核融合発電とは? 優位性や安全性などの基礎を解説:核融合発電 基本のキ(1)(1/3 ページ)
自然科学研究機構 核融合科学研究所 教授の高畑一也氏が、核融合発電の基礎知識について解説する本連載。第1回では、地上で実現する核融合反応とはどのようなものか、核融合発電の優位性と安全性、実現に必要な物理的条件、どうして核融合発電が必要なのかについて紹介します。
今回から3回に渡り、核融合発電の基礎知識について解説記事を書かさせていただきます。分かりやすく、細部にわたって説明していきますので、よろしくお願いいたします。著者は自然科学研究機構 核融合科学研究所で、核融合実験装置の設計/製作に携わった経験があり、現在は広報室長を兼任しアウトリーチ活動をけん引しています。
最近は、海外で核融合のスタートアップが勃興したこともあって、ニュースなどで核融合発電が取り上げられることが増えてきました。しかし多くの人は、この聞き慣れない言葉に不安を持つようです。何せ、名前に「核」が付きますから。そのような不安を払拭するために第1回目の今回は、核融合の原理から、メリット/デメリット、発電に必要な条件までを紹介します。
星の核融合と地上の核融合
天然に存在する元素は約80種類です。それでは、宇宙に存在している各元素の存在割合はどのようになっているでしょうか。実は、水素が90.2%、ヘリウムが9.7%、その他の元素が0.1%です。どうしてこうなっているのでしょうか? 137億年前に、宇宙ができたころは水素しかありませんでした。ところが、高速の水素が衝突することで「核融合」反応が起き、ヘリウムに元素が変換したのです。その反応が起きている場所が夜空に光り輝く恒星です。
宇宙にヘリウムが比較的多く存在するのは、核融合が起こっていることを意味しています。生命の誕生に必要な炭素や酸素は、水素が核融合し尽くした後の晩年の恒星で今度はヘリウムの核融合によって作られます。そして死を迎え、飛び散った星のかけらが私たちの体になったというわけです。このように宇宙では、核融合は自然に起こっていることであり、特別なものではありません。もちろんいつも見ている太陽も核融合で光り輝いています。
太陽が核融合で輝いていることは、1939年に米国の物理学者であるハンス・ベーテによって発表されました。それまでは石炭が燃えていると考えられていたそうです。でも、それではあっという間に燃え尽きてしまいます。今では、太陽の中心部で何段階かの反応を経て、4個の水素原子核(陽子)が融合し1個のヘリウム原子核に変換していることが分かっています。その時、0.7%の質量が消失して、その分のエネルギーが放出されます。質量とエネルギーが等価なことは、ドイツ生まれの理論物理学者であるアルベルト・アインシュタインが発見したことでも知られています。事実、今も太陽は毎秒50億kgずつ軽くなっているのです。
さてここから、地上に話を戻しましょう。小さな太陽を地上に作れば、地球のエネルギー問題が解決するのではないか、これが「核融合発電」構想が生まれたきっかけです。かれこれ70年前の話です。しかし、太陽と私たちが考えるエネルギー源には大きなギャップがありました。太陽中心での1m3当たりの発熱量は270W。人間の発熱量がだいたい100Wですから、小さな太陽を作っても、とてもエネルギー源にはならないことが分かったのです。太陽の中心では非常にゆっくりと核融合反応が起こっているので、さらに50億年輝き続けることができるのです。
では、地上で核融合を利用するためにはどうすればよいのでしょうか? それには、水素より核融合反応が起きやすい水素またはヘリウムの同位体を使うしかありません。核融合発電で利用可能とされる核融合反応を図1に示します。
図1では、4種類の反応を紹介しましたが、世代の順番は、実現時期が早いと思われる順番としています。最も実現が早いとされる第1世代を例にとると、重水素(D)原子核と三重水素(T)原子核の融合反応(D-T反応)で、ヘリウム原子核と中性子が生成されます。このとき、重水素と三重水素の質量総和に対して、ヘリウムと中性子の質量総和が減少しているために、莫大なエネルギーが発生します。1gの水素を核融合させて発生するエネルギーは、石油8トン(t)を燃焼させたときに発生するエネルギーに相当することから、いかに大きなエネルギーが発生するかが分かります。
このエネルギーは、発生した粒子の運動エネルギーですが、私たちが利用するためには、これを熱エネルギー、そして電気エネルギーに変換する必要があります。その方法については連載第2回で説明します。
ここまでの説明で、核融合とは、原子核同士が融合して別の原子核に変わる反応であることが分かっていただけたかと思います。本来「原子核融合」と呼ぶべきところを縮めて核融合と呼んでいるのです。
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