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バーチャルツインがもたらす医療の新常識 心臓治療も脳薬投与もまずは仮想空間でCAEニュース(2/3 ページ)

ダッソー・システムズは「医療分野におけるバーチャルツイン」に関する記者説明会を開催し、バーチャルツインの定義やライフサイエンスおよびヘルスケア領域での役割、具体的な導入事例、将来の展望について紹介した。

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 以上のような背景を踏まえ、ビオ氏はバーチャルツイン技術の応用による具体的な事例を紹介した。

事例1:中枢神経系疾患への薬剤送達を支援

 初めに紹介されたのは、中枢神経系、すなわち脳や脊髄に関連する疾患へのアプローチを進める大手バイオファーマ企業における事例である。

バイオファーマ企業の事例(中枢神経系疾患への薬剤送達のアプローチ)
バイオファーマ企業の事例(中枢神経系疾患への薬剤送達のアプローチ)[クリックで拡大] 出所:ダッソー・システムズ

 中枢神経系の治療では、薬剤を脳へ届けるために「血液脳関門(blood-brain barrier)」と呼ばれる、生体防御機構の通過が必要となる。これは、血液中から脳組織への物質移行を厳しく制限するバリアであり、抗体や幹細胞などの治療薬が脳に到達するのを妨げる。結果として、経口投与や静脈注射といった通常の投与方法では、十分な効果が得られない恐れがある。

 このため、事例企業では、薬剤を脊髄に直接注入するというアプローチを採用した。しかし、その際の課題となったのが、「脊髄のどの部位(T10、T6、T1)から投与するのが最も効果的か」という点である。注入ポイントによって薬剤の分布パターンに大きな差異が生じてしまうためだ。

 脳脊髄液は自律的に循環しているわけではなく、主に呼吸運動や重力の変化によって流動する。つまり、投与された薬剤がどのように拡散/移動するかを把握するには、複雑なシミュレーションが不可欠である。

 そこで、ダッソー・システムズのバーチャルツインの技術を活用し、仮想環境上で人間および非ヒト霊長類(猿やチンパンジーなど)のモデルを構築し、脳脊髄液中での薬剤挙動を可視化。薬剤が注入部位からどの程度上方に到達し、脳の目標部位に達するかを定量的に解析、評価することが可能になった。

 このモデルは人間と非ヒト霊長類の両方を対象に構築され、シミュレーションの結果が既存の動物実験データと非常に高い一致を示したという。その成果により、非ヒト霊長類による動物実験を行うことなく、倫理的かつ供給面の課題を回避しつつ、臨床段階への移行を迅速化することが可能になったという。

事例2:合成対照群を用いた治験の高度化

 次に紹介されたのは、バイオファーマ企業による臨床試験(治験)に関する事例である。

バイオファーマ企業の事例(合成対照群を用いた治験の高度化のアプローチ)
バイオファーマ企業の事例(合成対照群を用いた治験の高度化のアプローチ)[クリックで拡大] 出所:ダッソー・システムズ

 治験では、新規の治療法(治験薬)と、現在一般的に使用されている標準治療(Standard of Care)とを比較する必要がある。標準治療も、かつては承認を得るために臨床試験を経てきた経緯がある。

 「この分野における臨床データ活用のリーダーが、ダッソー・システムズの子会社であるMedidata Solutionsだ」とビオ氏は述べる。Medidata Solutionsは、過去に実施された多数の治験データを保有しており、それらを活用して「バーチャルペイシェント(仮想患者)」を生成。これを実際の対照群の代替として使用する手法が、「合成対照群(合成コントロールアーム)」と呼ばれる。

 がん領域における適用例として、米国のがん研究機関「Friends of Cancer Research」と共同で行われた研究が紹介された。研究結果によると、実際の患者群とバーチャルペイシェント群の生存率カーブは極めて高い一致を示しており、新たな治療法の効果を、既存治療と比較する上で十分な信頼性を持つことが示されたという。

 「このアプローチは、米国食品医薬品局(FDA)や欧州医薬品庁(EMA)などの規制当局の支援の下、複数のバイオファーマ企業で実用化が進んでいる」(ビオ氏)

 合成対照群のメリットとしては、治験期間の短縮、有望な治療薬の早期患者提供に加え、倫理的負担の軽減にも貢献する点が挙げられる。特に、適切な標準治療が存在しない重篤疾患においては、有力な代替手段となり得る。

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