テルモが英社買収で臓器移植市場に本格参入、鮫島CEO「こんな買収めったにない」:製造マネジメントニュース(2/2 ページ)
テルモが臓器保存デバイスを手掛ける英国のスタートアップOrganOxの買収の狙いについて説明。同社の買収により、テルモは成長市場である臓器移植関連分野に本格参入することになる。
移植用肝臓の保存時間を従来比2倍以上に
臓器移植市場は需要に対して供給が追い付かない状況にあり待機期間中に救えない命も多い。グローバルの臓器移植件数は年間で15万件以上だが、臓器移植を待つ患者が登録する待機リストは47万人に上る。さらに、待機リストに登録していないものの、臓器移植を希望している“真の待機患者”は臓器移植件数の10倍に達するという推計もある。このような状況下において、臓器移植件数の約9割を占める腎臓と肝臓の移植を対象とした臓器保存市場の規模は、2023年から年平均10%で成長し2028年には19億米ドルまで拡大すると予想されている。
臓器移植において大きな課題になっているのが、臓器の保存時間と臓器が移植に適した状態を維持できているかの機能評価である。OrganOxの臓器保存デバイスであるmetraが対象とする肝臓の場合、心停止ドナーの活用が進んでいないためドナー母数が小さい。これは、肝臓は虚血耐性が低く、脳停止ドナーと違って血流が即座に流れなくなる心停止ドナーからの臓器回収が難しいためだ。また、臓器移植で一般的な冷却保存の場合、保存できる時間が約6時間と短い。そして、回収できた場合も臓器移植の可否を決める肝臓の機能評価を定量的に行うことが難しく、患者の安全性を優先して廃棄することも多い。
OrganOxのmetraは、常温下で保存液を機械灌流させることで肝臓の保存時間を大幅に伸ばすNMP(Normothermic Machine Perfusion、常温機械灌流)を最大の特徴としている。米国の承認で冷却保存の2倍の12時間、欧州の承認で24時間という長時間保存を実現している。これにより、虚血状態にある心停止ドナーの肝臓を移植に使用しやすくなり、輸送時間が制約になっている遠方ドナーからの移植数増加にも貢献できる。「従来の冷却保存の場合、ドナー家族の同意や輸送時間を考慮すると深夜に手術を行わなければならないなど医師の労働環境に大きな負荷がかかっていた。metraによる長時間保存で、医師のQOLも大きく改善できている」(鮫島氏)という。
metraは肝臓の状態を安定的に管理するリアルタイムモニタリングと自動制御を可能にするアルゴリズム開発でも高い技術力を有している。循環圧、血液ガス、温度などを常時定量的に評価することで肝臓の機能評価を正確に行うことで、臓器の廃棄率低減につなげている。また、肝臓の保存/輸送中も自動制御によって状態悪化を防ぐとともに作業者の負担も削減できている。
OrganOxは、現行の肝臓用のmetraに加えて製品パイプラインを拡充する方針である。まず、肝臓用metraについては従来比で体積/重量を30%削減した小型の次世代デバイス「metra L」の開発を進めている。これにより航空機への搭載が容易になり、肝臓移植の機会をさらに高められる。2025〜2030年の中ごろをめどに市場投入を予定している。また、臓器移植件数で肝臓以上に大きな割合を占める腎臓用の「metra K」も開発している。metra Kの市場投入は2030年ごろになる見込みだ。
OrganOxは、高成長の臓器移植領域における臓器保存市場でカテゴリーリーダーを目指せるポジションにある。また、2021年にFDAの承認を受け、2022年にmetraを米国市場に投入してから1年後の2023年には調整後EBITDAで黒字化を達成するなど収益構造も良好だ。臓器移植の中核である米国市場において、全米150の移植センターのうち上位50カ所を既にカバーしているというタッチポイントの広さも強みだ。鮫島氏「今後10年間で売上高1000億円を十分に狙える」と述べている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
テルモ新社長の鮫島光氏が会見「縦糸と横糸を細かく紡いで総合力を引き出す」
テルモが2024年4月1日付で新たな社長 CEOに就任する鮫島光氏の就任会見を行った。鮫島氏は、2017年から約7年間トップの任にあった代表取締役社長 CEOの佐藤慎次郎氏からバトンを引き継ぐことになる。数カ月が数週間に! テルモが挑んだ「素材開発の“探索”を変えるDX」
医療機器メーカーのテルモは、スクリーニングステップ「Material Discovery」を構築。これにより、医療機器用新素材のプロトタイプの開発期間を大幅に短縮し、部門間の連携も強化した。いったいどのようにして、この飛躍的な効率化を実現したのか。テルモの挑戦に迫る。リニューアルした血糖測定システムの販売を開始
テルモは、リニューアルした血糖測定システム「メディセーフフィットスマイル」の販売を開始した。操作フローや画面表示などを改良している。プレフィルドシリンジ向けのUHF帯RFIDタグを開発
TOPPANエッジは、プレフィルドシリンジ向けのUHF帯RFIDタグを開発した。第1弾として、RFIDタグを搭載したテルモの「ニトログリセリン静注25mg/50mL」に活用する。患者の長期管理を支援するECMO装置を発売、新型コロナなどの重症呼吸不全に対応
テルモは、ECMOシステムの中核を担う体外循環装置用遠心ポンプ駆動装置の新機種「キャピオックス遠心ポンプコントローラー SP-300」の販売を開始した。患者に対する長期管理の支援機能を強化している。脳血管疾患のカテーテル治療製品事業で新事業ブランドを展開
テルモは、脳血管疾患の治療製品を扱うニューロバスキュラー事業の新事業ブランドとして、「Terumo Neuro」を制定し、グローバルでの展開を開始した。