検索
連載

実際の核融合炉と発電の仕組み核融合発電 基本のキ(2)(2/3 ページ)

自然科学研究機構 核融合科学研究所 教授の高畑一也氏が、核融合発電の基礎知識について解説する本連載。第2回では、核融合炉/発電の基本的な仕組み、核融合炉に使われる主要装置について解説します。

Share
Tweet
LINE
Hatena

核融合発電の仕組み

図5 核融合発電の仕組み
図5 核融合発電の仕組み[クリックで拡大]

 図5は、核融合発電の仕組みを模式的に表したものです。重水素と三重水素が核融合反応を起こすと、高速の中性子とヘリウム原子核が発生します。それぞれが持つエネルギーの割合は80%と20%です。ヘリウムはプラズマ中にとどまりプラズマを加熱しますが、中性子は磁場の影響を受けないためプラズマから飛び出し、プラズマを完全に覆う「ブランケット(毛布の意味)」と呼ばれる壁にぶつかります。

 これにより、中性子は減速し、その運動エネルギーが熱エネルギーに変換され、ブランケットの温度を上げます。ここで強調したいのは、1億℃のプラズマから直接熱を取り出すのではなく、飛び出してくる中性子の運動エネルギーを使うというところです。

 ブランケットの温度は設計にもよりますが、350℃から900℃にまで上昇します。ブランケットには冷却材が流れ、外部の熱交換器へ熱エネルギーが輸送されます。冷却材としては、加圧水、ヘリウムガス、リチウム鉛合金(液体)、リチウム化合物(液体)などが候補として挙がっています。その後、熱交換器を介して蒸気タービンを使う発電部については、火力発電や原子力発電などと仕組みは同じです。

三重水素を生産する装置

 核融合炉の燃料は重水素と三重水素ですが、三重水素は自然界での存在比率が小さく、何らかの方法で生産しなければなりません(重水素は豊富にあります)。図6は、炉の中での物質の循環を示していますが、核融合反応で発生した中性子をリチウムに当てて核反応で三重水素を作ります。

 核融合炉を外から見ると、外から持ち込む燃料資源は重水素とリチウムで、外に排出する灰はヘリウムだけに見えます。このサイクルを定常的に回すためには、確実に中性子をリチウムに当てなければなりません。その役割を果たすのがブランケットです。ブランケット全面にリチウムを充填して、確実に中性子と衝突させます。従って、ブランケットは、冷却材による熱の取り出しと、三重水素の生産という2つの役割を担っていることになります。

図6 核融合炉内の物質の循環サイクル
図6 核融合炉内の物質の循環サイクル[クリックで拡大]

 リチウムは、さまざまな形態での充填が検討されています。固体の場合は、Li2TiO3、Li2ZrO3、Li4SiO4などの化合物(ペレット状)、液体の場合は、Li、Li-Pb合金、溶融塩FLIBE(LiF+BeF2)が候補となっています。固体の場合は、冷却材に水やヘリウムが使われ、液体の場合は、それ自身が冷却材として使われます。

 図7は、ブランケットを持つ最終的なヘリカル型核融合炉の内部構造です。実験装置LHDでは真空装置の内側に厚さ1cmのステンレスプレートが付いていた(図4)だけですが、核融合炉では、真空容器の内側に厚さ1mの分厚いブランケットが設置されます。ここが実験装置と核融合炉の大きな違いになります。

図7 ヘリカル型核融合炉の内部構造
図7 ヘリカル型核融合炉の内部構造[クリックで拡大] 出所:核融合科学研究所

 ブランケットの設計にはいくつかのアプローチがあり、各国で研究がなされていますが、最終的な動作実証は核融合炉がないとできないという、「鶏が先か卵が先か」に近い課題を抱えています。核融合炉で発生する大量の中性子は、核融合炉でないと作り出せないからです。ただし、ブランケットに使われる材料の試験のために、直線加速器で中性子を発生させる設備を国内に建設する計画があります。

プラズマを1億℃に加熱する装置

図8 プラズマを加熱する3つの方法
図8 プラズマを加熱する3つの方法[クリックで拡大]

 プラズマを1億℃に加熱するためには、図8に示したように3つの方法を併用します。1つ目は、「中性粒子入射加熱(NBI)」です。これは、先に負の水素イオンを作り、高電圧電極で加速し、さらに薄い水素ガス中を通して中性化した後に、プラズマに打ち込む方法です。1億℃以上に加熱された水素ビームをプラズマに注入する方法なので、あたかもヤカンで湧かした熱湯を水に注ぎ込むようなイメージになります。

 残りの2つは、図1で示したサイクロトン運動の回転周期に対応した(共鳴する)周波数の電磁波を入射することで加熱(高周波加熱)する方法です。こちらは、水を電子レンジで加熱するイメージとなります。共鳴周波数は質量に反比例するため、電子の方が重水素原子核より約3600倍高くなります。

 実際には、電子を加熱するためには数10GHz、原子核を加熱するためには数10MHzの電磁波を入射します。前者を特に「電子サイクロトン共鳴加熱(ECRH)」、後者を「イオンサイクロトン共鳴加熱(ICRH)」と呼びます。核融合炉では、点火までに、三つの合計で50MW以上の加熱パワーが必要となります。

 温度が1億℃に達すると、核融合反応で発生したヘリウム原子核(アルファ粒子)もプラズマを加熱します。これをアルファ加熱と呼びます。このアルファ加熱がプラズマからのエネルギーの逃げ(エネルギー損失)を越えると、外部からの加熱(図8で示した3つの方法)を止めても、プラズマの温度が維持されます。これが核融合炉の究極の状態「イグニッション(点火)」です。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ページトップに戻る