航空機電動化の夢を現実に、AIやハイテクレーザーで高温超電導集合導体の開発本格化:材料技術(2/3 ページ)
高温超電導集合導体を用いた超電導モーターは、従来のモーターに比べ、大幅に軽量でコンパクトだ。積載量(ペイロード)の増加にも貢献するため、電動航空機の実用化を後押しする。しかし、従来の高温超電導集合導体では電力ロスが大きく、こういったモーターを作れなかった。その問題を解消する事業が本格始動した。
今回の事業の目標
NEDOに採択された今回の事業では、京都大学をはじめとする4者が、欠陥耐性を向上するとともに、フィラメント間の溝幅低減により流せる電流を増大したSCSC-IFBケーブルの開発を目指す。電流/磁界による力への耐性アップや社会実装に向けた量産化技術の開発も目標に掲げている。雨宮氏は「開発を進めるSCSC-IFBケーブルの構造は4層に限らない。例えば、流せる電流を増やすために層数を増やすことは当然あり得る」と補足した。
これらの目標達成に向けて、4者は高速レーザーによりIFB-REBCOテープに微細なフィラメント加工を施しマルチフィラメント化したIFBマルチフィラメント線の開発と同テープを用いたSCSC-IFBケーブルの設計/試作などを進めている。
各者の役割に関して、京都大学の雨宮研究室は、SCSC-IFBケーブルとこれを構成するIFBマルチフィラメント線の設計や同ケーブルの製作、平角断面スパイラル導体の設計/製作、同ケーブルおよび同導体の電磁特性評価を担当している。雨宮氏は「当研究室の強みは年間4kmの製造能力を有すケーブリング装置や、交流損失測定システム、2〜8Tの超電導マグネット、電導冷却テストスタンド、多チャンネル電圧計測システム、リニアバイポーラ電源(1000A、DC:0〜1kA)といった評価機器や関連装置を備えている点だ」と話す。
産総研では、IFB-REBCOテープの高精度マルチフィラメント化で必要な「微細加工」「目的に応じた最適化」「量産化」に対応するための「データ駆動型高速レーザー加工」の開発を進めている。
データ駆動型高速レーザー加工は、広域自動パラメータ可変超短パルスレーザーやAI(人工知能)技術、ガルバノスキャナーを組み合わせることで、より微細で特性向上をもたらす最適加工条件をAIにより高速に探索できる。同時にガルバノスキャナーの高速スキャンにより、熱影響を抑えられる広域パラメータ可変超短パルスレーザーの光を高速かつ高精度に制御し、自由自在なパターンを従来技術と比べて高速に対象物に加工できる。
産総研 統括企画主幹の奈良崎愛子氏は「産総研では、超短パルスレーザーを用いて、複雑形状の表面テクスチャリング、多層デバイスの溝形成、バイオ材料の3Dプリンティング、硬脆材料の微細孔形成、透明材料の内部改質、原子レベルの欠陥エンジニアリングを行った実績がある。加えて、加工パラメーターから加工形状を予測可能なAIシミュレーターを開発した。このAIシミュレーターは、1000の条件データから、100万の条件加工形状を予測できる。このAIシミュレーターと広域自動パラメータ可変超短パルスレーザーを組み合わせて、加工を行った実績もある」と説明した。
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