検索
ニュース

バーチャルツインがもたらす医療の新常識 心臓治療も脳薬投与もまずは仮想空間でCAEニュース(3/3 ページ)

ダッソー・システムズは「医療分野におけるバーチャルツイン」に関する記者説明会を開催し、バーチャルツインの定義やライフサイエンスおよびヘルスケア領域での役割、具体的な導入事例、将来の展望について紹介した。

Share
Tweet
LINE
Hatena
前のページへ |       

事例3:インシリコ治験による医療機器評価

 ダッソー・システムズはFDAと連携し、医療機器分野におけるインシリコ(in silico)臨床試験のPoC(Proof of Concept/概念実証)にも取り組んでいる。

 このプロジェクトでは、学術機関、産業界、臨床現場、行政機関などから構成される国際的かつ学際的なグループを組織。FDAが策定したガイダンス「医療機器申請における計算モデリングとシミュレーションの信頼性の評価」に準拠し、インシリコ臨床試験の標準的な設計手法を定義した。

 さらに、3つの審査委員会の監督の下、実施時に想定される課題を評価/記録するワーキンググループを設置した。その具体的な検証ケースの1つとして、ダッソー・システムズの「Living Heart Model(バーチャル心臓モデル)」を用いた事例が紹介された。

ダッソー・システムズの「Living Heart Model」を用いたプロジェクトについて
ダッソー・システムズの「Living Heart Model」を用いたプロジェクトについて[クリックで拡大] 出所:ダッソー・システムズ

 対象疾患は僧帽弁閉鎖不全症である。この疾患は、加齢などにより僧帽弁が正常に閉じなくなることで血液が逆流し、脳卒中などの原因となることがある。治療には、僧帽弁の修復が必要とされる。

 このプロジェクトでは、実患者の医療画像データを基に、疾患を含むバーチャルな心臓モデルを構築。そこに次世代型の医療機器(弁のクリップ)を装着し、その効果をバーチャルツイン上で評価した。なお、この弁クリップは、低侵襲手術により心臓弁に取り付けられ、血液の逆流を防ぐものだ。

 さらに、AI(人工知能)技術を活用して、弁のサイズや心臓の形状を変化させた複数のバーチャルペイシェントを生成し、仮想的な「コホート(患者群)」を構成。そこに対して、実際の治験と同様の適格基準および除外基準を適用した上で、機器の効果をバーチャルで検証した。

 その結果、全体の68%のバーチャルペイシェントが「成功」と判定された。ここでの成功とは、逆流の程度が1〜2段階改善された状態を指す。一方で、重度の逆流が残存した症例については「成功とは見なされない」と評価された。

AI技術を活用して複数のバーチャルペイシェントを生成してコホートを構成し、クリップの効果を検証した
AI技術を活用して複数のバーチャルペイシェントを生成してコホートを構成し、クリップの効果を検証した[クリックで拡大] 出所:ダッソー・システムズ

 この研究の成果は、他の医療機器にも応用可能な手法として一般化されており、2024年8月には査読付き学術論文として発表された。これにより、規制当局に対しても、インシリコ臨床試験の具体的な活用方法を体系的に示すガイドとして機能する成果物となっている。

 「今回紹介した複数の事例が示すように、ダッソー・システムズは製品開発にとどまらず、医療上の意思決定や診断支援においてもバーチャルツイン技術を積極的に活用している。これらの取り組みは現在も研究プロジェクトとして進行しており、将来的にはより多くの医療分野への応用が期待されている」(ビオ氏)

⇒ その他の「CAE」関連ニュースはこちら

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

前のページへ |       
ページトップに戻る