコイルを作る必要があります。ですから、ヘリカル型よりトカマク型の実験装置のほうが多く作られています。
核融合炉では、コイルは超伝導線を巻いた「超伝導コイル」であることが必須です。それは、銅線で巻いたコイルで磁場を定常的に発生させると、銅の抵抗による電力消費が発電量を上回ってしまうからです。超伝導コイルを使うと、抵抗がゼロなので、コイル内では電力消費がほぼゼロになります。超伝導コイルを冷やすために冷凍機を使用しますが、その消費電力は発電量の数%に収まります。
プラズマを取り囲む真空容器の役割
超伝導コイルで作った磁場の籠でプラズマを閉じ込めたとしても、プラズマの密度は大気の10万分の1程度のほぼ真空といってよい状態なので、周りが真空でなければプラズマを作ることはできません。そのためには、やはり外側に金属の真空容器が必要となります。図3に大型ヘリカル装置(LHD)[注1]の例を示しますが、プラズマと超伝導コイルの間に真空容器を挟み込んだ構造になります。
プラズマに水素以外の不純物元素が混入すると、その不純物が電離したときに発する光の放射によって、熱の逃げが大きく(閉じ込め時間が短く)なります。従って、プラズマ真空容器は、水素を入れる前に超高真空にする必要があります。LHDでは、ターボ分子ポンプとクライオポンプを併用して10-7Pa台まで、排気しています。
[注1]…大型ヘリカル装置は、自然科学研究機構 核融合科学研究所にある世界最大級のヘリカル型超伝導プラズマ実験装置。本体部は直径約13m、高さ約9m、重量1500t。1998年の実験開始以来、四半世紀にわたって実験研究を行い、1億2000万℃のプラズマ生成に成功、2300万℃のプラズマを48分間定常維持するなど、多くの成果を挙げてきました。
図4はLHD真空容器内部の写真です。真空容器の表面全体に水冷の冷却配管が溶接されています。運転中の真空容器の温度は50℃程度です。また、冷却配管を保護するために、約7000枚のステンレスプレート(厚さ1cm、約10cm四方)がボルトで固定されています(写真には多数のプレートが写っています)。LHDは核融合反応を起こしていない実験装置ですが、近くに1億℃のプラズマがあるにもかかわらず、真空容器の温度が50℃です。いかに磁場の籠の断熱性能が良いかが分かると思います。次ページで、発電の原理を解説しますが、核融合炉では、図4のステンレスプレートの部分がブランケットという部品に置き換わり、重要な役割を果たしますので、記憶に留めておいてください。
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