自社オリジナル製品のシーズ探しから量産するまでのステップ【前編】:ODMを活用した製品化で失敗しないためには(15)(1/2 ページ)
社内に設計者がいないスタートアップや部品メーカーなどがオリジナル製品の製品化を目指す際、ODM(設計製造委託)を行うケースがみられる。だが、製造業の仕組みを理解していないと、ODMを活用した製品化はうまくいかない。連載「ODMを活用した製品化で失敗しないためには」では、ODMによる製品化のポイントを詳しく解説する。第15回は、スタートアップが自社オリジナル製品を作ると決めてから量産を開始するまでのポイントを時系列で紹介する。
これまでの連載では、自社オリジナル製品をODM(設計製造委託)するためのいくつかのポイントを深掘りして解説してきたが、製品化全体の流れは理解しにくかったかもしれない。そこで本稿では、スタートアップが自社オリジナル製品を作ると決めてから量産を開始するまでを、時系列で解説する。
今回は【前編】として、「1.シーズ探し」から「6.製品仕様書の作成」までのステップについて取り上げる。
ステップ1 〜シーズ探し〜
スタートアップが自社製品を作るためのシーズ探しには、主に次の3つのパターンがある。
- 出会った大学の研究室のシーズを活用する
- 自社の得意技術を活用する
- ある社会課題を解決するために適した技術を探す
1.は、大学が研究開発した技術を製品化したい場合や、スタートアップが大学の開発品と出会った場合に、どちらかが協業を申し出るものだ。ほとんどは開発がまだ完了しておらず、製品設計を開始するには時期尚早な場合が多いため、協業するスタートアップは開発完了までをサポートする必要がある。2.は、自社技術をどのように製品に実装するかの点(例えば、小型化するなど)で開発要素がある場合が多いため、それを自社で完了させてから製品設計を開始したい。両者とも、開発完了の見極めは重要である。
1.と2.ともに、開発がまだ完了していない技術を製品設計に持ち込んでしまうと、日程は延び、設計コストは増大し、企画で計画した通りに製品設計が進まなくなる。この見極め方については、連載第11回「しっかりと把握しておきたいODMに必要な費用」を参照してほしい。
また、このように技術先行で製品を作る場合、「創りたい市場」がないまま設計が進んでしまいがちなので注意したい。「創りたい市場」がないまま設計が進むと、投資家や設計者などの協力者を得にくくなるだけでなく、顧客の心もつかめず、製品は売れない。この技術を使った製品でどのような市場を創りたいのかを、製品企画の段階でよく考えてから設計を開始すべきだ(参考:連載「ベンチャーが越えられない製品化の5つのハードル」の第2回「何のために製品を市場に出しますか?」)。
3.はアントレプレナーによく見られる。起業もしくは社会貢献が主な目的であるため、製品(モノ)に対してあまり強い関心がない場合が多い。自社製品をいったん市場で販売すると、顧客が製品を廃棄するまでの間、スタートアップは顧客クレームや修理などの責任を負わなければならない。法的にも製造物責任があり、製品はまるで自分の子供のようなものなのだ。企業としてこれらに十分に対応するには、製品に対する強い興味が必要であることを知ってほしい。
ステップ2 〜製品企画書の作成〜
製品企画書は、「創りたい市場」を書くことから始まる。その内容は、この製品でどのような社会問題を解決したり、人にどのような便利さや幸せを提供したりするかである。これを明確にすることによって、製品の仕様/生産台数/コストが決まり、さらにデザインや設計内容までも定まってくる。単に、面白い技術を持つ製品を作って有名になりたいや、たくさん売ってお金をもうけたいというだけでは、製品設計はできない。
ステップ3 〜資金調達〜
製品を設計し、市場で販売するには資金が必要だ。筆者が最近、製品設計を支援したハンディーサイズの測定器では、機構と電気、ソフトウェアの設計/検証費用と金型費(参考:連載「ベンチャーが越えられない製品化の5つのハードル」の第9回「知らないと取り返しがつかなくなる金型の費用と作製期間の話」)などを含め、合計でおおよそ7000万円の費用がかかった。樹脂で部品を作る場合には金型が必要であるが、金型費を理解している人はほとんどいない。製品設計を開始する前には、おおよその費用を算出しておく必要があるため、専門家に相談すべきである。
資金集めには、投資家から資金を調達する方法と、国の補助金を活用する方法がある。現在は、製品の宣伝も兼ねられるクラウドファンディングの活用が有効である。いずれの方法においても出資者から賛同を得るためには、前述の「創りたい市場」を明確にする必要がある。加えて、投資回収やビジネスモデルなども重要であり、これらを製品企画書に記載する。
昭和の時代のように、「良い技術の製品を作れば自然と売れる」と考え、量産を開始すればそれで終わりだと思っている人もいる。しかし、営業をしなければ製品は売れない。営業活動にかかる費用やWebサイトの作成費用、展示会への出展費用も、資金調達の段階で念頭に置いておくべきである。
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