機械式駐車場からエンドツーエンドまで、ボッシュが日本で取り組むAI開発:自動運転技術(2/2 ページ)
Robert Boschの日本法人ボッシュは2024年、横浜市都筑区に新本社を開設した。複数の拠点に点在していた従業員を集約するとともに、研究開発設備を拡充。日本の取引先のニーズに対応した開発を強化している。
エンドツーエンドAIの実証を日本でも
エンドツーエンドAIをベースにした自動運転技術も日本での公道実証を進めている。エンドツーエンドとは、周辺環境の認識から車両の走行経路の生成までの認知/判断/操作の一連の流れを大きなニューラルネットワークで処理する方式だ。
ボッシュはエンドツーエンドAIをベースにしたADASスタックの量産化に向けて、2024年秋から東京や横浜でレベル2の自動運転システムの試験走行を開始した。左側通行での走行に加えて、交通標識の認識や大小さまざまな車両の認識、坂道での速度の調整、路上駐車の回避、複雑な交差点での判断など都市部に特有の道路構造や交通事情への対応に取り組んでいる。
ボッシュのエンドツーエンドAIは中国で走り込んでいるが、欧州でCARIADと開発した技術をベースにしている。それを日本にも持ち込み、最終的にはグローバル展開していく。ボッシュのエンドツーエンドAIの担当者は「日本にはユニークな道路環境が多く、欧州だけで開発していてもままならない。ドライバーエクスペリエンスは日本でも高めなければならない。エンドツーエンドAIは横浜辺りでは一部走れるようになっている。今後はさらに進化させて、どこでも走れるようにしていく」と説明した。
エンドツーエンドAIには2パターンあるという。1つは大きなAIによるブラックボックスで、周辺環境の認知に関する情報をインプットすると、車両の操作に関するプランニングがアウトプットされる。車線が認識されなくなったなどの場面で、認知/判断/操作の一連の流れがエラーで中断されない点が強みだが、問題が起きたときに人間が内容を理解したり解析したりするのが難しいのがデメリットだ。
ボッシュはモジュールアプローチで取り組んでいる。「認識」「センサーフュージョン」「予測/計画」という3つのモジュールで構成する。認識やセンサーフュージョンのモジュールは事前学習を行う。AIが学習した拡張インタフェースで連携し、全体を通したエンドツーエンド学習も行う。モジュール間のやりとりは人間が分かる形で確認でき、レイヤーごとに何をやっているか細分化して解析することもできるなど、制御と解釈が容易になる。
これまでは画像認識にAIが活用されてきたが、複雑化するADASの性能向上には限界があり、AIを拡張するエンドツーエンドAIの必要性が高まっているという。
エンドツーエンドAIは、従来のルールベースのAIに比べてきわどい場面やあいまいな場面の判断が得意だとされている。決まった振る舞いしかできないルールベースのAIよりも人間らしい対処が可能になり、安心して任せられるようになるという。
AIと“かもしれない運転”
画像認識に解釈を加えるための「ファウンデーションモデル」の開発も進めている。既存の画像認識技術では、画像のどこに何があるかまでしか把握できない。ファウンデーションモデルは、状況に応じた予測と解釈を可能にするための技術だ。
歩行者が見えているとき、前を走る車両が不安定な挙動を継続しているとき、バス停に止まっているバスを追い越すときなど、人間は次に起こりうる状況を予測しながら“かもしれない運転”をしている。速度を落として様子を伺ったり、こちらに向かって飛び出してくることを警戒したりする。ファウンデーションモデルでは画像に言葉を付加して“かもしれない運転”を目指す。ADASや自動運転が人間の運転操作に近づき、安全性や快適性を向上できると見込む。
ファウンデーションモデルはAIのモデルとしては規模が大きく、現時点では車載化は難しい。ただ、車両に搭載する効果は大きいと期待し、これまでの量産の経験やSoC(System on Chip)プロバイダーとの協力によって量産を目指す。
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