スタートアップが陥ったODMの失敗談から学ぶ:ODMを活用した製品化で失敗しないためには(14)(2/2 ページ)
社内に設計者がいないスタートアップや部品メーカーなどがオリジナル製品の製品化を目指す際、ODM(設計製造委託)を行うケースがみられる。だが、製造業の仕組みを理解していないと、ODMを活用した製品化はうまくいかない。連載「ODMを活用した製品化で失敗しないためには」では、ODMによる製品化のポイントを詳しく解説する。第14回は、筆者が相談を受けたスタートアップが実際に陥ったODMにおける失敗談を取り上げる。
3.委託前の契約や取り決めが不十分
コストに関する取り決めを行っていなかった
ODMを委託する前には、設計業務に関わるコストについても、あらかじめ取り決めておく必要がある(連載第11回「しっかりと把握しておきたいODMに必要な費用」を参照)。もちろん、契約書を作成して明記してもよい。相見積もりを取ってODMメーカーを選定する場合、その見積もりが約束されたコストとなる。
ただし、長い設計期間中には、想定外の事態がどうしても発生する。例えば、ODMメーカーが想定していたよりも設計の難易度が高かった場合や、スタートアップがODMメーカーの想定を超える設計修正を要望した場合などが該当する。基本的に、スタートアップが提出した製品仕様書の内容が大きく変更される場合には、スタートアップは追加費用を支払わなければならないが、そうでなければ支払う必要はない。
もっとも、スタートアップとODMメーカーは量産開始後も数年にわたって関係が続くため、柔軟な対応が望ましい。
ODMメーカーが部品表および部品コストを共有しなかった
ほとんどのODMメーカーは、部品表と個々の部品コストを共有しない。しかし、筆者はそれらを共有すべきだと考えている。部品表と部品コストが共有されていない場合、次のような問題が発生する。
- 部品の増減や仕様(材質、製造方法、体裁など)が変更になってもコスト的な対応ができない
- お互いのコミュニケーションが取りにくい
設計過程はもちろん、量産開始後も不良の改善やコストダウンのために設計変更が行われる。このような場合、部品コストも変更されることがあるが、部品表と部品コストの情報が共有されていなければ、どの部品にどれだけのコスト変動があったのか、スタートアップには全く分からない。
一度取り決めた製品コストを変更しないのであれば、それでも問題はない。ただし、可能であれば双方が納得できる製品コストとしたい。そのためには、部品表とともに部品コストも共有した方が、より良好な信頼関係を構築できる。特に、量産中にスタートアップからコストダウンを依頼した場合には、その削減されたコストの把握が重要となる。
もう一つの問題は、お互いのコミュニケーションが取りにくくなることだ。ODMの場合、情報のやりとりは主にメール、電話、Web会議で行われるため、部品名称が不明確だと誤解が生じやすい。筆者もこれを何度も経験している。そのため、部品名称を記載した部品表は、共有すべきである。 (次回へ続く)
筆者プロフィール
オリジナル製品化/中国モノづくり支援
ロジカル・エンジニアリング 代表
小田淳(おだ あつし)
上智大学 機械工学科卒業。ソニーに29年間在籍し、モニターやプロジェクターの製品化設計を行う。最後は中国に駐在し、現地で部品と製品の製造を行う。「材料費が高くて売っても損する」「ユーザーに届いた製品が壊れていた」などのように、試作品はできたが販売できる製品ができないベンチャー企業が多くある。また、製品化はできたが、社内に設計・品質システムがなく、効率よく製品化できない企業もある。一方で、モノづくりの一流企業であっても、中国などの海外ではトラブルや不良品を多く発生させている現状がある。その原因は、中国人の国民性による仕事の仕方を理解せず、「あうんの呼吸」に頼った日本独特の仕事の仕方をそのまま中国に持ち込んでしまっているからである。日本の貿易輸出の85%を担う日本の製造業が世界のトップランナーであり続けるためには、これらのような現状を改善し世界で一目置かれる優れたエンジニアが必要であると考え、研修やコンサルティング、講演、執筆活動を行う。
◆ロジカル・エンジニアリング Webサイト ⇒ https://roji.global/
◆著書
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