ダクトに巻く断熱材を設計する:CAE解析とExcelを使いながら冷却系設計を自分でやってみる(18)(3/3 ページ)
CAE解析とExcelを使いながら冷却系の設計を“自分でやってみる/できるようになる”ことを目指す連載。連載第18回は、ダクトに巻く断熱材の設計計算Excelシートを作成する。
連続の式とベルヌーイの式
紙面に余裕があるので、連続の式とベルヌーイの式について紹介します。まずは質量保存則から出発しましょう。図5に、微小直方体に流体が流入し、流出している様子を示します。
単位時間当たりに流入する質量は、式17で表されます。minの頭に付いている「・」は、時間微分を意味します。
単位時間当たりに流出する質量は、式18で表されます。
流入する質量と流出する質量の差は、微小直方体の質量変化です。このとき、流体は膨張や圧縮をしている非圧縮流体であると仮定します。今、単位体積当たりの質量変化をΔm(※正しくは、mの上に「・」付き)と表記しましょう。微小直方体の体積は変化しないため、変わるのは密度ρのみです。Δm(※正しくは、mの上に「・」付き)は式19で表されます。
質量保存則に従えば、流入する質量と流出する質量の差は、式19と等しくなります。ここが質量保存則の要点です。
式20に、式19を代入して計算を進めていきましょう。ここで、皆さんが頭にたたき込んでくれたであろう、あの式の出番です。ここでは少し省略した書き方をします。密度ρおよび流速uは時間と座標の関数ですが、密度と流速の掛け算(ρu(x,t))を1つの変数として、これも時間と座標の関数とします。
この右辺を左辺に移項し、3次元の形に拡張します。
比質量と流速の積をベクトルで表記します。ベクトルは太字で示します。
ハミルトン演算子(ナブラ∇)は式24のように定義されます(参考文献[2])。
式22、式23、式24を見ると、式22の第2項、第3項、第4項は、ナブラ∇とρuの内積で表されることが分かります。式22は次式のように表現できます。
式25は、発散div(divergence)の記号を使って、以下のようにも書けます。
カッコよくなりましたが、もう少しかみ砕いてみましょう。流体が膨張も圧縮もしない、すなわち非圧縮流体であれば密度は一定なので、式26は次のようになります。
この式27は体積保存則、すなわち連続の式です。式27の右辺がゼロでない場合、それは流体が“異次元から湧き出している”ことに相当します。いくつかの流体解析ソフトウェアでは、このような湧き出しをシミュレーションに組み込むことが可能です。湧き出しを利用することで、モデルや境界条件の設定を簡素にできて便利です。
連続の式は、図6を用いて式28で表した方が分かりやすいですね。
ベルヌーイの式については、次回説明します。 (次回へ続く)
参考文献:
- [1]日本機械学会|伝熱工学資料 改訂第4版(1999)
- [2]矢野健太郎|解析学概論|裳華房(S53)
Profile
高橋 良一(たかはし りょういち)
RTデザインラボ 代表
1961年生まれ。技術士(機械部門)、計算力学技術者 上級アナリスト、米MIT Francis Bitter Magnet Laboratory 元研究員。
構造・熱流体系のCAE専門家と機械設計者の両面を持つエンジニア。約40年間、大手電機メーカーにて医用画像診断装置(MRI装置)の電磁振動・騒音の解析、測定、低減設計、二次電池製造ラインの静音化、液晶パネル製造装置の設計、CTスキャナー用X線発生管の設計、超音波溶接機の振動解析と疲労寿命予測、超電導磁石の電磁振動に対する疲労強度評価、メカトロニクス機器の数値シミュレーションの実用化などに従事。現在RTデザインラボにて、受託CAE解析、設計者解析の導入コンサルティングを手掛けている。⇒ RTデザインラボ
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
円管内の熱伝達を解析する
CAE解析とExcelを使いながら冷却系の設計を“自分でやってみる/できるようになる”ことを目指す連載。連載第14回からはいよいよ「熱流体解析」に突入し、円管層流熱伝、円管乱流熱伝達と進んでいく。乱流の円管内の流れと圧力損失の見積もり
CAE解析とExcelを使いながら冷却系の設計を“自分でやってみる/できるようになる”ことを目指す連載。連載第12回では、乱流の円管内の流れと圧力損失の見積もりについて取り上げる。CAEソフトに仕掛けられたトラップ
金属疲労を起こした際にかかる対策コストは膨大なものになる。連載「CAEを正しく使い疲労強度計算と有機的につなげる」では、CAEを正しく使いこなし、その解析結果から疲労破壊の有無を予測するアプローチを解説する。第1回のテーマは「CAEソフトに仕掛けられたトラップ」だ。連載「CAEを正しく使い疲労強度計算と有機的につなげる」の内容と有限要素法
金属疲労を起こした際にかかる対策コストは膨大なものになる。連載「CAEを正しく使い疲労強度計算と有機的につなげる」では、CAEを正しく使いこなし、その解析結果から疲労破壊の有無を予測するアプローチを解説する。連載第2回では本連載の「あらすじ」と「有限要素法」について取り上げる。解析専任者に連絡する前に、設計者がやるべきこと
連載「CAEと計測技術を使った振動・騒音対策」では、“解析専任者に連絡する前に、設計者がやるべきこと”を主眼に、CAEと計測技術を用いた機械の振動対策と騒音対策の考え方や、その手順について詳しく解説する。連載第1回では、本連載の趣旨、振動対策や騒音対策が必要となる場面などについて取り上げる。設計者なら一度はやってみたい形状最適化、お金をかけずにどこまでできる?
原理原則を押さえていれば、高額なソフトウェアを用意せずとも「パラメトリック最適化」「トポロジー最適化」「領域最適化」といった“形状最適化”手法を試すことができる! 本連載ではフリーのFEM(有限要素法)ソフトウェア「LISA」と「Excel」のマクロプログラムを用いた形状最適化にチャレンジする。