スタートアップが陥ったODMの失敗談から学ぶ:ODMを活用した製品化で失敗しないためには(14)(1/2 ページ)
社内に設計者がいないスタートアップや部品メーカーなどがオリジナル製品の製品化を目指す際、ODM(設計製造委託)を行うケースがみられる。だが、製造業の仕組みを理解していないと、ODMを活用した製品化はうまくいかない。連載「ODMを活用した製品化で失敗しないためには」では、ODMによる製品化のポイントを詳しく解説する。第14回は、筆者が相談を受けたスタートアップが実際に陥ったODMにおける失敗談を取り上げる。
今回は、筆者が相談を受けたスタートアップが実際に陥ったODM(設計製造委託)における失敗談を、次の項目に沿って紹介する。
- ODMメーカーに量産経験がない
- ODMメーカーに設計品質の知識が不足していた
- ODMメーカーが金型部品の作り方を理解していなかった
- ODMメーカーへの情報提供が不十分
- 製品仕様を十分に伝えないまま設計を開始してしまった
- 目標とする製品コストを明確に伝えていなかった
- 委託前の契約や取り決めが不十分
- コストに関する取り決めを行っていなかった
- ODMメーカーが部品表および部品コストを共有しなかった
1.ODMメーカーに量産経験がない
ODMメーカーに設計品質の知識が不足していた
設計品質とは、主に「安全性」「信頼性」「製造性」の3つを指す(以前お届けした連載「ベンチャーが越えられない製品化の5つのハードル」の第3回[安全性]、第4回[信頼性]、第5回[信頼性の続き]、第6回[製造製]を参照)。市場で販売する製品を設計するには、設計品質をある基準に定め、それを目標に設計を進めなければならない。もちろん、ODMメーカーはこれを理解している必要があるが、特に連携型ODMメーカーの場合、十分に理解していないことが多い。ODMメーカーの選定でしっかりと事前調査をしてほしい(連載第5回「ODMメーカーの種類と特徴、そして選び方のポイント【後編】」を参照)。
筆者が相談を受けたスタートアップは、ある連携型ODMメーカーに子ども用IoT(モノのインターネット)機器を委託したところ、子どもが扱うと外れて飛び出しそうなコイルバネ(安全性に欠ける)の設計や、ラベルが小さすぎてピンセットを使っても適切な位置に貼れない(製造性に欠ける)設計をされてしまった。これ以外にも、設計品質の観点から不適切な箇所が多数見受けられたため、最終的にスタートアップは委託の継続を断念し、補助金600万円を失うこととなった。
ODMメーカーが金型部品の作り方を理解していなかった
前述と同じODMメーカーは、樹脂部品に関する金型の知識も不足していた。その結果、カエルの形をした樹脂部品の最も目立つ頭頂部に、金型のゲートを配置してしまった。製品としては、あまりにも見栄えが悪い。連携型ODMメーカーの窓口(担当者)が基板メーカーであったため、金型に関する知識が全くなく、金型メーカーに対して何の要望も出さずに金型を作らせたのだろう。ODMメーカーは製品の量産も委託されているため、樹脂部品の量産に欠かせない金型の知識は必須であるが、それを有していなかったのだ(連載第4回「ODMメーカーの種類と特徴、そして選び方のポイント【中編】」を参照)。
ODMメーカーに求められる量産スキルは、単に製造ラインで製品を組み立てるノウハウにとどまらず、製品をたくさん作り、市場に出すためのノウハウが必要だ。部品をたくさん作るには金型の知識が欠かせず、製品を市場に出すには設計品質に関する知識が不可欠である。
2.ODMメーカーへの情報提供が不十分
製品仕様を十分に伝えないまま設計を開始してしまった
あるスタートアップが中国のODMメーカーに美容機器を委託し、1回目の試作が完了した段階で、筆者が支援に加わることとなった。試作では、製品の特徴的な部分のみが製作され、それに関してWeb会議を行っていたときのことである。スタートアップが試作部品に対し、「ここをこう変更してほしい」などと次々に要望を伝えると、中国のODMメーカーの担当者はややいら立ち気味に、「一体、何を作りたいのですか?」と問い返してきたのだった。
後に、スタートアップにこれまでの経緯を確認したところ、3Dデータのデザイン図をODMメーカーに送付しただけであったという。デザイン図だけでは製品の仕様が十分に伝わらないため、ODMメーカーは独自の判断を加えて1回目の試作部品を設計し、送ってきたというわけだ。そして、それを見たスタートアップは前述の通り、あれこれと注文を付けることとなった。
スタートアップは製品仕様書を作成できなかったのだ。ODMメーカーは、製品仕様書にのっとって設計を行う。しかし、このODMメーカーは類似製品の設計経験があったため、それを知っていたスタートアップは、デザイン図だけ送付すればうまい具合に設計してくれると楽観視していたのである。何度か打ち合わせを重ねたものの、なかなか進捗(しんちょく)せず、結局設計は中断され、数百万円が無駄となった。
製品仕様書の作成が難しい場合は、専門家に相談してほしい。ODMメーカー、特に中国のODMメーカーは、製品仕様書なしではスタートアップの意図をくみ取って設計してくれることはない(連載第6回「作りたい製品をODMメーカーに伝える製品仕様書の書き方」を参照)。
目標とする製品コストを明確に伝えていなかった
ODMメーカーに対して提示すべき重要な情報の一つが、目標とする製品コストだ。これは、スタートアップがODMメーカーから購入する、カートンに入った状態の製品コストのことである。このコストには、部品を組み立てる作業費なども含まれており、その中でも最も重要なのは製品を構成する個々の部品コストだ。
スタートアップが目標とする製品コストを提示すれば、ODMメーカーはそこから個々の部品コストを算出し、それを基準として部品の設計を進めていく。つまり、製品コストを提示しなければ、目標とする部品コストがないまま、成り行きで部品が設計されてしまうのだ。
筆者が相談を受けたスタートアップは、製品コストを提示していなかった。量産部品が完成し、設計の後戻りができない段階になってから、「製品コストは○○円になりました」とODMメーカーから提示された。しかし、そのコストはスタートアップが想定する製品の販売価格に見合わず、このままでは販売するたびに赤字を出すことになる。結局、設計を最初からやり直さざるを得なくなったのである。
製品企画を立てる段階で製品コストを決め、ODMメーカーを選定する見積もりの時点、あるいは設計を開始する前に、ODMメーカーに製品コストを提示して相談しなければならない(以前お届けした連載「アイデアを『製品化』する方法、ズバリ教えます!」の第9回「『コスト』を考える上で絶対に欠かせない6つの視点」を参照)。
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