製品が簡単に壊れると、ユーザーはがっかりしませんか?:ベンチャーが越えられない製品化の5つのハードル(5)(1/3 ページ)
連載「ベンチャーが越えられない製品化の5つのハードル」では、「オリジナルの製品を作りたい」「斬新なアイデアを形にしたい」と考え、製品化を目指す際に、絶対に押さえておかなければならないポイントを解説する。連載第5回では、信頼性の試験内容をどのようにして見つけ出すか/自分で考えるかについて取り上げる。
前回お届けした連載第4回「『日本製品の品質が良い』とは何が良いのですか?」では、信頼性の意味とその内容を私たちがどのようにして目にすることができるかをお伝えした。今回は、その信頼性の試験内容をどのようにして見つけ出すか、もしくは自分で考えるかを説明する。
信頼性は、連載第3回でお伝えした安全性とは異なり法規制ではないため、信頼性が低くても製品を市場に出すことができる。しかし、一般の製品が当たり前に実施しているような信頼性の試験をせずに製品化してしまうと、製品が簡単に壊れてユーザーをがっかりさせてしまう恐れがある。そうした事態がブランド価値の低下につながることは言うまでもない。
保証期間が設定してある製品や購入直後の製品であれば、メーカーは無償で製品交換や修理をしなければならず、多くの出費が必要になる。よって、最低限の信頼性の試験を実施して、自社の定める一定の水準に製品の信頼性を保たなければならない。
まずは、信頼性に関する2つのエピソードを紹介する。
ユーザーに製品が届いた時点で壊れていた装置
ある小型の装置を製品化するベンチャー企業を訪問した。その装置は駆動機構にギアを使用していたが、ギアの故障が多かったので正しい設計の仕方を教えてほしいと依頼があった。
この製品の設計者に故障の詳細を聞くと、「ユーザーが最初に使ったときから、ギアが外れていたらしいです」と言うのであった。製品の使用中に壊れたのではなく、最初から壊れていたとなると、製品の輸送中に壊れた可能性が高い。そこで筆者は「製品の輸送試験は実施しましたか?」と尋ねた。すると、その返事は「輸送試験とは何ですか?」というものだった……。
輸送試験は、私たちの身の回りにあるほとんどの製品で実施されている。製品が工場から出荷され、ユーザーの元に届くまでの間の輸送中に発生するトラックなどの振動や輸送業者による荷物の落下を想定した試験だ。このような多くの製品に共通する汎用(はんよう)的な試験内容は、JIS(日本産業規格)に規格として詳細が記載されている。
このメーカーの設計者は、その規格の存在を知らなかったのだ。このように実施して当たり前の試験は、規格をクリアしていてもカタログなどに記載されることはない。よって、ベンチャー企業の設計者がその存在を知ることは困難なのだ。
ダイヤル周りの印刷が剥がれる家電製品
筆者は、あるベンチャー企業のキッチン家電製品を購入した。その製品の機能は素晴らしく、当時評判になっていた。ところが、購入して数カ月したところ、製品のダイヤル周りの印刷が全て擦れて消えてしまったのだ。加熱温度の目安を示す印刷であったため、使用上に大きな問題はなかった。しかし、こんなに早く印刷が消えてしまったことにはがっかりした。類似製品の2倍程度の高価な製品であったが、一気に安物感が出てしまたのだ。
印刷の密着性を確認する試験内容は、JISに規格として記載されている。その試験は、印刷のできる部品メーカーで大抵行ってもらえる。私たちの身の回りで、このキッチン家電製品のように簡単に印刷が擦れて見えなくなってしまう製品は少ない。恐らくこのベンチャー企業は、印刷試験の存在を知らなかったのであろう。ちなみに、板金や樹脂などへの印刷は、JISの「塗料」の内容を参照する必要がある。
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