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生きたまま動物の頭蓋骨を透明化する技術を開発:医療技術ニュース
新潟大学は、生きている動物の頭蓋骨を観察時だけ高度に透明化し、脳内を非侵襲、高精度にライブ観察できる頭蓋骨透明化技術「シースルー法」を開発した。
新潟大学と理化学研究所は2025年8月22日、生きている動物の頭蓋骨を観察時だけ高度に透明化し、脳内を非侵襲、高精度にライブ観察できる頭蓋骨透明化技術「シースルー法」を開発したと発表した。頭蓋骨を除去して透明ガラスを埋め込む必要がなく、術後の炎症や脳圧変動のリスク、熟練した手術スキルへの依存を大幅に軽減できる。

(A)シースルー法と従来のオープンスカル法の比較。(B)迅速かつ可逆的に頭蓋骨を透明化して脳内をライブイメージングできる。(C)マウス頭蓋骨は高度に透明化される。(D)頭蓋骨を広範囲に透明化して「ズームアウト」「ズームイン」観察できる。(E)さまざまな脳領域の数千個の神経細胞の活動をモニターし(左)、神経間ネットワーク解析(右)ができる。[クリックで拡大] 出所:新潟大学
研究チームは、1600種類超の化合物を安全性と透明化効率の面からスクリーニングし、試薬をマウスの頭蓋骨表面に塗布するだけで、1時間以内に約95%の透過率を得られる簡便なプロトコルを確立した。透明化は可逆的で、観察後には頭蓋骨が元の状態に戻る。
マウスを用いた評価では、脳組織にダメージは見られず、脳内の細胞の形態や活動、分子動態をマイクロメートルレベルの精度で捉えられることを確認した。さらに、大脳を覆う頭蓋骨の大部分を透明化し、約3000個の神経細胞活動をミリ秒単位で観察することで、脳内の神経ネットワークの動態を大規模かつ詳細に観察することに成功した。
頭蓋骨除去を伴う従来法は、生理学的に「あるがままの」状態を損ねやすく、高度な技術が必要なため普及も限られていた。新手法は、脳圧変動や脳脊髄液漏出のリスクを抑えつつ広視野観察を可能にするため、生きている動物の行動下の脳活動解析や疾患モデル研究の加速が期待される。
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