核融合炉発電実現に向けた多様なアプローチ 核融合ベンチャーの動向:核融合発電 基本のキ(3)(1/3 ページ)
自然科学研究機構・核融合科学研究所 教授の高畑一也氏が、核融合発電の基礎知識について解説する本連載。第3回では、核融合炉実現に向けたさまざまなアプローチを核融合ベンチャーの動向も含めて解説します。
連載の第1回では、地上で実現可能な核融合反応を提示し、この反応を実現するための条件、核融合発電の優位性と安全性について解説しました。第2回は、実際の核融合炉と発電の仕組みを解説しました。
最終回となる第3回は、核融合炉実現に向けで世界各国が行ってきた取り組みと達成度を紹介します。特に核融合ベンチャーが提案するアプローチが、従来の公的プロジェクトと異なっているところが興味深いと思います。
核融合炉のプラズマ閉じ込め方法による分類
超高温の水素ガス(プラズマ)を一定時間閉じ込めて、核融合エネルギーを取り出すためには、プラズマの温度、原子核の数密度、閉じ込め時間、この3つのパラメータの積をある値以上にする必要があります。これを「核融合三重積」と呼びます。
核融合三重積は、プラズマの性能を決める重要な指標です。連載の第1回でも書きましたが、磁場を使って閉じ込める方式「磁場閉じ込め方式(Magnetic Confinement Fusion、MCF)」では、温度1億℃以上、粒子密度1020個/m3以上、閉じ込め時間(エネルギーの減衰時定数)1秒以上を目指して核融合炉を開発しています。
一方、同じ核融合三重積を得るために、レーザーを用いて燃料を爆縮(内側に圧縮)させる「慣性閉じ込め方式(Inertial Confinement Fusion、ICF)」も核融合炉として有望視されています。圧縮されたプラズマの粒子密度は1029個/m3(磁場閉じ込めの10億倍)となり、逆に閉じ込め時間が1ナノ秒程度と短くなります[参考文献1]。
ここでの閉じ込め時間は、実際に圧縮されている時間を意味します。さらに、磁場閉じ込めと慣性閉じ込めの中間的な粒子密度と閉じ込め時間を持つ「磁場慣性方式(Magneto-Inertial Fusion、MIF)」もあります。このように核融合炉開発にはさまざまなアプローチがあり、どの方式が優れているとは一概に言えない状況です。
磁場閉じ込め方式は、さらにいくつかの炉型に分類されます。図1に代表的な炉型を示します(この他の炉型もあります)。これらの違いは、閉じ込めに必要な磁場を作る方法です。ヘリカル型は外部のコイルだけで閉じ込め磁場を作ります。ですからプラズマには電流は流れていません。なお、海外では「ステラレータ」と呼ばれますが、ここでは日本での知名度が高いヘリカルを使います。
トカマク型は、外部コイルとプラズマに流れる電流(プラズマ電流)が生成する磁場の重ね合わせによって閉じ込め磁場を作ります。球状トカマク型は、プラズマの形をより球形に近くし、トカマクよりプラズマの安定性を高めたものです。外部コイルが細くなり、よりプラズマ電流の役割が増します。最後が、磁場反転配位(FRC)型で、外部コイルがほとんどありません。プラズマ電流の作る磁場だけで閉じ込めてしまいます。つまり、図1では、上ほど外部コイルの寄与が大きく、下ほどプラズマ電流の寄与が大きくなる炉型になっています。
一般に外部コイルの寄与が大きい方が、建設コストが大きくなると考えられます。逆にプラズマ電流を流すためには、外部から電力を投入する必要があり、運転コストが高くなると考えられます。商業的に成立する核融合炉を実現するためには、プラズマの性能だけでなく、経済性も考えなければなりません。
慣性閉じ込め方式では「レーザー核融合」が主流となっています。レーザー核融合は図2に示したように、燃料ペレット(直径数mmの球)に周囲からレーザー光を照射します。これにより燃料の表面がプラズマ化し、外側に噴出するとともに、その反作用で燃料が中心に向かって圧縮されます。この爆縮によって、燃料の密度は鉛の100倍にもなり、同時に温度が1億℃に達したときに核融合反応が起こります。反応時間はナノ秒オーダーと短いですが、このサイクルを1秒間に数回の周期で繰り返すことで定常的なエネルギー源となります。ですから、レーザー核融合は自動車のエンジンに似ています。
図2 レーザー核融合の原理(1:レーザー照射、2:燃料の表面がプラズマとなり、外側に噴出し、その反作用で燃料が圧縮、3:爆縮、4:核融合による点火)[クリックで拡大] 出所: Wikimedia Commons
磁場慣性方式では、磁化ライナー慣性核融合(MagLIF)と呼ばれる炉型の、米国サンディア国立研究所の「Z machine」が有名です。この方式では図3に示したように、円筒管に詰めた燃料をレーザーで100万℃程度に予備加熱した後、円筒管に大電流を流し、その電流でできた磁場との相互作用によって、円柱中心に向かって爆縮します。磁場閉じ込め方式と慣性閉じ込め方式の中間的な方式です[参考文献2]。レーザー核融合と同じく、反応は100ナノ秒オーダーと短時間なので、定常的なエネルギー源にするためには繰り返し運転が必要となります。
核融合炉を開発している公的プロジェクトと民間企業
図4は、さまざまな核融合炉の方式や炉型を、誰がどこで開発しているのかが分かるように図示したものです[参考文献3]。公的プロジェクトでは装置名と国名、海外の民間企業は企業名と国名を表示しました。もちろんここに挙げたものが全てではなく、主要なものだけです。公的プロジェクトではトカマク型が多いですが、民間企業も含めると多様な炉型で核融合炉開発が進められていることが分かります。
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